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□大切な話
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「あぁ…そう言えば商店街で…」
「そうじゃよ!」
「すいません、忘れてて」
「うぅぅぅぅぅー」
「いい子いい子いい子」
矢部は石原をソファーに座らせ、彼の肩をぽんぽんと叩き、なだめた。
「それよりさっきの聞こえちゃったんですけど……本当ですか」
「いや、だからのっ?それはー」
「こいつも本気なんや」
「兄ぃ!やぁぁぁー」
「う、うざっ!」
再び矢部の背中に顔を埋め隠れると奈緒子は静かに口を開いた。
「あの……嬉しいですよ」
「え?」
「男の人に想われたことないんで素直に嬉しいですよ」
体を起こした石原の顔が少し輝いた。
それも短い間だったが。
「でも……」
「やぁぁぁぁぁあ」
「……ごめんなさい」
「…………」
「あぁーあーお前ー」
「いや、石原さんはす、素敵ですよ?その、オールバック!オールバックとか!ね?今は崩れかけてますけど」
石原は櫛で髪をとかしつつ、眉間に皺を寄せ、泣きそうな顔で俯いた。
「私は…」
「上田センセやろ」
「は?」
「やっぱお前上田センセと付きおうとったんか!」
興味津々の矢部の顔が輝いた。
「はぁ?!違う!何を言い出すんだ!」
「ほんまのこと言えやーそうなんやろ?」
「ありえない!ありえないですよあんなでかぶつで巨根の変態なんか」
「きっついのぉーお前。上田センセも石原もかわいそー!」
「あ、兄ぃ…?楽しんどるじゃろ…」
頭をぽりぽり掻きながら落ち込んだ。
「はははははー!楽しいよ」
「嫌いじゃないですよ、石原さんは。上田さんは嫌いですけど」
嫌い嫌いも好きのうち…。
嫌いじゃないは好きでもない、うち…。
石原の頭にはそれしか浮かばなかった。

がちゃ

上田だ。
「やぁぁぁぁぁ」
「なにやらみなさん楽しんで……は、いないみたいですね」
「見ればわかるじゃないですか」
「石原さん?どうしたんですか?」
その場にいなかった上田がわからないのは当然である。
「いや、なんでもないんじゃよ…」
「そう、ですか。ならいいんですけど…」
「上田!遅いぞ!」
「仕方ないだろう?YOUが勝手に寝て変な寝言を言うせいで授業が一時中断したんだ」
奈緒子は頬を膨らまし、横に立っている上田を見つめた。
「うぅ…」
石原は胸が傷んだ。
「石原ぁーお前しっかりしぃーやーもぉ」
「本当に大丈夫ですか?」
「いやぁーこいつね」
「矢部!どうでもいいだろっ」
「おぃYOU!……まぁ気にしないでください、無理には聞きませんから」
満面の笑みを浮かべ、石原をみて、石原は違う意味で泣けてきた。
上田はソファーの右側に座っていた奈緒子をしっし、とやるように奥に座らせ、石原の真正面に座った。
「ほんでセンセ、大事な話と言うのはなんなんですか?こんなみんな集めて」
「いやぁー実はですね」
「痔か?」
「をぉぃ!違うっ!」
奈緒子はすかさずボケると、回りも続けた。
「だから実は……」
「もうすぐ…死ぬんかいのう?先生」
「そんなわけないでしょう!」
「だからー」
「あ!結婚されるとか?」
「は?」
みんなが目を見開き、上田を見た。
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