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□夢のまた夢
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「とりあえず…店…変えるか」

何もしゃべらずに並んで歩き、別のおしゃれな店に入った。
穏やかな曲が流れ、人の出入りも少ない。
ゆっくり時間を過ごせる空間だった。

「お待たせいたしました、珈琲とアイスティです」

運ばれてきたアイスティを一口飲んで上田を見た。
上田は珈琲片手に何も聞かず、窓の外を眺めている。

「上田さん…」
「……ん?」
「あの……」

いつもと違う奈緒子を感じながらどこかくだらないことであって欲しいと願った。

「…………どこにも…行かないでくださいね」
「……は?」
「だからっ…どこにも…行って欲しくないんです」

上田は思わず珈琲を吹き出してしまった。

「ゴホッゴホッ……なんだよ、いきなり」

顔に出さぬように平気なふりをして、溢した珈琲を拭いた。

「夢を…見たんです」
「……夢?どんな?」
「…上田さんが…いなくなっちゃう夢です」
「ふっ、くだらん。たかが夢だろう」
「ただの夢じゃないんですよ。とにかく………上田さんがどこかへ行っちゃったら…もう…二度と会えなくなると思うんです」
「……そんなことある訳ないだろ」
「わかりませんよ?私の夢、当たるんです」
「……。それならそれでお互い…好都合だろ」
「私が嫌なんです」

きっぱりと言い放つ奈緒子に上田は妙な気分がした。
嬉しいのか、悲しいのか。

「………確かに、近々アメリカへ行かないかと誘われているんだ…」
「アメリカに?」
「ちょっとした…研究でな」
「ふーん……」
「その夢がどんな夢か詳しくはわからないし俺には関係ない、現実になんてならないよ」
「……」
「君の予想が外れて元気に帰ってきた時には思いっきり笑ってやる」

上田はそう言って笑って珈琲をごくっと飲み干した。

 
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