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□七夕祭り
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待ち合わせ場所へ向かうと既にあの人は待っていた。
あの人もいつもと違う。

意を決して足を進めた。


「上田。…さん」

珍しい姿。

「…おう」
「……」
「……」

まじまじとその姿を見つめてしまった。

「…すみません、待ちましたよね」
「いいや、別に」
「なら…いいですけど」
「…行くか」
「はい」

男女2人して浴衣。
やばい、私たち恋人同士に見えてしまう。

でも歩くうちにそんなことどうでもよくなって、なんだかこれも新しいと思った。

「…なんか…変な感じですね…お互いこんな格好して」
「祭りといえば浴衣だろう。事前にお義母さんに連絡しといたんだよ。せっかくだからな」
「…。(この野郎!)」
「たまにはいいだろ、こういうのも悪くない」
「……まぁ…」

お祭りは賑わっている。
この町にもこんなに人いたんだ、ってくらい。

しばらくすると視線を感じ、横を見た。

「……なんですか。そんなにじろじろ見るな」
「…別に」
「……。上田さん、意外と浴衣似合いますね」

なんてことを言ってしまったんだろう私。

「まぁな」
「……」
「YOUにいい話をしてやろう。女性は昔から着物や浴衣を着る際には和装用下着や、あとはガーゼなんかで胸を抑えるだろ、それはそうすることでその姿が美しく見えるからだ」
「……はい」
「そして今日のYOUみたいに髪を結い上げうなじを見せる事で一層美しく見える」
「……はぁ。(なんの話だよ)」
「大抵の女性は着るとき時間が掛かるがその点YOUは胸を抑える手間が省けるじゃないか」
「……」
「良かったな、貧乳で」
「あぁ〜あ、なるほど〜良かった貧乳で〜…って良くないだろ!?」

あぁ…こんなことなら来なきゃ良かった。

今日くらい良いか、と思っていたけど。

「なんで」
「さっきから聞いてりゃなんなんですか。ひん…にゅう…だからどうとか、馬鹿にしてんですか」
「なんだよ、褒めてやったのに」
「はい?いつ何を?!ただひん…にゅうで…寸…胴…だからって…ば、馬鹿にしやがって」
「要するに…似合ってるって言っているんだよ。その浴衣」

この男はいつもよくわからない。

「わかりにくっ!なんだ、似合ってるっていうなら…もっと…わ、わかりやすく言え。回りくどいぞ」
「貧乳でも似合う」
「………本当に褒めてるのか」
「いや、貧乳だから似合う、だな」
「1人で納得するな」



屋台が並ぶ道を歩きながら小さくため息をついた。



こんな関係がもう何年も続いているけど、褒められるのはごく稀だったからなのか
怒りはすぐに収まった。


複雑な気分。


でも…


簡単に許してしまう
私はバカだ。


今までだって何を言われても結局力を貸してきた。


報酬、得する何かを貰えるからじゃない。


もっと違う何かだと思う。




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