記念

□リボツナ誕
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一枚壁を隔てて接吻

*その男、真逆に位置して微笑む光*






金。
金とは即ち生きていく上で必要不可欠なものであり、人類の発展を語る上でなくてはならないものであり、リボーンにとっては意識せずとも手の内に必ず収まっているものであった。
ボンゴレ大財閥のお坊っちゃまとしての地位だけでなく、その抜群のプロポーション、加えて魅惑の甘いマスクでメディアに取り上げられ一躍国民の有名人となったリボーンだ。
17歳にして驚異の青年である。
右に出るものが居なければ左に出るものも居ない。
頂点に君臨しているのはリボーン様であるので、勿論の事ながらに上に出るものは居なかった。
只し、下に這いつくばるものならば沢山いよう。
成金の様に、靴が汚れていようものならば金で拭く。
貧乏人から考えれば理解できないその常識。
人々はその常識外れの常識に感嘆の声を上げ、リボーンからの視線が欲しくて彼を崇め立てる。
何と滑稽な事か。
王制でもないこの国で、国王のように褒め称えられている自分。
市民と同じ空間にいて、呼吸を繰り返すだけで懐に入ってくる金。
リボーンはその現状を見ると思わず笑ってしまうのだ。
ああ、世の中って案外チョロいよな、と。
この男、実に世の中をナメ腐っている。


しかし反対に、そのリボーンの常識をものともしない少年というのもこの世には存在するのだ。
沢田綱吉、17歳。
両親を15歳の時に事故で亡くし、一人雨も風も十分に凌げないオンボロアパートで暮らしている。
高校には行っていない。
毎日が死活問題なのだ。
そんな悠長な事に時間をかける事よりも、今は金を稼ぐ事が第一条件なのである。
生きる為には毎日を食い繋がなければならない。
毎日を食い繋ぐ為には食い物を買う金を稼がなくてはならない。
だからリボーンだかリスボンだか知らない奴の裕福自慢を聞くよりも、そんな生産性の無い残念な人間を憎んだり羨むよりも、まず労働に勤しまなければならないのである。
例え火の中水の中、稼げるのなら何処へでも!それが綱吉のモットーであり座右の銘であった。
正月は郵便局へ足を運び、夏場は海やプールの監視員のお兄さんになって日焼けをしたり、普段はスーパーとコンビニとケーキ屋でバイトをしている。
ファミレスはクビになった。
あまりに良い匂いなもんだから、客の目の前で滅茶苦茶物欲しそうな顔をしてしまったからだ。
綱吉は店長からお叱りを受け、「仕方ないじゃないですかぁ!俺はここ3日何も食べていないんですよ!」と怒鳴り返した結果、クビになった。
本来なら、両親が亡くなったからといってここまで稼ぐ必要はない。
ボロアパートの家賃くらいが関の山だろう。
だが運命というものをなめてはいけない。
運命というものは、石の様に転がり始めたら止まらなくなる。
どんどんどんどん落ちていって深みにはまってしまう。
綱吉は不幸な青年なのである。
人が良すぎる父親が生前親戚の叔父さんの借金の保証人になっていただなんて誰が予想しただろうか、いやしない。
平凡で幸せな日々の裏側には恐ろしく冷淡な現実が隠れていたのだ。
綱吉はその現実を突きつけられた時人生で初めての絶望というものを身を持って知った。
嫌な大人の階段の駆け上がり方だ。
軽く6段はいったに違いない。
綱吉は思わず笑ってしまった。


そしてこのお話は美しく透き通った水のような少年と、汚く濁った使い古した油のような青年の、お金と愛をかけたお話だったりしなくもなくもなくもない。











その日は物凄く風の強い日で、物凄く雨の強い日で、まあ所謂台風というものが本土に接近していた日であった。
綱吉は客の来ないコンビニのレジを一人で受け持ち(同じシフトに入っていた先輩は台風の影響で来られないと先程電話が掛かってきた)週刊少年漫画をペラペラと捲っていた。
眠いので、欠伸を一つ漏らしながら大して面白くもない漫画を眺める。
ちょうど主人公が敵と闘っていて負けそうになり、走馬灯が駆け抜けてそれがやる気に繋がるというシーンだ。
綱吉には友達と呼べるような関係の人間は居ないので、どうにも理解し難い内容だった。
少年漫画は分からない。
かといって少女漫画が分かるかといったらそうでもない。
寧ろ恋愛の方が縁がないくらいだ。
もはや出会いってなにそれ、美味しいの?の域である。


そう綱吉が思っていた時、店内に音楽が鳴り響いた。
これは客が入店した時に掛かる入店音だ。
全く外は大荒れだというのに、何処の暇人がコンビニなんかに足を運んでいるのだか。
こういう日は家でゆっくりしておくべきである。
いや、綱吉は今声を大にしてそうお勧めしたい。
何故なら働きたくないから。
レジを打つのが面倒臭くて仕方がないから。


「いらっしゃいませ〜」
「シケた店だな」


顔もあげずに綱吉が口を開けば、返ってきた言葉。
予想外過ぎる出来事に思わず綱吉が顔を上げれば、見知った顔がそこにはあった。
さらに思わず、綱吉の口がだらしなく開く。
正面に現れた青年。
超のつく程の有名人。
あの、いつぞやテレビで「俺の前に跪け愚民共」とのたまわったお坊ちゃん、リボーン様ではないか。
これはテレビを持っていない綱吉でも知っている程有名な暴言だ。


「店員もシケた面してやがるぞ」


後ろに使用人を二人連れて現れたリボーン様は、男も見惚れてしまう程に格好いい。らしい。
綱吉にとってはどうでもいいことこの上無いが。
ニヤリと笑って見せた世間知らずの井の中の蛙を身を持って示しているリボーンに、綱吉は何だこいつ何でコンビニ何かに来てんの庶民見物?台風の日に態々?うぜー。と批判的な目で見つめ返した。
しかしそんな綱吉の態度にはリボーンも驚いたようだ。
何せこんな反応を返した庶民は初めて。
前にも後にも綱吉だけだろう。


「何のご用でしょう?」


乾いたわざとらしい笑みを浮かべて対応する綱吉に、リボーンは感心したように頷いてから店長は何処かと聞いた。


「申し訳ございません、店長は只今不在でして」
「ならお前が代わりに伝えろ。来月でこの店は閉店する。ここはボンゴレ財閥が買い取ったからな」
「はいい?!何をいきなり!困ります、俺が!」


折角続いていたバイトなのに、なんという悲劇。


「てめえの事情なんざ知るか。それにもう買い取り済みだ。それでも1ヶ月待ってやろうっつってんだ。ありがとうございます、だろうが」
「あのねぇ!」


大財閥のお坊ちゃんはまるで借金取りかのように横暴だ。
信じられない、と綱吉は目の前の悪魔に憤りを感じる。


「お前、見たとこ高校生だろ?台風で休校の時までバイトか?」
「残念ながら高校は行ってません」
「中退か?」
「貴方には関係ないでしょ、俺みたいな貧乏庶民の事なんて!」
「まあ、そうだな」


けろりと下したリボーンに、綱吉はムッと表情を歪める。
そんな綱吉を見て、リボーンは愉快そうに嫌みったらしい笑みを浮かべた。


「そういうことだから、伝えとけよ。サワダ」
「んなっ!?」


チャオ!とウインクしながら台風の中帰っていくリボーンに鳥肌をたてて綱吉は思った。
アイツ、キライ。と。
だが思ったところでどうなるわけでもないのだ。
綱吉は諦めも早い。
仕方なく何事もなかったかのように腰を下ろして、再び少年漫画に目を向けた。


これがこの二人の奇跡の出会いなのである。


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