記念

□ものぐさちゃんときっちりくん
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今日は土曜日だ。
恋人に会えるよう、スカル自身で調整した日だ。
恋人といっても男だしズボラだしとんでもなく物臭だしダメ人間だし、しょうもない奴だけれどもスカルにとっては世界一、否、宇宙一愛している恋人であった。
本人には口が裂けても言えないが。

今日は誕生日だ。
今まで誕生日なんかどうでもいいと思っていたがあの恋人が自分に対して何かしてくれる日だと思えば俄然愛しく思えてくる。
綱吉は誕生日くらいにしか気を使ってくれない。
そっけない、というよりも面倒くさいといった所か。
兎に角、誕生日でさえ毎年念を押さないと忘れるくらいなのだ。
今年は綱吉のカレンダーにでかく赤丸を書いてきたが、スカルに安心できる要素なんてのは一つもなかった。
綱吉はスカルの考えを余裕で飛び越えていく。
単純なくせして脳内回路がぐっちゃぐちゃで本人にも理解できなくなっている始末。
手におえない。
手におえないのだが、そこがまた守ってやりたくなるというか過保護にしたくなるというか。
スカルは綱吉と正反対で、綱吉に潔癖と言われる程キッチリ物事を整理しなければやっていけない性格であった。
まあ潔癖と言っているのは綱吉だけで、他の人間から言わせれば人より少し几帳面だよねという程度だ。
その筈である。
そんな性格が祟ってか、スカルは最近綱吉の世話が楽しくなってきている事に気が付いた。
せっかくの土曜日を綱吉の家の掃除に費やし、洗濯をしてやる。
夕飯は綱吉が作ってくれるが、後片付けはスカルの仕事だ。
初めての頃はそれこそ怒りを覚えていた筈なのに、綺麗になった綱吉の部屋を見て満足げに頷いてしまった時には流石のスカルも何をやっているんだ俺は……と遠くを見つめてしまった。
しかし良いこともある。
あの自由奔放で人の支配下につかない綱吉を些細な事で自分色に染め上げていけるのだ。
例えば洗濯ついでにスカルの好きな香りの洗剤を使うだとか、似合うであろう服をさりげなく置いておけば「あれ俺こんなのいつ買ったっけ?」と馬鹿な事を抜かしながら着てくれたりする。
アホでも可愛い所が綱吉の長所だった。
そしてスカルも独占欲が人一倍強いので丁度いいのかもしれない。



スカルは水槽に泳ぐ蛸に餌をやってから、バイクのキーを手に取った。
携帯を確認してから家をでる。
メールが何通か届いているが、どれもこれも綱吉以外の人間から。
綱吉以外には興味ない。
顔も思い出せない女やら、仕事付き合いの人間やらから誕生日を祝われてもスカルの心が満たされることは無い。
綱吉のあの無邪気な笑顔でなければ、駄目なのだ。



出会いはそう、小学校の入学式。
家が近所だという事もあって良く遊ぶ仲であったしお互い人見知りということもあって友人は少なく、お互いがお互いだけいればいいと考えていた。
中学もそのまま進級して、高校もスカルが綱吉に合わせて選び、気付いたら恋人同士になっていた。
恋人同士になってからも極度のものぐさである綱吉がキスだのその上だのは未だ早い!と言い切って初めの頃は手しか握らせてくれなかった。生き地獄である。
その清い関係を漸く断ち切れたのが去年の誕生日だった訳だが。

はあぁ、とスカルはため息を吐き、マンションのエレベーターに乗り込んだ。
今年は何をしてくれるんだろうか。
期待と不安が入り交じる。











スカルの好きなご飯は肉じゃがだ。あと恋人に作らせるなら家庭的な料理が好ましいらしい。
中学の頃そう言っていた。



「んー……冷蔵庫の中身あんまない」



というか全然ない。
すっからかんだ。
掃除を早々に終えた綱吉は(雑誌を積み重ねて他を押し入れに突っ込んで掃除機をざっとかけただけである)今度は冷蔵庫の中を見て唸っていた。
その時、綺麗になったテーブルの上で携帯が鳴る。
バイブ音に驚いた際に足を冷蔵庫の扉にぶつけて綱吉は悶えたが、何とか床を這って携帯を取りに行った。



「〜〜〜ッ!!は、はいぃ!」

『……なんだその返事は』

「い、いや、足をぶつけちゃって!あははは……」

『まあ何でもいいが。アンタ今日が何の日か覚えてるだろうな?』

「勿論!スカルの誕生日だろ?忘れるなんて無粋はしないよ!」



へらへらしながら答えれば、受話器の向こうが冷気を帯びた気がした。
その後で、呆れたような空気に変わる。
どうやら彼はすべてお見通しのようだった。
申し訳ない。



『アンタな、バレる嘘はやめろって常々言っているだろうが。それに嘘は嫌いだ』

「ううぅ……ごめん」



何だかんだ言っても、スカルに怒られれば素直に謝るのが綱吉だ。
部屋の汚さなどを怒られるのには慣れているが、嘘は流石に駄目だと理解している。



「あっ、そうだ!今夜はスカルの好きな物作ってやるよ!だから、そのう……」



シューンとしつつ、何とか話題を変えようと綱吉は明るく声を変えて言った。
だが先が出てこない。
それを不審に思ったのか、スカルが先を促す。



『何だ、ハッキリ言え。因みに俺は今夜カレーが食べたい』

「あぁ、そう……、そう、じゃなくて」



スカルが何を食べたいのかで悩んでいたのではなくて。



「ざ、材料が家に無い……」



えへっ、と誤魔化し笑いを浮かべてみる。



『……その様子じゃ、カレーの材料だけが無いんじゃないんだろう』

「う……は、い。冷蔵庫がすっからかんで…」

『今まで何を食べていたんだアンタは』

「あー…と、人間の作り出した食文化の最先端というかなんというか」

『インスタントばかりだと栄養が偏ると何回も言ってるだろうが!!!何でアンタはいつもそうなんだ!!』

「わー!!ごめんなさいぃぃい!!」



ひいぃぃ!と悲鳴をあげつつ、スカルに見えもしないのに綱吉はその場で頭を下げまくった。
そうなのだ。過去に一度綱吉はものぐさ過ぎてぶっ倒れた時がある。
それは長期間の休みの日であり、家から出るきっかけもなければ意欲もないのが原因であった。
高校までは綱吉も実家で暮らしていたので世話焼きの優しい母親が何とかしてくれていたが、一人暮らしとなるとスカルが何とかしなければならない。
しかしスカルも仕事をしている身だし、手の行き届かない所もでてくる。
だから自分でできることは何とかしろと強く言い聞かせ、特にほそっこい綱吉だから食事には気を付けろと念を押して言っていたつもりであったのに。
スカルは信じらんと受話器の向こうで頭を抱えていた。



「だから、その、一緒にスーパーに買い出しに行かない?自転車の空気抜けちゃっててさ」



いやぁ、困った困ったと呑気にもらしている綱吉は立ち直るのが早い。
きっと人の話をきちんと受け止めてないからだ。



『……分かった。下についたらまた電話する。さっさと出てこいよ』

「了解です!」

『じゃあ、後で』

「うん、ばいばーい」



プッと電話を切ってから、綱吉は急いで着替えに取りかかる……前にシャワーを浴びる事にした。
昨日の夜に浴びたのだが、空になったときにスカルが買ってきてくれたシャンプーやらボディーソープやらを香らせとくとスカルの機嫌が良くなるのだ。
思えば、身の回りはスカルの好みに変えられている。
別にスカルが好きならば一石二鳥だし、綱吉も構わないでいた。
あれが彼なりの愛情表現なのだろうし、よくテレビとかでやっているDVとかで嫉妬やら独占欲やらを表現されるよりマシだ。
それにきっちりくんだから、全て自分が理解している物でないと嫌なのだろう。
よくアンタの思考回路が分からないと言われるけれども、形だけでも支配下に置いておきたいのかもしれない。
まあその方が綱吉にとっても楽だったりするのだ。
何てったってものぐさなので。



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