記念

□貴方からどうぞ
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そんなこんなで綱吉とコロネロは仲良くなってしまった。
その日は雨が止みそうにもなく、綱吉が泊まらせて!と駄々をこねだしたので泊まらせてやった。
心底面倒くさいやつだ。
しかし―――不思議と、嫌ではない。
昔からお互いを知っていたかのように良く馴染み、気付けば数時間前に出会った相手に心を許していた。
疑問は浮かぶ前に打ち砕かれては消える。
コロネロは深く考えるのは止め、とりあえず明日が休みで良かったと安堵の息を吐いた。



「コロネロって自己紹介してなかったよな?」

「ああ?別にいいだろコラ」

「良くない。俺は言った!」

「勝手に言ったんだろうが」

「でも言った。不公平だから、コロネロも教えてよ。俺、コロネロの事もっと知りたい」



じっとこちらを見上げてくる瞳は真剣そのもの。
だがその中にキラキラと光るけし粒のような期待が見えた。
まるで、否、やはり。
ガキみたいなやつである。
深夜、眠れないからとコロネロを捕まえてグダグダ喋る綱吉は勿論床で寝ていた。
しかも掛け布団のみを着用している。
仕方がない。これしかなかったのだ。
コロネロは家に他人を呼び込む事なんてなかった。
だから綱吉が初めての客であったりする。
初めての客が招かざる客とは何とも微妙だが。
まあベッドまでもを譲る気は無かったので床に転がしておいたという訳だ。

真っ暗な闇の中。
強く雨が窓ガラスを叩いていく音と、風の音。
そして綱吉の呼吸とコロネロの呼吸が平行して響く。
コロネロは琥珀色のまっすぐな視線を受け止めながら、小さくため息を吐いた。



「15歳で誕生日は7月7日、男、以上」

「ええっ!クラスとかは?」

「特進」

「すごっ!あのアルコバレーノ校の特進クラスって期待のホープじゃんか」

「別に。そんなタイソーなモンじゃねーよ。張り合えるのも2人しか居ねーしな」



ああ、でもそういえば。
過去にあと二人、張り合える奴らが居たことを思い出す。
アルコバレーノ高等学校は小中高とエスカレーター式だ。
二人とも気が合い、スカルとラルとそいつらとコロネロはいつも一緒に行動していたのだが、何と中3年の冬、転校を決め込んだのである。
それは本当にいきなりの事であり、コロネロ達も止めた。
が、本人達が「手応えがねー」だの「偽善しか教えられない」だの言っているので最終的には見送る事しかできなかった。
幼馴染みで腐れ縁。
彼らは頑固であるし、言っても無駄だと承知したのだ。
一人は喧嘩が好きな奴だった。
名を、リボーンと言う。
もう一人は金儲けが好きな奴だった。
名を、バイパーと言った。



「なぁ」

「んー?」

「テメーの学校にリボーンとバイパーって奴が転入して来なかったかコラ」



アルコバレーノ高等学校と同じく、ボンゴレ高等学校もエスカレーター式。
他所から来る問題児も居るだろうが、あの男の事だ。
目立たない筈がない。



「リボーン?何、コロネロリボーンの知り合いなの?」

「ああ、まあな。アイツ昔はアルコバレーノに居たんだ」

「へぇー。リボーンはともかくバイパー、ねぇ……居たかな?」

「変な奴だコラ。ずっとフード被ってる……」

「ああ!マーモン!」

「……マーモン?」



誰だ。
コロネロは訝しげに綱吉を見たが、金にガメツイ奴じゃないの?という綱吉の一言で納得した。
どうせ偽名か改名でもしたのだろう。
あの男は金が絡むとやたら行動が早い。
そして迷いがない。
奴ならやりかねないとコロネロは思った。



「リボーンは今どうしてんだコラ」

「リボーン?」

「おう」



ちょっとばかしムッとした綱吉の声色にコロネロが気付くわけもなく、その真っ青な瞳はやたら楽しそうである。
旧友だというし、仕方ないのだろう。
綱吉はリボーンの憎たらしくも美しい顔を描いて(しかし脳内で思い浮かべた顔は彼のファンや愛人が怒りそうな程モヤかった)、彼の記憶を掘り当てた。
リボーンが来てからはリボーンとずっと一緒にいるのだから掘りあてるも何もないのだが、あまりイイ記憶として残っていないので綱吉はその日の内にリボーンとの記憶を海馬の奥の方へと追いやっているのだ。



「まず入学式の入学生代表祝辞の時に壇上に上がったと思ったら『この学校の一番強い奴は誰だ?俺が叩きのめしてやるぞ』とかぬかして全校生徒を煽って、そのあと3年のクラスに乗り込んでってザンザスと対立しただろ、そのあと『僕が!』『僕が!』で自称最強の雲雀さんと骸が名乗り出たんだけど……まあ、リボーンに敵うわけがないというか」



結局リボーンの一人勝ちだった。
あの男は無茶苦茶だ。
そして底無し。
とんでもない実力者。
コロネロの話を聞いて、綱吉は態々あの男がボンゴレを選んだ理由が分かった気がした。
どうせ、只の暇潰しだろう。



「へぇ」



コロネロの瞳がギラリと光る。
彼もまた戦闘狂なのだろうか。
綱吉は分かりきった疑問を頭に浮かべて、気持ち程度にかけられた掛け布団を顔の半分まで持ち上げた。
息を吸い込めば、コロネロの匂いがする。
男臭そうな見た目の癖に、意外と綺麗好きだった。
清潔感溢れる好青年。
実にモテるに違いない。



「まーそんなとこ。今はボンゴレをも制覇して暇そうにしてるけどねぇ」



ふわぁーと欠伸を漏らしむにゃむにゃとやっている綱吉に、コロネロはそうか、と呟いた。
あの男に限って腕が鈍るということはないだろうが、それを聞けて良かった。
張り合いがあるというものだ。



「オイ、……って寝てるなコラ」



呆れた後で苦笑。
まあいい。
コロネロはそう思い、寝ることにした。
今日はテスト勉強から綱吉を拾ったりと随分目まぐるしい一日だった。





綱吉は次の日も夕方までコロネロの家に居座っていた。
自由で押し付けがましい人間もいたものだ。
しかし「昨日の今日で、ほとぼりが冷めるまで」と言われれば何も言えなくなってしまう。
初めは疑うどころか相手にすらしていなかったコロネロだが、リボーンは弱者を相手にする事が殆んどない。
故に、リボーンに近しいこの男は中々に強いのかもしれないと判断した。



「コロネロって、何が好きなの?」

「銃とかだな」

「あー……リボーンと一緒、」

「ちげぇ!あいつのは短機銃だコラ!!俺のがもっと強いぜ。威力も、もちろん技術もな」



ムッとして声を荒げたコロネロに、綱吉は大きな目を丸くした。
琥珀が僅かに揺れている。



「へぇ、意外。コロネロって結構熱いんだ」

「……悪いかよ」

「悪くないよ。俺は好き」



面倒だけど、根性腐ってる奴よりはマシ。
そう優しく諭すように言ってへへ、と照れ笑いを浮かべる綱吉にコロネロは一瞬、全てを奪われたような錯覚を覚えた。
随分ストレートな奴である。
顔が、熱くなる。
どんどん熱を帯びてくる。
コロネロはそれを大きな手で口元を隠すという仕草により誤魔化した。
顔が紅くなっていないか心配だ。



「コロネロ?」

「……ッ!何でもねぇ!!」



バッと顔を背ける。
これは流石に不自然であろうが、どうしようもない。
コロネロは畜生、と舌打ちをしたい気持ちを抑えて高鳴る心臓をどうにかしようと心がけた。



「コロネロォ?」

「っるせぇコラ!!大体テメェはいつまでウチに居座ってんだ!!」

「いつ、って……。分かったよ、もう帰る。5時だからな」



シューンとしているかと思いきや、わりとアッサリしている。
綱吉はコロネロの目の前でオモムロにシャツを脱ぎだした。
何てことはない、男の裸だ。
コロネロはいきなり過ぎる綱吉の行動に危うく叫ぶところだったが、グッと息を詰める事でとどめた。
綱吉は昨日部屋で干していた自分のシャツを手に取り、ちゃっちゃとボタンをはめ始めている。
そしてコロネロを気にする事なく、下着に手をかけたところで漸く気付いた。



「あーっと……、あっちの部屋で、着替えてくるね!」



そんなに見られちゃ着替え辛い事この上ない。
コロネロは考える事を放棄して、綱吉の体をじぃっと見詰めていた。
多分、無意識だ。
綱吉は別の狭い部屋に入ると、ズボンに手をかけ素早く自分の下着に履き替えた。



「下着は流石に俺が洗濯しなきゃだよなー」



それか、買って返すか。
まあいい。とりあえずこれは持ち帰ろう。



「ねー、コロネロォ、借りた下着なんだけど。洗って返したいから都合のつく日教えて?」

「お、おう……」



一方でコロネロは後悔していた。
何故自分は下着まで貸してしまったのだろうか。
否、最初はこんな妙な感情を抱くなんて予想だにしなかったのだ。
単に、男同士だから構わないと。
ふと、憎たらしいスカルの顔が脳裏に浮かぶ。
『だから言ったじゃないですか。先輩はお人好し過ぎるんですよ』
ハッとバカにした笑みを浮かべてくれたのがムカつく。
コロネロは即効でスカルの顔を消して、綱吉に向き直った。
気付いたら彼はもう身支度を終え携帯を手にしているところだ。



「ほら、教えて?」



純粋な瞳が、コロネロを捕えている。
コロネロはもう逆らえなかった。
主人に従順な犬の様に言われた通り携帯を取りだし、気付けば余り使用した事のない赤外線を使って綱吉にアドレスを教えていた。
しまった!とコロネロは思ったが時既に遅し。
こんな、妙に人を煽る人間とは縁を早々に切るべきであったのだが最早コロネロのアドレスは奴の手にあり。
つまりはこの関係性が続いていく事を意味する。
最悪だ。
転がり始めた石はもう止まらない。



「ありがとう。じゃあ、また」

「……ああ」



ニコリ。
爽やか且つ甘ったるい笑顔。
ガチャン。
ドアの閉まる音。
窓の外を眺めればもう台風のような豪雨は去っていた。
台風か。
台風の目は紛れもなくあの男にある。
コロネロはその時意味もなくそう確信した。



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