記念

□Apartment chirstmas!
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《ルームシェアぱろ!》

 Merry merry!
 Chirstmas!




何でもない本屋のアルバイトを終えて家路につく途中。
教会から澄んだ子供達の歌声が響いてくる。
聖歌とやらだ。
気付けば街はクリスマス一色。
年末だなんだと各店頭にはセール品が並び、クリスマスは何処何処へ行こう!などの歌い文句がチラシに踊っている。
そうか。そうだ。
恋人の居ない自分には縁のないものだと思い込んで放置していたが、今年は心機一転。
華やかにいってみるのもいいかもしれない。
そこで綱吉はマフラーに埋めた口を僅かに綻ばせ、足を速めた。
空はまだ明るい。






「クリスマスパーティ?」

「そう、やらない?」

「やらない」


シンプルかつお洒落な外国製のアパルトマンに帰った綱吉は、早速マーモンの部屋のドアを叩いた。
マーモンの職業は謎に尽きる。
居ない時は本当に居ないし(最早国内にも居ない)、居るときは四六時中ずっといる彼は丁度良く現在仕事は無いらしい。
ニッコリと笑って話し掛けても嫌だダメだと断るのには理由がある。
その理由というのは単に、他のルームシェアと仲が良くないというものだ。
というよりも、ここに住む人間は綱吉を除いて皆仲が悪い。
何故、と聞けば腐れ縁だからだと随分と嫌そうな顔で答えてくれた。
綱吉と会う前からの知り合いである彼等は、時々本気で喧嘩を始めるから悩みものだ。
どうして銃弾やらナイフやらが飛んでいるのだろうという疑問については早々に放棄した。


「ケーキ、マーモンと一緒に作ろうと思ったのにな……」

「ムッ、君が作るの?」

「そうだよ。嫌か?」


だとしたら失礼なヤツ、と唇を尖らせる綱吉に、マーモンはフルフルと首を横に振る。
物臭さな綱吉の手料理(しかもドルチェ!)を食べる機会なんて、これを逃したらいつ得られるやら。


「仕方ないな……分かったよ。ただし、僕は一銭も払わないからね」

「うん、了解!」


じゃあ早速外に買い物へ行ってくる、と笑顔で漏らす綱吉の手を掴むと、綱吉は甘く焦げたキャラメルの様な瞳をマーモンに向ける。
何、と綱吉が言葉を紡ぐ前に、此方が口を開く。


「僕も一緒に行くよ、ツナヨシ。この時期に、一人じゃ寂しいでしょ?」


意地悪そうに口元を緩ませるマーモンの言葉の意味を読み取り、綱吉はんなっ!と顔を赤くした。
そんな綱吉の手をとり、マーモンはさくさく歩き出す。
この時間帯ならば、他の奴らが邪魔をしに来るという心配は無い。
のだが、綱吉は前へ前へと引っ張るマーモンの手を自分の方に引っ張って何かを主張したい様子だ。
仕方がないので、マーモンも立ち止まってやる。


「その前に、コロネロに用事があるんだ」


ちょい、と指されたのはコロネロの部屋の扉。
ああ、そういえば彼奴も今日休みだったか。
思い出してマーモンは舌打ちをひとつ。


「コーローネーロー!!」


コンコンコンコンバンバンバンバンバンガンゴンドゴッ……!
綱吉は意外に辛抱強くない。
ドアを壊さない程度とはいえ、乱暴な綱吉にマーモンは微妙な視線を向けた。


「るせーなンだコラ」


流石にこの来訪の仕方だとコロネロも出ない訳にはいかず、眉間に皺を寄せてドアを開ける。


「いいじゃん、どーせ昼寝でもしてたんだろ?」


分かったように話す綱吉だが、それもその筈。
大学時代のコロネロと綱吉は友人という関係であった。
このアパルトマンを住む家が無いと泣き付いてきた綱吉に(嫌々ながらも)紹介したのはコロネロだ。


「お前な、他人の部屋のドア蹴んじゃねーよ。そう奈々に教わんなかったのかコラ」

「教わんなかったよ。だって母さんの前で人んちのドア蹴ったことないし。それにコロネロだし」


きゃは、と我儘に笑う綱吉を見れるのは、コロネロを前にした時だけだった。
嫌でも見える二人の関係の深さにマーモンは気分を悪くしながらも綱吉に用件を早く伝えろと促す。


「ああ、そうそう。コロネロ力仕事得意だろ?車も持ってるし……。悪いんだけど、俺の実家からクリスマスのグッツ一式持ってきてくれないかな?物置に入ってるから」


ね!と笑って綱吉は自宅の鍵をコロネロに手渡した。
綱吉の母親の奈々は夫である家光が住むイタリアで過ごしている。
勿論、ランボやイーピンも連れてだ。
だから今綱吉の実家はも抜けの殻だった。
変わってコロネロは引っ越し屋の手伝いで今は食を繋いでいるので、打って付けである。


「条件は何だコラ」


いくらコロネロでもタダ働きは好まない。
フンと鼻を鳴らして綱吉を眺める。
すると綱吉はにへらと緩く微笑んだ。


「コロネロの言うこと、ひとつ何でも聞いてあげるよ!」


これで天然だというのだから、二人は頭を抱えたくなった。
コロネロは「お前俺以外にその条件渡すんじゃねーぞコラ!」と綱吉の肩に手を置き、マーモンは「特にリボーンとかラルとかね」と付け加えている。
しかし綱吉は首を傾げるばかりだ。


「ま、いいや。んじゃよろしくね」


ばいばーいとコロネロに手を振り、綱吉はマーモンと街に戻る。
子供達の聖歌はまだ練習中なのだろう、何度も何度も繰り返されていた。


「ツナヨシってコロネロのことどう思ってるの?」


少しうつ向き加減にマーモンが綱吉へと問掛ける。
綱吉は首を傾げてから、平然と言ってのけた。


「んー?友達、かなぁ」


けれども照れたようにはにかんで、綱吉は立ち止まったマーモンに近付いていく。
自分で言って赤くなる綱吉。
何故、と思っていると綱吉はボソリと「おれ、今までひとりだったから、」と呟いた。
え、と漏らして綱吉を見ると更に顔を真っ赤にして唇を結んでいる。


「マ、マーモンも、皆も。俺の友達だろ?」


情けなく眉を下げている綱吉はそう言って走り出す。
言い逃げだ。
マーモンもムムっ、と今更ながらに綱吉の言葉に頬を赤く染めてからそんな原因を作り出した彼を追うべく走り出した。
街もショーウィンドウも誰も彼もクリスマスで浮かれているから。
少しくらいハシャいでも叱られない筈である。


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