記念
□this from 5
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「やったぁ!念願の1014室だぁ!」
と。ベッドで飛び跳ねている綱吉を横目に、リボーンはワインを煽る。
ガキだ。果てしなく。
に、しても。
女の死体を片付けるのに少々手間がかかってしまった。
といってもリボーンがしたことと言えば、闇の「清掃会社」に連絡をとっただけなのだが。
「ツナ、今の気分はどうだ?」
「最高!」
「自殺なんてやめたくなるだろ?」
「いや、それとこれとは別」
「意外と頑固だな」
だが、とリボーンは続ける。
「俺も頑固では負けねーつもりだ」
そして綱吉の手を取り、手の甲に口付けた。
綱吉はじぃとリボーンの瞳を眺める。
なんというか、確かに意思の強い目だ。
流されてしまいそうで恐ろしいくらいには。
「ツナ、新しい人生を歩みたいって言ってたな」
「え、言ってないよ」
「まぁ生まれ変わりたいってのはそーゆうこった」
「いや、聞けよ」
何を仰る、とリボーンをみやればいつの間にか片手に黒光する、そう、知識が正しければ、銃という名前のアレを持っていた。
本物?まさか。
「っ、リボー…ン?」
「何だ?」
「それ…偽物、だよな?」
「いや、本物だぞ」
撃ってみるか?とおすすめされたが、首を横にふって断った。
するとすんなりしまってくれたので、脅しとして出してきたようだ。
なんというかタチが悪い。
「で、だツナ。お前に一言申したいことがある」
「な、何」
ギシリ、とベッドに上がってきたリボーンにうろたえつつ、綱吉は握られたままの手を引いてみたが、一向に離してくれる気配がない。
寧ろ、強く握られて痛いくらいだ。
「わ、っとと」
そして気付けば押し倒されそうになっていた。
なんというか、昨晩の二の舞になりそうで恐ろしい。
残念な事に綱吉の格好は女物でありスカートでもあるので、コスプレイなるレッテルも追加されてしまうので最悪だ。
「ちょ、リボーン!今まだ昼だっつーの!」
「大丈夫だ。そろそろ夕方に入るからな」
「そういう、問題じゃ、ないっ!」
のしかかってくるリボーンを拒否しながら、綱吉は思う。
全く、えらく大変なヤツに気に入られてしまったものだ。
しかも顔がめちゃくちゃいいところも含めて、自分とは釣り合わない。
なんというか、幸せが不幸となって降り注いでくるあたりやはり報われない自分がいる。
それでもリボーンは耳元で囁いてくるので、完全に押し倒されてしまった。
「ツナ、残りの人生が要らないんなら、俺にくれ」
ニッと見惚れる程の格好良い笑み。
こんなのは、ずるい。
逆らえる訳がない。
「俺からの誕生日プレゼントだ。受け取ってくれるな?」
今度は左手を引っ張られ、薬指を甘噛みされる。
そしてマジシャン宛ら、先程のナイフや銃と同様に何処からか指輪を取り出し、それにチュ、と口付けてからゆっくり填めてくれた。
存在証明、といったら大袈裟すぎるかもしれない。
けれども、それくらい感動は大きかった。
今まで悲しいまでな駄目だった男は、誰にも認められずに生きてきた。
才能も何もない。
それなのに、リボーンみたいな良い男が。いいのだろうか。
「俺…男だよ」
「知ってるぞ」
「なんにも特技とかないし、ツマラナイ人間だしっ…!」
「本当につまんねーヤツだったら、惚れてなんかねーぞ」
「たった、1日の付き合いなのに?」
「たった、1日の付き合いでも。今を逃したら一生後悔する気がするんでな」
リボーンはそう言って、困った顔をした綱吉に優しく口付けていく。
綱吉も観念したように、リボーンのキスを受け入れていた。
「おめでとう、ツナ」
「ん…リボーンも」
「で、何歳になったんだ?」
「25歳」
「…嘘だろ」
嘘じゃないよ、と唇を尖らせた綱吉の髪を撫でてなだめながらもリボーンはまだ心で疑っている。
25?これが?
冗談だろう。
「リボーンは何歳になったの?」
「…18」
「えっ…」
「ま、それぐらい童顔なら問題ねーだろ。続けるぞ」
「わっ…、ちょ!!」
がぶりと首筋に噛みつけば、綱吉は息を詰めておとなしくなる。
まさかの誤算があったが、それもまぁ余興の内だ。構わない。
こうしてリボーンと共に第二の人生を歩き始めた綱吉だが、まさか次の日にイタリアに搬送され、しかも恋人の職業が殺し屋であるとは思うまい。
綱吉の不幸な人生はまだまだ続いて行くようだった。
だが、しかし。
不幸中の幸いとでも言えばいいのか。
今はリボーンの体温を感じて、一番幸せそうな表情をしている綱吉である。
これからのことなんて考えていない、可愛らしい表情だ。
おめでとう!
リボーンは綱吉のそんな思考回路にも祝福を密かに捧げたのだった。
fin.
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