記念

□this from 4
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テメーの服はまだ乾いちゃいねぇから、と渡されたのはここのホテルの制服だ。
しかも女子の。何故。



「そっちのが目立たねーぞ」

「嬉しくねーよ!」



仕方なく着替えた綱吉であるが、やはり中々に落ち着かない。
大体ここのホテルは高級感を更に出すために女子の制服はシックなメイド調のものであり、男子は執事のような服であった。
でもまぁ服が乾くまでの辛抱だ。



「にしても1日違いとはな。運命を感じるぞ」

「確かに…感じなくはないけど」



ソファーに寝転がり、グダグダと過ごす。
外には出られない。
当たり前だ。

その間リボーンも暇だったようで、綱吉に質問を投げ掛けてきた。
まずは、忘れていたが人生で最後の贅沢云々、から。
最初は只の暇潰しで捕まえてきただけだったのでどうでも良かったが、今となっては中々に聞き逃せない事柄であった。



「俺、今日が終わったら自殺する予定なの」



あっけらかんと、何事でももないように言い放った綱吉に、リボーンは眉間に皺を寄せる。



「今までの人生そりゃー悲惨な物だった。だから、ここらで終りにして新しい人生でも始めようと思って?」

「そーか」

「うん。だからね、全財産叩いてここのホテルに泊まったんだよ。最後の思い出造りとしてね」



あはは、とふっきれた様に笑う綱吉に、リボーンも微笑み返した。
不覚にもその微笑みに心臓をわしずかみにされたような感覚に陥った綱吉だが、首を横にふっていやいや、と誤魔化す。
しかしホンワカした雰囲気もすぐぶち壊されることになった。



「で、リボーンは何をもってんのかな?」

「みりゃわかんだろ、縄だ」

「何故に!?」



爽やかな笑顔で告げたリボーンは縄を手にしたまま椅子を用意し、ソファーに寝っ転がっていた綱吉を起こし、そこに座らせる。
そしてその後に見事な縄捌きで綱吉を椅子に縛りつけた。



「えぇぇぇっ!?ちょ、何!?何事!?」

「るせー。俺は今からちょっと出てくる。抜けねーとは思うが…ツナ、勝手に自殺したら分かってるよな?」



綱吉は思いきり殺気を叩き付けられ、黙るしかなかった。
そりゃそうだろう。
こちとら一般人だ。
その上リボーンをどこぞの若社長かと思い込んでいる。



「リ、リボーン…」

「何だ?」

「は、早く帰ってきてね」

「あぁ。2時間後には必ず戻る」



ちゅ、と綱吉に軽いバードキスを落とし、リボーンは意気揚々と出かけていったのだが。
綱吉はふと思う。
今までの誕生日は特別なものではなくまぁ普通。
なのに今回のは何だ。
予定では、生涯で一番素晴らしい誕生日にしようと思っていたのに。
日付けが変わった瞬間、「おめでとう!」といわれるでもなく。
いや寧ろあのリボーンによって何か色々とやらかされていたとは思うのだけれど。



「うぅぅ…最悪」



とにかく、まさか縛りつけられるなんて夢にも思わなかった。
ぐすんと涙を飲み、綱吉は時計を眺める。
嗚呼、針よ。
さっさと2時間たってくれまいか。




そうして残念且つ不幸な綱吉が涙を飲んでいる間、リボーンは軽い足取りでホテルを出ていた。
とりあえずそこで携帯を手にし、電話をかける。



「俺だ。ああ。場所は…インターナショナルホテルの最上階、1014号室だ」



頼んだぞ、と呟きリボーンは携帯を切って胸ポケットへとしまう。
フンフンと気分よく鼻唄を漏らせば、周囲にいた女性が色めき立っていた。
だが今彼の心を占めているのは、グラマー且つキュートな女でも何でもない。
そんな見掛け倒しの幾等でもいる女共より、たった1人の貧相な青年が恋しいのだ。
きっと本人は、冗談か何かだと思っているに違いないけれど。
でも、だったら。
簡単な話、伝えて分からせてあげればいい話なのである。




「…遅い」



そしてそんな綱吉は短針との睨めっこもついに3週目に入っていた。
2時間って言っていたのに何をやっているんだヤツは。

ムカムカ苛々としながら、綱吉は溜め息をつく。
これでまさか帰ったとしたらマジで死んで呪ってやりたいくらいだ。

と、その時。ガチャリとドアが開けられる音がした。
どうやら帰ってきたらしい。
リボーンの顔を見た瞬間、綱吉は唇を尖らせた。



「遅い!!」

「あぁ、わりーな。ちょっと遅くなっちまった」

「ちょっとじゃない!一時間もだよ!!早く縄をとけ!」

「ったく仕方ねーな」



リボーンは何処から取り出したのか、ナイフを手に持ちジャキンと器用に縄を切る。
そして綱吉は自由になった体で腕を伸ばして伸びをした。



「でも1時間遅らせた分、ずっと俺の事考えられたろ?」

「あぁ。主に憎しみや恨み辛みの方向性で!」



ふはは、と低く笑ってやれば、リボーンはククッと喉を鳴らしていたので、嫌味に対する効果は0らしい。
最低だ。



「ツナ、」

「何だよ」



後ろから腰を抱かれて、耳元で囁かれる。
ズシンとクるものがあるが、相手に合わせてなんかやるものか。



「隣の部屋、行こうぜ」



耳をペロリと舐められて、慌てて後ろを振り返る。
だが耳を舐められた衝撃よりも、隣の部屋に行けるという事の方が嬉しい。



「いいのか?!」

「あぁ、構わねー」



やったー!と瞳を輝かせて飛び跳ねる綱吉に、ガキだなと心の中で呟いて、リボーンは静かに微笑んでいた。



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