記念
□this from 3
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デロンデロンに酔っぱらってしまった。
ホワホワと、まるで浮いているみたいに足取りが軽い。
はふぅ、と熱い吐息を吐き、新しい空気を吸い込む。
只今秋まっさかりであるので、夜の空気は中々に冷たく、熱った体には丁度良かった。
「おっと、」
ふらついて転びそうになった綱吉を、リボーンが支える。
あんなに飲んだというのに、リボーンは気分が良くなったというだけであまり酔っぱらってはいないようだった。
つまりはザルらしい。
ホテルの下にある、噴水がメインの公園。
昼であったのならベンチに恋人が座っていそうであるが、生憎今は夜中。
もうすぐ0時を回りそうである。
「ツナ、」
「んんぅ?なーにぃ?」
酔っぱらってふにゃふにゃと笑う綱吉にリボーンは思いきり駆け寄り抱きついてみた。
いや、どちらかといえばタックルに近いのか。
顔には現れていないが、案外リボーンも酔っていたようである。
前言撤回だ。
うぉっとぉ!と盛大に声をあげて、綱吉は突き飛ばされた。
足はフラフラで使い物にならず、そのまま後退していって噴水にブチ当たり、気付いた時にはバッシャン!と噴水に落下する。
熱された体が一気に冷えたが、まだ酔いは覚めないらしい。
綱吉はキャタキャタと声を上げて笑った。
そしてそんなリボーンは綱吉に近付き、手をさし伸ばす。
「実はなツナ、今日は俺の誕生日なんだぞ」
「えぇっ、マジでか!」
「ああ」
「なんだよーう、言ってくれたらケーキ買ったのに!」
酷いー、とムニャムニャ呟く綱吉は月明かりを浴びて人魚のようだ。
とかいう何だかよく分からない考えを巡らせてから、リボーンは綱吉に堕ちた事を知る。
まさかこんなしょーもないガキに惚れるなんて末期だなと思いつつも、残念ながら酔っているので来た道を引き返そうとはしなかった。
しかもどこに惚れたかと問われても、巧く答えられない。
だが、彼の相手をしていると何だか楽しいのだ。
バカでマヌケでドジで童顔で、おまけに不運面ときた。
なのに、だ。
心は高揚して収まることを知らない。
「ツナ、」
「んぅ?」
まだ噴水の中にしゃがんでいる綱吉の顎に手を当て、グイっと持ち上げる。
その瞳は、まるでブランデーのようだ。
体を焼くような熱に、眩暈を覚えた。
次第に顔を近付けて行けば、綱吉も自然と瞳を閉じる。
もったいないとは思ったが、まぁ別にいい。
酒を煽り血色の良くなった唇はまるで熟れたチェリーを彷彿させる。
「ツナ、好きだ」
耳元でそう囁けば、綱吉は小さく肩を揺らした。
そして2人は口付けを交す。
甘くて、熱くて、とろけそうな口付け。
月明かりの下、一人は噴水の中で。一人は噴水の外で。
それは本当に、人魚姫の一部となりえる程の光景であったのだが、残念。
誰も見ているものはいなかった。
ただ1人居るとすれば、それは2人の頭上で微笑んでいる月くらいだろう。
「………ん、……」
瞳を開けて数秒して、綱吉は頭痛に表情を歪ませた。
それから辺りを見渡す。
まず瞳に入ってきたのは白いシーツだ。
これは確かホテルのものだったはず。
そうだ。昨日はリボーンとかいう隣の部屋のヤツと飲んで…それで…それから…あれ?
どうなったんだっけ?
と首を捻ってから、そういえば噴水に落ちた事を思い出す。
そして――――――…
「あああああ…!!キスっ…!!!」
思い出した。
そうだった。
多分自分はあの男とキスをした。
しかも、こゆーい情熱的なやつを。
「キスがどうした。してほしいのか?」
いきなり声が聞こえてビクリと盛大に肩を揺らしてしまった。
めちゃくちゃ心臓に悪い。
そして改めてリボーンを見れば、恥ずかしさが込み上げてくる。
昨日の黒スーツとは打って変わって、今日はフォーマルな感じだ。
まったく何を着ても似合う所が嫌味ったらしい。
と、そこまで考えてから綱吉はここはどっちの部屋なのだろうかと首を捻る。
1014号室であるならば、万々歳なのであるけれども。
「ねぇ、リボーン。ここって…ぎゃー!ベッドに乗り上がってくんな!!」
ギシリ、とは軋まないが、2人分の重さに勿論ベッドは沈む訳で。
気付いたらリボーンに馬乗りされている綱吉であった。
「何だよ!?」
「いや、キスがお望みだったみたいだからな」
「の、望んでねぇえ!」
ぎゃーぎゃー喚く綱吉にリボーンはすねたように顔を歪める。
「何だ、昨日はあんなに熱い仲だったのに」
「そんな仲じゃない!」
「じゃあ何であの時キスを受け入れたんだ?」
「あっ、あれは…!別にそういう訳じゃっ…!」
「ほー。じゃあ更に聞くが、今のその状態はどういう訳なんだ?」
「はぁ?今…?」
パチパチと綱吉は瞬きをして、自分の今の状態を確認してから絶句した。
なんというか、これは。
「昨日のお前は随分と積極的だったぞ」
「うそだぁぁああああ!!」
嘘だ嘘だ嘘だ。
誰か。誰でも良いから嘘だと言ってくれ。
お前が裸なのは、昨日噴水に落っこちて服の代えがなかったと。
「お陰で良い誕生日になった」
「はっ、誕生日!」
時計を見れば、勿論日付けは変わっている訳で。
更に言えば、短針は1を指していた。
うっかり寝過ごして昼過ぎである。
うおぉ…と落ち込んだ綱吉を見て、リボーンは綱吉の耳をかじりながらも「どうした?」と甘く問掛けてきた。
どうした?じゃない。
「ぁっ、ちょ…リボッ…、ストップ!!!」
危うく変な空気になって、慌てて止めた。
するとリボーンは舌打ちをしながらもすんなり諦めて綱吉に軽いキスだけを落とす。
「で、誕生日がなんだ」
「今日!俺の誕生日なんだって!ここ何号室?」
「1013。テメーの部屋だぞ」
「うおぉ…シット!」
悔しそうに枕に顔を埋めた綱吉を見て、リボーンは成程と1つ頷いた。
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