りく

□あの子の居る島
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神々の思考は実に陳腐で安易でどうしようもない。
会議室は広く、無駄に質のいい椅子があしらえてある。
五大精霊達はその椅子に深く腰掛けながら、一人の青年を眺めて大きくため息を吐いた。
といってもため息をついたのは嵐と雲と霧の精だけであり、晴と雨の精はにこやかに笑っていたのだが。



「天候を操るのに五人も必要ないって言ってるのに、更に一匹増やすとは。解せないね」



会議終了後の気だるい雰囲気の中、ボソリと雲の精が漏らす。
その辛辣な言葉に青年はびくりと肩を大きく揺らした。
雲の精の性格は元来こんなものであったが、それを知らない彼は早くも涙目である。
それもそうだ。まだ出会って間もない精霊に、しかもこれからも職を共にしなければならない精霊にこんな接し方をされれば未来は仄暗く映る。



「ったりめぇだ!!御上の考えてる事が知れねーぜ!大体、嵐は雷も雨も伴ってんだ!俺一人で十分だっつーのによ」



チィ、と盛大に舌打ちをした男は嵐の精だ。
彼はガラが悪い事では有名で、しかし新世界の住民からはとても親しまれており、どうやらガラの悪い表面とは裏腹に、人情味溢れる内面が功を制しているようだった。
だがしかしやはりここでもその性格は出会ったばかりの青年には分からない訳で、結果彼の不機嫌は青年の恐怖心を煽るに終わった。



「まーまー。雷だけってのも結構威力があるもんだぜ?湿気がねー時の雷程怖いもんはねーから、晴の精と組ませればいいんじゃねーかな」

「おう!それは同感だ!お前らは皆湿気くさくて堪らんからな!カラッと一発派手な雷は俺と合いそうだ!」



基本的に呑気な思考回路を持ち合わせて青年に笑いかけたのは雨と晴の精だ。
何を隠そう、先程からビクビクと肩を揺らしているこの青年こそが新たなる天候の精。
五大精霊という機関に無理矢理神々に捩じ込まれた哀れな雷の精なのである。
神々に認められるだけあって能力を見せられた時、確かに他の五大精霊も息を飲んだ。
しかしこの気弱な青年に天候を司る機関に於ける重要な役割をこなせるかと言ったら、未だ未だ信用には欠けた。
並の神経では務まらない。
天候だけを操っていればいいという訳でもないのだ。
この点に於いて、五大精霊の統括も務めている雲の精は雷の精を認めていなかった。
勿論、嵐の精もだ。
特に雷の精は嵐の精の弟分に当てるようにとのお達しがあったため、嵐の精の機嫌は氷河期に達していた。
五大精霊に新たなる精霊を加える事態になったのは、一重に新世界の要のひとつであるアルコバレーノが一つの島に留まったことだろう。
初めの頃は不安であった小さい龍ともどうにか賑やかにやっているし、寧ろ島から出てまた好き勝手するのではないかという心配を他所に、大人しくあの孤島に収まっていた。
そうなってくると、一応自称保安官とふざけた事を抜かしていたリボーン(暇潰しに参加していたコロネロとラル・ミルチも含む)が魔法銃をブッ放しブラックリストに載っている生物の威嚇及び追放するという事も無くなってくる。
故に、五大精霊の仕事も増えるという訳だ。

霧の精は哀れな雷の精を見てクスリと微笑んだ。
そういえば、未だこの決定はアルコバレーノの耳には入っていない筈。
早い話、霧の精はアルコバレーノが嫌いだった。
最近ツナとアルコバレーノが仲良く(実質はツナをからかっているだけである)しているところを見ると、気分を害して堪らない。
後から来た余所者を、雷でちょっと脅かす(まったく脅かされそうなメンツではないが)くらい、許される筈である。



「クフフフ、まあいいじゃありませんか。使えるものは有効活用しといた方が何かと便利でしょうしね」



クフクフ肩を揺らし笑っている霧の精に視線が集まった。
雲の精がムッと不機嫌な顔を晒してどういう意味だと問う。
因みにこの二大精霊は仲が悪いので基本会議に於ける際の席は一番遠い席となっている。



「馬鹿の考える事だからアルコバレーノにでも仕向けようっていうんでしょ。あっちは少なくとも僕達に似た力でもって対抗してくる筈だよ」



それもその筈。
アルコバレーノは五大精霊達と同様に天候を操れる力を持つ。
情報は機密のもので詳しくは知らされていないけれども、ツナがアルコバレーノ相手に炎を吐いた際コロネロにより鎮静されてしまったと聞く。
それも、指を弾いただけで雨を操ったというのだから驚きだ。
バイパーについても、密売がバレそうになった時濃霧を呼び起こし姿を消したという証言が入っている。
人数ならば、5対7と彼方のが勝っている事であるし、完全にとは言い難いけれども雲・晴・嵐・雷の力を持っているに違いない。



「いやですねぇ。本気で潰しにかかろうなんて思ってもいませんよ。ただ、少し日頃の鬱憤を晴らすのには丁度いいかと思いましてね」



奴等の住みかに二・三発雷落としゃあいい話ですよ。
そう語る霧の精の顔は恐ろしく、多分今なら呪縛も軽々とやってのけるだろう。
それほど霧の精の嫉妬の念は色濃かった。



「何だよ、お前ツナに無視された事そんなに気にしてんのか?」

「違いますよ雨の精!あの子が僕を無視する筈ないじゃありませんか!どれもこれもアルコバレーノのせいです!」

「確かにあのお方が俺たちを無視する訳ねぇ!」

「ほら!嵐の精もそう言ってることですし!」



思い出されるのは先日の事だ。
霧の精が可愛らしい小さい龍との接触を試みようとすれば、何処からか魔法銃の弾(特殊な弾で、気弾という。撃つ人の念や気等を込められる画期的なものだが、今では危険物に指定され一般の市場では取り扱われていない品だ)が飛んできた。
何事だと見てみれば、リボーンがツナに向かって魔法銃をブッ放している所でありその流れ弾がどうやら霧の精の目の前を掠めたらしい。



『―――ツナ、『コラァア!!チビ助逃げんじゃねぇえ!!』

『コロネロとリボーンなんて大っ嫌いだぁあ!!』

『ちょっ、』

『ああ?よくその立場で物が言えたモンだなぁチビ助』

『チビ助じゃないって言ってるだろ!』

『それはテメーが人化してるからじゃねぇか。龍の姿に戻ってみな』

『〜〜〜〜〜〜ッ!!!』



何が何だか分からない内に、騒動は嵐の様に去ってしまった。
疾風の如く二人のアルコバレーノから逃げる小さな龍は森の中に飛び込んで行ってしまったので、勿論霧の精は会いに来た小さな龍には振り向かれることなく。
昔はあんなになついてきたというのに―――。
酷い話もあったもんである。
どれもこれも、皆アルコバレーノが来てからだ。
人数が多いと上手くいかなくなるというのは本当の事で、今や小さな龍の小さな脳の中の大半を占めているのはきっとあの悪役非道な奴等に違いない。



「むうぅ、俺はコロネロとは話が合うと思ったがなぁ」

「それはテメーだけだ芝生頭!」



要するに、嫉妬深いのは嵐の精も一緒なのだ。
嫉妬は醜い。
嫉妬は己に自信がない証拠。
雲の精はやれやれと肩を上げ、それでも彼は立派な快楽主義者であるので参加してもいいと思っている。
アルコバレーノは強者軍団であるので、雲の精は然程嫌悪の念じる事は無かったが。



「いいよ、特別に許可しよう。初仕事がアルコバレーノ煽りとは名誉な事じゃない。良かったね」

「えっ、いや、俺はまだするなんて一言も……!」

「おやおや、貴方に拒否権がおありとでも思ってらっしゃるとか?」

「そんな!」



ううう…!と理不尽な職場の先輩達に早速命令を下された下っぱ精霊は悔しさに唇を噛んだ。
雷の精は今まで周りの環境に恵まれており、とても甘やかされて育った精霊である。
能力指数が高いばかりにチヤホヤされて鼻が高くなった精霊なんぞは余るほど居るが、そういう輩は大抵調子付いた頃に摘まれてしまう。
しかしこの雷の精が摘まれなかったのはやはりその能力指数の高さ故。
摘まれなかった代わりに、度胸試しといこうではないか。
要するに、一石二鳥なのである。



「そんなぁ〜!」

「そうと決まればとっとと行け!」

「もしなんかあったら上から助けてやるぜ」

「おお!貴様の本気を見せてみろ!」



調子に乗った天候を止められる者はいない。
神々でさえもなるべくなら直接関わりたくないと苦虫を噛み潰した様な顔をしているのだ。
霧の精の言った通り、拒否権を持ち合わせない雷の精は仕方なくコクりと一つ頷いたのだった。



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