りく

□あの子の居る島
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孤島の天気は本日も良好。
爛れた新世界の五大精霊達が喧嘩を始めなければ穏やかなものだ。
先日越してきた自分意外には、小さな生意気な龍と時折五大精霊達が顔を出すくらいの神聖なる孤島。
亜人や他の獣の姿は見かけない。
それもそうだろう。
そんなものはあの小さな生意気な龍が孤島を訪れた点で徹底的に排除されている。

ラル・ミルチは木の破片を幾つか散歩がてらに拾い集め、椅子を作る事に決めた。
家の方はパシりであるスカルと力持ちコロネロ、設計知識を持ったリボーンにより何とか形になってきたのだが、家具が無い。
そこでラル・ミルチはコロネロとスカルに家本体を任せ家具作りに取り掛かる事にしたのだ。
釘と、金槌。
皮肉なものに使われる用具は旧世界のものと何ら変わり無い。
僅かに残された人間達には住みにくい世の中になったそうだが、基本アルコバレーノや五大精霊という高等階級には空腹が訪れる事は無く、獣達は獣の感覚のまま狩やら何やらで空腹を満たしている。
なので調味料などは新世界に必要ないと思われたのだが、旧世界では美食家でも名の通っていたリボーンが駄々をこねだした。
つまり、根本的に旧世界と新世界の違いといえば生息している生き物の違いと特殊能力者の存在認定程度のものなのだ。
それでも神々は満足している様だし、まあ旧世界に比べれば生態系も著しく平和も保たれているので新世界の設立は成功したと言っていいだろう。


金槌を振り上げ、木に釘を打ち付ける。
ラル・ミルチが艶やかな黒髪をかき上げ、作り途中の椅子から顔を上げれば小さな生き物を発見した。
小さな、年齢でいうと10歳未満の人間の子。
木の影からこっそり覗いている。
先日会ったときは15・6の姿をしていたので、どうやら彼の力は高等なものらしかった。
ただの龍じゃない。
大体の龍は元来高等な神聖なる生き物であるので人化は心得ているものの、年齢をコントロールできる龍なんてのはそうそう見れるもんじゃない。
人化した際に見られる年齢というのは、そいつの力の技量を表すものとなる。
それをコントロールできるのだ。



「隠れてないで出てこい。バレバレだぞ」

「うっ…!」



ただし、頭の方は最下級並なのかもしれないが。
ニイ、とラルが笑って見せると、ツナと名乗った龍がおずおずと姿を現した。
やはりプリーモに似ている。
仲が良い、というよりもそれはあの男が憧れの象徴としてこの龍の中で息づいているからかもしれない。
人化するときのイメージ像として出てくるのだから相当のものだ。
ラルは勝ち誇った様なジョットの顔を思い浮かべてムッとした。
しまった、思い出さなきゃよかった。



「何作ってるの?」



ジョットよりかは愛らしいツナが声をかけてくる。
未だ一定の距離は保たれているが、臆病で懐き難い龍族にしては先ず先ずの距離感だ。



「椅子。テーブルは無くても大して問題無いんだが、流石に椅子は必要だからな。我々アルコバレーノが地べたに座って時を越すだなんて事がバレて広まりでもしたら、格好悪くて示しがつかん」



あのアルコバレーノだ。
神々の下に位置し(本人達は神々をも超越していると自負しているが)、五大精霊達の上にあたる機関。
それが揃いも揃って地べたで生活しているなど、情けなくてたまらない。



「ならジョットから貰えばいいのに。ジョットの家、大きいから椅子なんて山ほどあるよ。高そうなやつ」

「あいつに借りを作ってたまるか。あいつの事だ、絶対に高い利子がつく……」

「友達なのに?」

「誰が友達だ」

「だってジョットが言ってたよ」

「貴様は一々あいつの言葉を鵜呑みにしすぎだ!」



そうだ。この小さな龍は、ツナは。
一々ジョットの言葉を信じすぎなのだ。
新世界の訪れと共にこの世に生まれ落ちてからジョットに拾われ、この孤島にたどり着くまであの王宮に閉じ込められていたも同然だから仕方ないのかもしれないが。
ラルはずうっと息を吸い込むと、ツナを正面から見据えた。
むせ返るような緑の匂いが肺に染み渡る。



「いいか、ツナ。貴様の世界にはジョットとボンゴレでの記憶、そしてこの孤島での出来事しかない。だが良く見てみろ。世の中ツナには想像も出来ないような事で溢れ返っている」



例えばこの椅子ひとつでも、貰ったものと自分で作ったものとじゃ全然違う。
それだけで、未来や世界観も変わってくるのだ。
椅子の造りや高さによって己の目線の高さが変わってしまうし、見えてくる物も当然違ってくる。
記憶も、経験も。



「ホント?」

「自分で確かめて見るといい」



パチパチと大きな瞳を瞬かせて、ツナはラルの作りかけの椅子に手を触れた。
ザラザラとした、削られた木の感触。
王宮では決して触れることの出来ないであろう、感触。



「まだ木材は幾らか残っている。ツナ、貴様の椅子も作ってみるか?」

「えっ、いいの?」

「ああ、構わん。俺が許す」



じぃ、と木材とラルの表情を伺う臆病な龍。
しかしラルが金槌を手渡すと、きちんと受け取り使えそうな木材を探し始めた。
そして拾ってからチョコチョコとラルの側までやって来て、再びラルを伺い見る。
愛らしい、とラルは思わず思ってしまった。
今まで小動物やら何やらにも可愛いだのそんな腑抜けた女子的感情は持ち合わせていなかったのに、成る程確かにこの龍は行動・容姿共に可愛らしいものだ。
ジョットを基盤として形作られているのが些か悔しいが、そんなことはどうだっていい。
ラルはああ、だのうぅ、だの唸ってツナが楽しそうに金槌で釘を木に打ち付ける様子を見ていた。



「ラルってリボーン達と違って優しいから好き」



それはそうだろう。リボーン達と比べる方が間違っている。
ラルはツナの口から不意に発せられた好きという言葉にドギマギしながら、一心不乱に釘を木に打ち付けた。
少し勢い付き過ぎて、ツナが顔を青くしてラルも恐いのかもしれないと今さらな事に気づいていても、ラルの手は止まる気配を見せなかった。
先ほどに比べて少々天候が崩れてきたが、きっと五大精霊の嵐が何かに勘づいて機嫌でも損ねたのだろう。
今晩は嵐かもしれない。



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