りく

□あの子の居る島
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アルコバレーノ。
新世界の思案者であり、創設の加担者であり、自ら新世界の人柱になって世界を統括している神を超越する人間の集団。
己と同じで永遠の命を持ち、この世界の終焉までを見届けなければならない哀れな生け贄―――……。

ジョットはふぅ、とため息を吐いて目の前に座る男を見た。
不機嫌そうな双方の瞳。
漆黒の闇。
気分が重くなってジョットはズルズルとソファをずり落ちかけた。



「全く貴方の気が知れないよ。アルコバレーノとツナを引き合わせてどうするつもりだい?」

「まあそんな怒るな雲の精。お前が怒ると怖い……」

「僕は真剣に話をしてるんだけど」

「分かっている。そのつもりで私もお前を呼んだのだからな」



ジョットは座り直して、再びため息を吐く。
正直な話、こちらだって断腸の思いでツナの元へアルコバレーノを放り投げたのだ。
新世界に於ける超ド級の重要人物達でも、根っからの悪人軍団である。
犯罪の減少を目指す身にも関わらず、バイパーは率先して裏商売に手を出しているし、先日はリボーンが魔法禁止区域で魔法銃を乱射したと聞いた。
それに新世界には必要の無い軍隊に旧世界で所属していたコロネロだって侮ってはいけないのだ。
妊娠中で人柱から免れたルーチェの後釜のラル・ミルチ、策略家のスカル、マッドサイエンティストでありながら新世界に於いては新世界式錬金術の創設者でもあるヴェルデ、雲の精の顔を優しげにしたような感じであるが油断しているとあらゆる拳法と波動拳を駆使して相手をブチのめすフォン。
いずれも新世界のコアとなり軸を保つ人柱になるに相応しい人間達であるが、ツナの身近な人間になるのかと思うと不安しか湧かない。
現在ジョットは目の前にいる雲の精以上に不安で一杯だった。



「しかも彼処は僕たち五大精霊の領域でもあるんだよ。カミサマ達と勝手に決められちゃ困る」

「確かにお前達に相談しなかったのは悪いと思っているが、絶対に聞かないだろう」

「当たり前でしょ」

「それじゃあ駄目なんだよ。最近のアルコバレーノはアルコバレーノである自覚が足りないんだ。好き勝手し過ぎる。本来アルコバレーノは新世界の人柱であり時空間の歪みの調整の担当者でもあるというのに、彼奴等知らないとでも言うかのように暴走しやがって……」

「ああ、確かに彼らは課せられた呪いの割には仲が悪いからね」

「そうなんだ。そこは完全に神々の人選ミスだ。私の責任じゃあない」

「貴方も大概だと思うけど」



自由気ままな神に選らばれし子。
生まれ落ちた時はそれこそ妬まれ怖がられ疎まられ、邪険に扱われていたに違いないが。
旧世界が壊れ、新世界が創られてからは甘やかされていたのだろう。
小さな龍に構いっぱなしの生活から漸く自立したと思いきやこれだ。



「本当ですよ。相手はアルコバレーノです。あの小さい龍が悪用されない確率のが低いでしょう」



フワリと何処からか霧が漂ってきて、見れば霧の精が平然と部屋に入り込んで来ていた。
ピリッと雲の精の纏う空気が悪くなる。
この二大精霊は仲が悪いので困りものだ。
ジョットはコメカミに指を当ててぐうと唸った。
雨は今北地域の監視に、晴は南・西地域の監視、嵐は東地域の監視に当たっている。
霧が暇だった事を忘れていた。



「何しに来たの?湿気っぽいんだけど」

「うるさいですよ、どんより野郎が。僕はあの小さい龍からジョットへの手紙を持ってきただけです。僕が手紙を伺いに行った時点ではアルコバレーノとは予想以上に仲良くなれていなかったみたいですが、何かあったんでしょうね」

「毎回悪いな、霧の精。……そうか、仲良くなれてなかったか」



ガックシと肩を落とし手紙を受け取ったジョットは、すぐに手紙の封を切った。
何かしらの事が書いてある筈だ。
それを読むに越したことはない。
ビリビリと紙が音を立てて千切れて行く。
雲の精も霧の精も、黙ってそれを見届けていた。



ツナ。小さき龍。
しかしその小さい体に秘められている力は絶大な物だ。
今は未だ、発展途上だけれども。
新世界の誕生と同時に生まれ落ちた奇跡の命。
神聖なる器。
ツナは新世界に入りきらなかった力の欠片の塊だ。
だから悪用されてしまった時には、五大精霊の力を持ってしても食い止められるかどうか危うい。
止められるとすればアルコバレーノくらいしかいないのだろうが、中々にその人物自体が危ぶまれている。



「えぇ、と。親愛なるジョットへ。最近煩い人間達が越してきました―――………」



親愛なるジョットへ。
最近煩い人間達が越してきました。
彼らは自らをアルコバレーノと名乗り、俺からしてみればだから何だという一言に尽きますが、まるで自分が世界の王かのような横暴さで各々が自由気ままに好き勝手やっています。
リボーンとコロネロという訳の分からない暴力人種は毎日魔法銃をブッ放して喧嘩をしているし、後から来たヴェルデという訳の分からない怪しい奴は島の木の実や花を勝手に持って帰り変な実験に使っています。
同じく後から来たフォンという訳の分からない男も、日々の練習の持続がなんたらと語った後に木の葉を勝手に散らしては拾って行くのです。
他にもバイパーという訳の分からない(否、彼の場合は金の事しか考えていないから本当はとっても分かりやすいのかもしれない)奴はいつも孤島を一人で歩き回っていますが、きっと金目の物を探しているに違いありません。
スカルとかいう訳の分からない奴は、リボーンとコロネロには頭が上がらない癖に小さいからといって見下した態度をとるのが癪でした。でも他の奴等にもそういう態度をとっている所を見ると、どうやらリボーンとコロネロにだけ頭が上がらないようです。
最後にラル・ミルチという女性は女性らしくなく、でもちょっぴり優しい人でした。
リボーンやコロネロやヴェルデが俺の事をチビ助チビ助と呼んでからかうのを止めてくれたのです。
差別は好きじゃないと言っていました。

またジョットに会いたいです。
というよりボンゴレに帰りたいです。
それでも俺は負けないで頑張りたいと思います。



「ツナより。……うぅ、ツナ!!」



何ということだー!!と叫ぶジョットはさておき、霧の精と雲の精はため息を吐いた。
何というか、仲良く以前に駄目そうである。
小さいからといっても龍は龍。
ツナもプライドが高い生き物だ。
知能に比例してプライドというものは肥大化していく。
つまりはアルコバレーノのプライドも旧世界に於いてのエベレスト級であり、ツナのプライドも富士山級であった。
本当にこの先大丈夫なのだろうか。
ジョットや神々の狙いはアルコバレーノを孤島に纏めておくことでの時空間の歪みの調整と、ツナとアルコバレーノの仲を取り持つ事により更にツナのガードを固めようというものだ。
早々上手くいくはずもない。



「にしても、体が小さいのは彼のコンプレックスだからね」

「アルコバレーノが態度を改めなければ小さい龍は心を開かない。事態はそう簡単には動きませんよ」

「ま、変化を待つことしか出来ないけど楽しませて貰うことにするよ」

「―――えぇ、僕も」



貴様等はツナが心配じゃないのかと叱り飛ばしたい気分ではあったが、この二人である。
言っても無駄だろう。
まるで賭け事を楽しむかのような霧と雲の精にジョットは深くため息を吐いた。
ああ、可哀想な小さな龍。
あんなにもイイコであるのに関わらず!
ただ相手が悪いのだ。
世の中は諦めも肝心だということを教えるいい機会なのかもしれないが―――やはり相手がアルコバレーノとなると、不安を拭いきれないジョットであった。



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