りく
□本日も至って平和
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まあそうなってしまったら仕方ないというかキンシンソーカンにはならないから多分大丈夫。
シュッ、シュッ、と風を切る音が耳元で聞こえる。
コロネロはニィと笑って綱吉から繰り出される拳を受け止めた。
まだまだ生っちょろいが、随分と重みを増してきたものだ。
そのまま細い手首を掴み背負い投げ。
しかし綱吉も器用に着地し、再びコロネロに向かって蹴りを飛ばした。
と、そこで中断させる声が響く。
「おい、テメー等いつまでやってんだ。ツナ、また遅刻する気か」
「えっ、嘘!今何時?!」
「7時52分」
「ギャー!!遅刻だ!もっと早く言ってリボーン!」
「知るか。文句なら今までヤりあってた相手に言え」
窓から呑気に声をかけてくるリボーンを、コロネロは睨みつける。
綱吉はもう13歳。
無事に中学に進学した。
「折角いい所だったのによ」
「程ほどにしろ馬鹿が」
ケッと吐き出すコロネロに、リボーンも眉を潜める。
お互い綱吉が可愛くて仕方が無いのだ。
独占したい気持ちも少なからず持ち合わせていた。
「ツナ、忘れ物は無いか?」
「うん、多分大丈夫!」
靴をセコセコと履き替えている綱吉の後ろからラルが声を掛ければ、そこにスカルがひょいっと顔を出し、綱吉の頭を軽くひっぱたいた。
「いたい!」
「何が大丈夫だ。頭の中身が乏しいんじゃないのか?本日の4時間目を言ってみろ」
「あー……ああっ!!体育だ!」
「だから明日の用意は前日にしろとあれほど言ってるだろうが!」
「うぅっ、ゴメン!」
スカルに叱られる綱吉にラルはヤレヤレと呆れて肩を上げる。
このやりとり、何度目になるだろうか。
「ツナ、今日はスーパーの特売日だからな。荷物持ちを手伝ってくれ」
「うん、じゃあ学校終わったらすぐに行くから!いってきまぁああす!!」
本日の買い出し係のラルに頼まれて、綱吉は返事を返しながら慌てて駆け出した。
完全に遅刻だ。
ヤバイ。
「何、ツナヨシまた遅刻かい?」
「うぅーっ!いってきますマーモン!」
スタコラと玄関を飛び出せば散歩帰りのマーモンと出くわし、普通の家よりも少し広い庭から足を出せば獄寺と山本が待っていてくれた。
綱吉に優しい友達兼、忠実な部下である二人と一緒に登校するのは決まり。
初めはリボーン達が送迎をすると言っていたが、9代目にダメと言われたそうだ。
敵から自分で身を守る事、守護者と今のうちにもっと交流を深める事。
それが大切なのだそうだ。
「君達遅刻だよ。何回目だと思ってるんだい咬み殺す」
門を抜けると雲雀が遅刻指導なんてモンを行っている場合が毎日であるので、本日もチャキっとトンファーを構えて舌舐めずりをする雲雀に綱吉はいつもの如くウエッと顔を歪めた。
「十代目!ここは俺が!」
「いいや、俺が行くぜツナ!」
バッと前に出た二人に綱吉は慌てて声をあげる。
彼等の善意はありがたいのだが――……
「わー!今日は大丈夫!」
「何故ですか?!」
「あのう、そのう……家族に怒られちゃうんだ」
嬉々として雲雀さんから山本と獄寺くんが守ってくれるんだーと綱吉が家族に話した時に、リボーンとコロネロとラルに叱られたのだ。
お前ボスになる身で守護者も倒せないでどうするんだ、と。
六道骸を倒した時は仕方なく(物凄く言い寄ってきて物凄くウザかった)だったのだが、雲雀も倒せという。
逆にスカルとマーモンはといえば、使えるものは使っとく方がいいとまるで獄寺と山本を駒か何かの様に仰ってくれたが、その性格は昔からなので綱吉も咎めたりはしない。
「ツナはまた家族なのなー」
「ううっ……リボーンさんの言う事なら仕方ありませんね…」
「ごめんね、二人とも!」
「何グダグダやってるんだい。いくよ」
「わぎゃー!雲雀さんちょっ、タンマー!」
構わずに突っ込んでくる雲雀に綱吉は焦りながらもハイパーモードになる。
雲雀はリボーンと戦いたい戦いたいと以前から言っているのだから、俺じゃなくてリボーンに相手してもらえばいいのに。
そう思ってから、でもダメなんかその光景なんかムカツクと綱吉は手袋をはめ、グローブ化。
雲雀をのす為に、ぐっと左足で地を蹴ったのだった。
「今日はシチュー?カレー?」
「ツナが食べたい方でいいぞ」
「んじゃ、カレー」
台所に立ち、むーんと唸って首を傾げる綱吉は今日の夕食当番だ。
買い物当番のラルと一緒に買い物を済ませたあとで夕食を悩んでいる。
ちなみにこの家族で料理が出来る人間なんてリボーンとスカルと綱吉しか居ないので、料理当番というのはやたら貴重な当番なのだ。
トントントンとやたら慣れた手付きで料理を始めた綱吉の後ろで、スカルが微妙な顔をしている。
何かと思ってとりあえずリボーンが声をかけると、スカルは小さく溜め息を吐き出した。
「いや、いい嫁になりそうだなー……と」
「ンだテメェそんな事か。あたり前だぞ。ツナは行くゆくは俺の嫁になるんだからな」
「あー、その話なんですけどね」
今は部屋にいるであろうコロネロとラル、マーモンの顔を思い浮かべてスカルは更に深く溜め息を吐く。
「多分アレですよ。リボーン先輩がそう思ってるように、綱吉以外のここの人間がそう思ってる。つまり、綱吉の身の安全が色んな意味で失われ始めてるという……最近気付いたんですけど、綱吉を自分好みに育てすぎたのが問題かと」
そうなのだ。
リボーン、コロネロ、スカル、ラル、マーモンの5人は綱吉を自分好みに仕立てあげた。
つまりは理想が完璧に実現してしまった今、綱吉は完全に恋愛対象としても見られるようになってしまったのである。
コロネロなんかが分かりやすくていい例だ。
この前なんて「アイツ最近色気付いてきたなコラ」とか素でホザいていた。勘弁してくれ。
元々血の繋がりなんてのは無いのだし、家族と言えど問題は無い。
しかしそれが大問題だった。
「家事もこなせるようになってくると更に欲しくなりますしね」
「ま、心配ねーだろ。ツナは確実に俺を選ぶ」
「だから……全員が全員そう勘違いしてるんですって」
自信ありげにククッと笑うリボーンに、スカルが嫌そうに顔を歪める。
嗚呼、面倒だ。
皆がこの情に気付いて争奪戦なんて始めた日には。
「ねーねー、ルー無かったからやっぱりシチューでいい?」
「「別にどっちでも」」
ヒョッコリと顔を出した綱吉に、二人声を揃えて返せば綱吉はキョトンとした。
そりゃそうだ。
リボーンとスカルは僅ながらに威嚇し合い、殺気を漏らしているのだから。
結構スカルも家族の一員。
負ける気なんてのは毛頭ない。
「むぅー……なんか良く分かんないけど、喧嘩はヤメてね。家が壊れるから」
「フン、俺より家の心配かツナ」
「えー……だってリボーンとスカルは怪我しても死なないけど家が壊れたら流石に悲しいじゃんか」
「リボーン先輩はともかく、人を化け物みたいに言うのはヤメロ」
サラリと本音を漏らした綱吉とスカルにリボーンの銃が鳴く。
けれど威嚇射撃に当たる程ヤワではない二人はサッと身軽に避けている。
こんなことは日常茶飯事だ。
リボーンはチッと舌打ちをした。
「とにかく、だツナ。お前はシチューをとっとと作れ。俺の為にな」
「意味が分からない、シチューは皆で食べるモンだろ。ねぇ暇なら手伝ってよ。スカルでもいいから」
「断わる。今日の晩飯担当はアンタだろ。ちゃんとひとりで作れ」
「はあい」
ハナから手伝って貰えるなんて期待なぞしていない綱吉は間のびした返事をそこそこに返し戻って行く。
そして再び、トントントンと包丁で物を刻む音が聞こえてきた。
「ふぅ。これからは家族も敵になるのか、心がいてーぞ」
「綱吉以外を家族と思った事ない癖に良く言いますね」
「そりゃお互い様だろうが」
「まあ、否定は出来ませんけど」
無論、他の同胞もそうだろう。
綱吉以外は家族だとは思っていない。
腐れ縁はただの腐れ縁。
同胞はただの同胞。
結構アッサリとした性格の持ち主達だ。
それ故に遠慮というものが無い。
だからこのひとり息子を恋人に、最終的には嫁にする為に少しは必要とされるであろう躊躇いが全くと言っていいほどなかった。
「うっ……なんか寒気が…」
しかし綱吉は超直感に反して超鈍感も持ち合わせているので、そんな事になっているとは気付かない。
ただただ何処から来ているのか分からない嫌な予感に身を震わせて、シチューを健気に作っている。
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