りく

□本日も至って平和
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ラルと









小学も高学年になった頃だろうか。
綱吉に友達が出来た。
なにせ引っ込み思案な性格が祟って友達が出来にくい体質であった綱吉なだけに、彼の家族は目を丸くした。
因みにこの家族達が目を丸くすることなんて滅多に無いので綱吉はそこまで予想外だったのかとションボリしたのだが。
その綱吉が、今度の日曜友達を連れて来るという。



「どんなヤツだと思う?」

「フン、どうせ軟弱なヤローだろコラ」

「とりあえずツナヨシ狙いだろうね。全く不届きものを選ぶとはツナヨシも理解が足りないよ」

「護身術は教えてありますがツナにその気がなければ意味ないですからね。でも漸く出来た友情を俺達がブチ壊すのも如何なものかと」



多分そんな事をした日には綱吉が遠慮なく怒るだろう。
小学生の高学年といえば反抗期を迎えてもいい頃だ。
この家族はルックスが極上であるので「一緒に洗濯しないでって言ったでしょ」などと思春期の娘が反抗する時に言うような台詞は吐かれないとしても、綱吉に心の距離を取られるとなると少々厳しいものがある。
家族会議と称して綱吉以外のメンツが真面目にひとつの机に揃いウンウン唸っているのだが、一向に良い解決策が出ない。



「俺にいい考えが無くもない」



と。そこで手をあげたのはこの家族の紅一点、ラル・ミルチだ。
彼女に一斉に視線が集まる。



「綱吉は変なものを惹き付ける癖……というかあれは最早病気に近いな。しかもそれに全く気付かない超鈍感力を持ち合わせている」



ラルの言葉に男達はコクリと深く頷く。
綱吉はどこからかフェロモンを出しているのか変人ばかり引っ掛けてくる。
例えばそれは少し思考のひんまがったオジサンだとか、春になったらよく現れる―――……まあ早い話変態を釣り上げるのが上手いのだ。
綱吉が何か釣り上げてくる度に、リボーンは愛銃を手にしたし、コロネロは拳をきつく握り締めた。
勿論、マーモンやスカルやラルもこぞって変態退治に参加したのだが、どれもこれも全て可愛い可愛い綱吉の為である。
この親達は可愛い子には旅をさせずに家の中で健やかに育てたいタイプであった。
しかしボスになる人間に人を惹き付ける力は重要。
綱吉はその力に人一倍恵まれている。
だから要らないものまで引っ掛けてしまう。
超直感と超鈍感のどちらかひとつを常に所持している、使い分けが上手くできないのが綱吉。
長所も短所も、それらはまとめてひとくくりにした様な力なのだ。



「大体綱吉に引き寄せられる人間は思考回路が中々に危険なウジ虫野郎だ。だからちょっとやそっとじゃ引き下がらない。綱吉が護身術を発動したとして奴らに身体的苦痛を伴おうとも、精神的苦痛は伴わない。つまり俺が言いたいのは、人間をフる力も綱吉に付けるべきだということだ。そこで俺が直々に綱吉に『男をフる方法』を伝授したいと思う」



バンッとラルが机を叩く。
人をフる力か。
成程。
ラルも一応女であった。
男達は失礼な事を思いながら、失礼な事を漏らす。



「あの女に告白された経験があるってのが中々に疑問だなコラ」

「まあ見た目だけは女ですからね。中身を見ないマヌケが多いんじゃないですか」

「ラルに『フる』技術を教わったらツナヨシ、相手を病院送りにしかねないね」

「アイツの『フる』は明らかに『殺す』ってのと同じ意味だからな。ツナはアフロディテのままでいいぞ」



ヒソヒソヒソと小声で聞こえてくる男達の囁き声にラルのコメカミがピクリと動いた。
元来沸点は高くない。
その麗しき顔に従えるのは恐ろしく美しい笑み。
そして右手、左手に二丁拳銃を所持した彼女は爽やかに一言男達に告げる。



「貴様等いっぺん死に晒せ」








家から何らかの爆発音やら銃声が響きわたるのは、もうかれこれ幼い頃からの日常茶飯事なので綱吉は至って気にしない。
そんなしがない今日の一日をベッドでぐだーっと過ごしながら(父親を自称する4人の男と1人の女性にかせられる訓練がないとても至福で貴重な時間なのだ)綱吉は明日来る友達の為に部屋を片付けなければとのんきに思考を巡らせていた所であった。
はじめて友達を家に呼ぶ。
綱吉はとてもワクワクしていた。
野球が大好きな寿司屋の息子山本と、イタリア人とのハーフであるやたら目付きの悪い子獄寺。
二人共何故か喧嘩ばかりしているので、山本がうちに遊びに来ると言う話をしたときにまさか獄寺も来ると言い出すとは思わなかった綱吉だ。
でも嬉しい。
綱吉にとって、友達はあくまで友達なのだった。



「ツナ、入るぞ」

「あ、うん」



ガチャリとドアが開き、ラルが入って来る。
綱吉もベッドで横になっていた体勢を直す。



「今度うちに友達が来るそうだな。どんなヤツだ?」

「えっとね、獄寺くんと山本っていう、山本は商店街にあるお寿司屋さんの息子で、野球がすっごく上手なんだよ!」

「ふうん」



嬉々として話す綱吉の頭を撫でながら話を聞いてやる、が。
さて、しかし。
こうも友達を信じているとどこから話を進めて良いのやら。
ラルは平然とした顔で、どうしたものかと考えた。



「ツナ。ひとつ俺と約束して欲しい事があるんだ」

「約束?」

「そうだ。これはとっても重要な事だ。いいな?」

「うん。別にいいけど――……約束、って?」



不思議そうに首を傾げ見上げて来る綱吉に、ラルはニィと笑って見せる。
獄寺と山本。
確か授業参観で綱吉の隣を譲らなかったガキ2人か。
授業も帰りの会も終わり帰宅準備を済ませ此方に走り寄ってきた綱吉に、「もう帰るのか」「これから駄菓子屋でジュースでも」としつこく言い寄っていたクソガキ共。
ラルの中ではブラックリストに登録されている2人だ。
綱吉は友達だと思っている様だが、違う。これは安易に断定できる。
しかし問題がひとつ。
あのガキ達は、将来綱吉の守護者として役目を果たすという義務が生じているのだ。
メタメタに打ちのめす事は敵わない。



「いいか、ツナ。貴様は将来ボンゴレのボスになる男だ」

「えー……将来アルコバレーノに入りたい」

「それは無理だ。ツナはボンゴレの血を継ぎし人間。アルコバレーノにはなれん」

「みんなと一緒がいいのに……」

「俺もアルコバレーノではない。俺と一緒じゃ嫌か?」

「嫌、じゃないよ」



ふるふると首を横に振った綱吉にラルは内心で感動していた。
周りにあんな非道な人間(自分は換算しない)が居て、よくぞここまでスクスクと良心を抱えたまま育ったものである。



「で、だ。ボスは半径1m以内に人間を寄せてはいけない事になっている。家族は心から信頼できる絆で結ばれているが友達程度の絆では認められん。だからな、殴るのではなく注意を促す為にビンタをしろ。相手が離れるまで往復ビンタの嵐だ」

「ビ、ビンタぁ?それ、山本と獄寺くんにもしなきゃ駄目?」

「ああ。だが殴るんじゃないんだからいいだろう。ビンタなら相手も自分が無礼を働いた事に直ぐ様気付き謝罪の気持ちや反省の気持ちを含むだけで嫌悪や憤怒の念は忘れるはずさ」



そっかぁ、と綱吉はラルに説得され呑気に頷いているが――……本当は逆である。
殴られても蹴られても立ち上がってくるウジ虫野郎は、体罰ではなく気持ちの面での拒絶を色濃く伝えなければ理解しない。
その為には、ビンタ、ビンタ、ひたすらビンタだ。
ビンタには女性が男性を拒否・拒絶するときに活用され、きゃー!イヤー!こないでー!という意味も間接的に伝わる筈。
綱吉にその気が無くとも、ビンタというのは精神的苦痛を相手に仕掛ける。



「約束できるか?俺と」



自信あり気な表情に綱吉はこくこくと頷く。
幾等嘘を吐かれていようとも、基本家族の言うことには逆らわない(だって恐い)し、それをそのまま綱吉は鵜呑みにするのが常だ。
だっていつも綱吉に命令(あれらは大体命令だ)を下すときの家族達の顔といったら。
世界の秩序は俺が決めてるというかのようで、実に格好いい。
そんな彼等の顔を見ると、逆らう気を失うというのが正直なところだろう。



「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます」

「ゆーびきった!」



えへへーと綱吉が笑い、ラルが綱吉を抱き寄せ頬にキスをする。
綱吉は本当に幼い。
特に家族の前だとデレデレ。
高学年になってこれとは普通の家族なら心配を始めるだけかもしれないが、ここの家族は違う。
だが仕方のない事なのだろう。
体術や武術の訓練時には家族はやたら厳しくなる。
加えて仕事などでいなくなってしまう時もある。
だから甘えられるという事は綱吉にとって貴重な事だったりするのだ。



「よし、そうと決まったら早速反射の練習だ。四方八方に意識を集中しろよツナ。ああ、手加減はしなくていい。俺の肘を相手の顔だと思い狙って繰り出せ。あと平手は手を指先までピンと張った方が威力がデカい。絶対に気を抜くな。いくぞ」



ラルの開始の合図に、綱吉はフッと瞳を閉じた。
チリッと額から火がともり、再び瞳を開けるとそこには鮮やかな橙が広がっている。
これがボンゴレの力だ。
初めは薬を要したが、今ではそんなもの無くとも力を発揮できる。


余談だがこれにより山本がトイレと席を立った時に獄寺が綱吉にここぞとばかりに近付いたのだが―――……
言うまでもなくラルが鍛えた綱吉の反射が発動、痛烈なビンタが繰り出されたのには他の家族も微妙な顔をするしかなかったという。


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