りく

□本日も至って平和
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スカルとマーモンと









リボーンとコロネロが反省に徹している間の綱吉の面倒はスカルが担当していた。ラルは仕事が入り今日一日は帰って来ないが、明日には帰って来るはずだ。
やはり女性の存在というのは子供にとって大きいらしく、一応見た目は女であるラルの存在は綱吉とって大きかった。



「ホラ、涙拭け」

「むぐっ」



ハンカチを顔に押し付けて涙を拭ってやれば、綱吉は悲しそうに眉を下げた後で手を広げてくる。
だっこ!の合図だ。
スカルはそれをうけとめ、綱吉を抱きあげてから背中をゆっくり叩いたり撫でたりしてやった。
ぐすんぐすんひっくひっくと耳元で聞こえる。



「うぅぅ〜っ」

「今日の夕飯はツナの好きなカレーだぞ」

「にんじん〜っ」

「……今日は特別食べなくて構わないから」

「さらだのとまとは〜?」

「それは食え」



甘えはさせない。
トマトくらいならば食べられる筈だ。
綱吉を抱きしめながらカレーの様子を見る。
綱吉も悲しさよりも空腹が勝り始めたのか、カレーに目を奪われていた。
口からは涎が出そうである。



「ラルはぁ?」

「仕事に行った」

「ふう〜ん……」

「俺じゃ不満か?」

「ううん。スカルもすき」



少しションボリしたかと思えば、慌てて引っ付いてきた。
可愛いものだ。
ただ今朝からコロネロの訓練に付き合っていた為か汗くさい。
マーモンが帰ってきたら風呂に突っ込もう。



「リボーンとコロネロは?」

「上で部屋の修理をしてるみたいだ。気になるんだな?」

「う〜ん。ちょっとだけね。ちょっと、ちょびっと」

「そうか」



クスッと笑うスカルに綱吉もふへへーっと笑って見せた。
笑った。漸く。
綱吉は優しい子である。
敵であるボンゴレの9代目から直々に頼まれた時は驚いたものだが、悪い話では無いと思っていた。
逆に考えれば、育てかたひとつでボンゴレが変わるのだ。
弱体化させるのも可能。
といってもその話は他のアルコバレーノにも教育が託された時点で見事に崩壊した訳だが。



「あ!マーモンかえってきたよ!おかえりー!」

「ただいま……って。何、ツナヨシまた泣いたのかい?よく涙が尽きないね」

「んむぅー」



チュッとただいまのキスを綱吉の額に落とし、マーモンはほっぺたをふにふにと引っ張った。



「リボーン先輩とコロネロ先輩が調子こいてツナを巻き込んだ所をラルが怒鳴り付けたって訳だ」

「ふうん。あいつ等も良くやるというかなんというか。馬鹿だよね」



スカルから綱吉を受取り、今度はマーモンの腕の中に綱吉が収まる。



「ばかっていっちゃだめだよー」

「はいはい。ツナヨシは汗くさいから風呂に入りなよ」

「スカルがマーモンとはいれっていった」

「そ。なら早く服脱ぎな。ばんざーい」

「ばんざーい!」



綱吉を床に下ろして万歳をさせ、服を脱がす。
寒いと唇を尖らす綱吉を再び持ち上げて風呂場へと移動するマーモンに、スカルはチラリと目配せをした。
マーモンの幻術の授業はいつも風呂場で行われるのだ。
例えば風呂場に魚が現れて悠々と泳いだり、そんな類の。
しかし楽しい幻術もやりすぎると疲れる。
綱吉は今日、いつもよりも疲労を感じている筈だ。
なのであまりやりすぎないように、との忠告である。









「やりすぎるな、と。俺は言ったつもりだったんだが?」

「違うよ。幻術じゃない」



ところが風呂から出てきた綱吉はスウスウと寝息を立てていた。
疲れて寝てしまったようだが。
夕飯はどうしたらいいのだろうか。



「まあ、いい。寝かせてくる」

「あ、そうだ。ツナヨシに足し算くらい覚えさせた方がいいよ。さっき聞いたらまったく問題の意味すら理解出来てなかったから」

「そうだな……体術や武術だけじゃアレだし…。考えてみよう」

「とりあえずお金の換算くらいは出来て貰わないとね」



ムフ、と口元をゆるませたマーモンは放っておくとして、スカルは綱吉を抱き二階へと上がる。
リボーンと綱吉とコロネロの部屋が二階に、スカルとマーモンとラルの部屋が一階に設置してあるのだが、毎日日替わりで綱吉の部屋に入り添い寝をするのが決まりだ。
途中リボーンの部屋を伺えば、地道に修理をしている―――…訳がなく、サボって寝ていた。
コロネロも居ないところを見るとそうそうに切り上げて自分の部屋で自由に過ごしているのだろう。
責任感の欠片もない人間達だ。
スカルは小さく溜め息を吐いた。


綱吉の部屋に入り、ベッドに横にさせる。
スヤスヤスウスウと寝息は規則正しく、眠りが深い事を意味していた。
明日からは足し算の勉強も加えるとして、そろそろチェスやパズルなどを起用して頭脳を鍛えるのも必要だ。
軍師であるスカルとしては、そこは譲れなかった。



「おやすみ、ツナ」



ちゅ、と起こさないように優しく頬に口付けてスカルは下に戻る為に体を起す。
一時間チョイくらいなら綱吉もスヤスヤと寝ているだろう。
その間にやることはたくさんある。
仕事というのは切り放したら最後。
だが綱吉が夜起きて周りに人が居ないとピーピー不安に泣き出すのは勘弁なので早々に切り上げなければ。
多分そうなったらリボーンかコロネロが駆け付けるだろうが、何だかシャクである。
スカルは面倒そうに眉を潜めて階段を下りていった。
それでも、綱吉の事となれば不思議と面倒が面倒と思わなくなるのだからびっくりだ。
それだけ特別な存在。
フッ、と笑みが知れずに漏れる。

嗚呼、結局は。
所詮あのアルコバレーノも人の子だという事だ。



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