りく

□本日も至って平和
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家族というものは別に気とか使わなくてもどうにかなっていくものである。













以前からの友である彼からの頼みというものは、職業が職業の為に今まで全てといっていい程キナ臭いものであった―――……のだが。
リボーンは目の前にいる小さな存在に首を傾げた。



『可愛いだろう、リボーン。これが私の跡継ぎだよ』



友の顔はデレデレと崩れていて、まるで孫を持ったジィの様だ。
リボーンはそんな友の姿に若干引きつつ、差し出されたそれを見た。
大きな瞳には甘い甘いべっこう。
プニプニと柔らかそうな頬に白い肌。
髪はホワホワとまとまりがなく、こちらも淡い粟色だ。
まるで小動物。
何だ、この生き物は。
言わずもがな、ガキである。



『ちょっとややこしい事になってな。この子の親である家光と奈々さんは日本で身を隠しておる。そこでだリボーン。否、アルコバレーノの一員として君に頼みがある。この子の親になってはくれないか』

『何でだ。アンタが育てりゃいい話だろうが。手は有り余る程にある筈だぞ』

『うーむ……そうしたいのは山々なんだがねぇ』



むむむ、と唸ったボンゴレ9代目は、向かいに座るリボーンの目を伺い見た。
そして辺りを確認すると、ヒソヒソとした声で呟く。
その間、子供は上下真っ黒なリボーンを物珍しそうに見ながらもチューチューと差し出されたオレンジジュースをストローで飲んでいる。
シパシパと瞬きが時折繰り返された。
リボーンはそれを横目で流しながら、こちらもカップに入ったエスプレッソを優雅に煽る。



『実はねぇ、この子がザンザスを怖がるんだよ……』



困った困ったと眉を下げる友に、リボーンはザンザスの顔を思い浮かべた。
ハッキリ言ってクソガキである。
ガキ大将もいいとこだ。
ザンザスは9代目の実子の為に10代目候補と上がっているのだが、どうやら目の前にいるこのガキの方を9代目は選ぶらしい。
そりゃザンザスを怖がるに違いない。
奴も何らかの威嚇をしているだろうから、確かにこのボンゴレにおいておくのは中々に危険そうである。



『ま、いいだろう。依頼を受けた以上、この俺が立派なボスとして育てあげてやる』

『うむ、よろしく頼むよ。ああ、そうそう。とりあえず君達の住む家としてとても良い場所を買い取ったんだ。きっと気に入る筈だよ』



態々家まで買い取るとは良くやる物だ。
それほどこのガキを10代目にしたいらしい。
リボーンはニィと笑って見せると、ジュルルルルルとオレンジジュースを最後まで飲み干した子供に手を差し出した。
子供はキョトンとしていたが、とりあえず小さな手をリボーンの手に重ねる。
その仕草は、おそるおそるといったところだ。
臆病な性格。だがしかしマイペース。
リボーンは小さな手を握って「よろしくな」ともう一方の手で子供の頭を撫でた。
3歳の沢田綱吉と、17歳のリボーン。
年齢に些かの疑問は覚えるものの、この日から彼等は親子となり一緒に人生を歩んで行くことになった。














「うわぁあああああん!!」



今日も今日とて綱吉の響きが家に響きわたる。
今日は日曜日だ。
そして朝の10時だ。
リボーンは布団の中で眉を潜めた。
鼻につくのは朝食の香り。
窓から漏れてくるのはお日様の光だ。
そんなのどかな一日の始まりに一体全体何だというのか。



「うわぁあああああん!!リボーンたすけてぇ!」



バーン!と部屋のドアを遠慮なく開けて綱吉がリボーンの布団に潜り込んでくる。
大きな瞳からは涙がボロボロ溢れている。
リボーンは欠伸をひとつ漏らして、綱吉を抱き込んだ。



「ンだツナ……朝っぱらからうるせーぞ」

「だってコロネロが!」

「あぁ?」

「コロネロがツナのおなかをなぐったの!」



ピーピー喚きながらリボーンに必死に訴える綱吉に、やれやれ仕方がないとリボーンは体を起こし綱吉を膝に抱えた。
綱吉はリボーンの胸元に引っ付いて完全に離れようとしない。ひっつき虫になってしまっている。
するとドスドスと足音を立てて誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。



「ツナ!まだ訓練は終わってねーだろコラ!!」



コロネロである。
5才児に体術を教え込む為に実際の訓練としてミゾオチでも殴ったのだろう。
全く迷惑なネイビー野郎だ。



「リボーン、ツナを寄越せ」

「断わる。それにツナは朝食を食ったら銃を教わる予定だからな俺に。今体力を消耗させられたら困るぞ」

「テメーの事情なんざ知るかコラ。ツナ!」

「いぃーやぁ!」



コロネロが綱吉の首の後ろを引っ張り、綱吉がリボーンの襟首を引っ張る。
朝っぱらから賑やかなのはいつもの事だ。
それもこれも、全部原因はあの9代目にある。
(……ったく、いくら大切な跡継ぎだからってアルコバレーノを4人、なり損ないを1人付ける必要は無かったぞ明らかに)
9代目が買ってくれたという家(は郊外にあるまあリボーンには小さすぎると感じる程に平凡な一軒屋だった)に綱吉と入居すれば、後から後から腐れ縁が顔を出した。
一体何の冗談かと問えば、ボンゴレ9代目からの依頼らしい。
中には敵方軍師なんかもいて、正直目を疑った物だ。
喧嘩をすれば綱吉が泣くし、9代目に文句を言ってくると各々腰を上げれば綱吉が今にも泣きそうな顔で眉を下げるしでどうしようも無かった。
たったひとりのガキに何を戸惑っているんだと自分を責めようにも、綱吉は至って真面目である。



『ひとりぼっちはや!』



と迷子の子犬の様な目で言われてしまえば、あのアルコバレーノでもお手上げだ。
そこから5人の家族を得た綱吉はご満悦だったが、まさか武術やら体術を教わるなんて思っても見なかっただろう。
毎日毎日泣くわ喚くわで、それでも頑張って受け身の体勢をとっている。



「ム。朝っぱらからヤカマシイんだけど……。もう朝御飯出来たって。ツナヨシ、おいで」

「ん!」



ひょっこりと何処からか現れたマーモンが両手を差し出せば、綱吉はリボーンとコロネロの間をスルリと器用に抜け出し、マーモンに抱きついていった。
そのままだっこをして貰っている。
随分な甘えっこであるのだ。



「アイツもう5歳だぞ」

「テメーが甘やかし過ぎたんだろコラ」

「ああ?ンだとテメー殺す」



寝間着から銃を取り出したリボーンにコロネロも構えを取る。が。



「リボーン!コロネロー!ごーはーんー!!」



綱吉の呼び声にお互い腕を下ろした。





「ツナ、飯を食べてる時は足をバタつかせるな」



朝食を担当するのは専らパシリと名高いスカルの役目だ。
そして躾を担当しているのは唯一の紅一点であるラル・ミルチ。
綱吉の隣にはラルが座り、不器用な綱吉が溢すご飯を拾ってやっていた。



「あと箸の持ち方が違う」



エンピツを持つように、とラルに直されて更に食べ難くなった綱吉はぶーたれながらも頑張っている。
これで来年から小学校に上がらせるというのだから、9代目の考えている事は理解ならない。
ラルは小さく溜め息を漏らす。



「正直言って不安だ……」

「とりあえず文字の読み書きを叩き込んだが、まだまだ一般のガキよりも劣るだろうな」

「ツナヨシは物覚えが悪いからね」

「だが努力すれば問題ないぜコラ」

「ま、あと半年あるしな。勉強もそうだが今一番重要になってくるのは護身術だぞ」



何せ綱吉はあのボンゴレ10代目候補。
しかし流石にアルコバレーノも小学校にまではついていけない。
それに綱吉は可愛い。
堪らなく愛くるしい。
変な輩に付きまとわれては大変だ。



「ツナ、ピーマンもちゃんと食わないと大きくなれないぞ」

「むー……やだ、いらないもん」



ぴょいぴょい、と皿のはじにピーマンを寄せて苦い顔をする綱吉に、スカルの眉が上がった。



「ピーマン食べないと平仮名の書き取り10回」

「ふぇっ?!」

「嫌ならちゃんと食べるんだな。さて、ピーマンと平仮名の書き取りどっちが楽だろうか……」

「うぅぅぅっ」



うるうると綱吉の目がうるみだす。
ちらり、と横にいるラルに助けを求めたりするが、ラルも「ちゃんと食べろ」と申してくる。
リボーンとコロネロは最初からアテにしていない。
この二人は厳しいのだ。
いつもは優しくしてくれるが、躾や勉強、体術などの事になると手を抜いてはくれなかった。
ひぐひぐと喉を鳴らしながら今度はマーモンに視線を預ける。



「まーもんん……」

「僕は何も出来ないよ」

「……けち」

「ケチで結構」



ぷぅと餅の様に頬を膨れさせた綱吉に、リボーンは腕を組んでフンと鼻を鳴らす。
訓練以外では手は出さないようにしているのだ。



「「「「「ツナ」」」」」



上から押し付ける様な五重奏と視線に、綱吉は渋々と箸でピーマンをつまんだ。
そして口に運び、半分程加えモグモグとやってからペッペと吐き出した。



「まじゅい!」



唇を尖らせてイヤイヤと首を横に振って見せる綱吉に大人達はやれやれと息を吐く。
こうして綱吉は甘やかされて行くのだろう。
そう知りながらも叱り飛ばす事の出来ない5人は綱吉の泣きそうなツラをどうしたものかと見つめていた。



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