りく

□Love alcoholic drinks.
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散らかる酒瓶の数々に綱吉は頭痛を覚えた。
というかこの部屋って、え、俺の執務室じゃなかったっけ?という疑問は心の奥にしまい込むとしてだ。



「酔っ払ってる状態で申し訳ないんだけど状況兼理由説明よろしく」

「気にすんな、ただの酒盛だぞ」

「ふざけんなよそでやれチクショー!!!」



ワギャー!と綱吉が叫んだ。
此処を何処だと心得る?!
執務室だぞ!執務室!
執務室といえば仕事に忙しむ場所である。
それを揃いも揃ってこの未成年共はナメ腐っていた。
普段は怠けるな何だと人に蹴りやら張り手やら時には銃弾さえも撃ち込んで来るくせに、なんたる為体。
綱吉は思わず泣きそうになった。
全くもうお父さんは君達をそんな風に育てた覚えはありません!



「うぅっ……!リボーンはともかく何でお前等も悪乗りするんだよ」



ぐぬぬ、と下唇を悔しそうに噛み締めた綱吉は、執務室に集まった他の面子に目を配った。
コロネロにスカル、マーモンにラルまで。
酒を酌み交す程仲良かったっけそもそも君達。
いや、別に仲良き事は素晴らしき事だけれども。



「知るかよ。俺はコイツがイイ酒が入ったとか言うんで来ただけだぞコラ」

「俺はアンタに交渉を持ってきた所をリボーン先輩に捕まっただけだ」

「僕も報告書を置きに来たら偶々ね」

「俺もだ。オレガノが急用で行けないってんで代わりに書類を持ってきてやった所にこいつ等が居た」



フン、と鼻を鳴らして各々酒を口に運ぶ(それにしてもどれもこれも度数の高そうなものばかりだ。信じられん)様子は子供ながらに結構様になっている。
といってもリボーンやコロネロ、スカルには背を抜かされてしまったので致し方がない事実なのかもしれないが。
今回の原因に関しては、毎度毎度期待を裏切らないリボーン様に問題があるようだ。
綱吉はムスッとした顔でリボーンを睨む。
リボーンはそんな綱吉の視線を受けてニヤリと笑って見せた。



「まあ、機嫌なおせよ。一緒に飲もうぜボス?」



普段ならしないであろう、優しい声と人を誘うような仕草。
酒は色気を無駄に増幅させる効果があるが、普段からたっぷり色気を含んでいるこの男に投入されると毒にしかならない事が分かった。



「本当はダメなんだけどなー。未成年の飲酒」

「日本基準で考えんな。ここはイタリアだぞ」

「ラルなんて女の子なんだからな。ちゃんとしないと元気な赤ちゃん生めないぞ?」

「地味にセクハラ発言だなコラ」

「ツナが子供を欲しがってるってんなら俺は飲酒をやめてもいいぜ」

「僕はセクハラで返す女もどうかと思うけどね」

「というか全てが全て今更すぎるだろう」



用意された酒の種類は豊富。
全くこれほどの量を何処から仕入れてきたのやら。



「俺は明朝から仕事入ってるから気持ちだけでいいよ。どーせお前等泊まってくんだろ?布団用意してく、るッ!?」



そう言って執務室の奥にある寝室兼私室に足を伸ばそうとすると、思いきり服の裾を引っ張られた。
そのまますっ転んでデコを打つ。
痛い!と抗議を吐き出せばリボーンがクツクツと笑っていた。
ちなみにこれは既に酔っているからだとかそんな可愛い理由なんかではない。
ただの性格だ。



「俺の誘いを断るつもりか?」

「だから明日は朝から仕事だってば!!」

「フン。ボンゴレのボスがそんな年寄りじみた心配してどうする。俺は悲しいぞ。って事でオラ、飲めダメヤロー」

「っぐう!」

「酒は飲んでも飲まれるなってなコラ」



リボーンに押さえ付けられて、コロネロに酒を口に注がれる。
なら酒を飲ませないで頂きたいものだ。
熱い液体が喉を通る。
まるで焼ける様。
強い。度数が。
綱吉はゴクリとそれを飲み込んだ瞬間ゴホゴホと咳き込んだ。
甘い琥珀には、涙がうっすら滲んでいる。



「何だ、アンタ酒弱いのか」

「う、ううう煩いっ!」

「なら俺が引き取ってやるぜ。存分に飲めよツナ」



クククッと喉を鳴らして笑うラルが綱吉の頬を軽くつつく。
おや―――……?
そこで綱吉は疑問を覚えた。
もしかして。



「もしかして……ラル、酔ってる?」



うっすら赤く染まった頬に、据わった目(トロン、と。と言いたい所だが残念ながら完全に目が据わっている)。
綱吉の腕に腕を絡ませ胸を押し付けてくる積極性。



「酔ってない」

「いや、でも……うん」



絡ませられている腕をちょっぴり捻られ、綱吉は顔を青くした。
今彼女に逆らったらマジで腕を持ってかれかねない。
ちなみに絡ませられている腕は右腕なので、次の日からの仕事に影響が及ぶだろう。
それは、それだけは笑えなかった。
ただでさえたまってるのに。仕事。



「ケッ、その女意外と酔いやすいんだよ。相手にしなくていいぞ」

「相手にしてたら腕持ってかれるだけじゃ済まねぇぜコラ」



グビグビと酒を再び煽りだした4人はラルにチラリと視線を投げ掛けると何事もなかったかのようにツマミなどを食べている。
何て薄情な奴らだろうか。
ラルだって仮にも(失敬)女の子だというのに。
そこですぐに同情してしまうのが綱吉という人間だった。



「ツナは最近仕事仕事って下らないファミリーの相手をしすぎだ。もっとその分俺に構え」

「はぁ……、」

「それにだな。バジルには手料理を食わせておいて俺には食わせないというその神経が分からん」

「えっ、俺の手料理なんか食いたいの?別に今度作ってやってもいいけど。何が食べたい?」

「肉じゃが、それかシチュー」

「了解。じゃあ今度時間調整しておくからな」



腕に絡み付かれたまま、何十分が過ぎようとしただろうか。
リボーンとコロネロは叩いて被ってジャンケンポンの真剣勝負をさっきから延々とやっているし(最早手の動きが俊敏過ぎて陰しか見えない)スカルはそれの審判をやらされているし(少しでも気を抜こう物なら双方から罵声が飛ぶ)マーモンはマーモンで綱吉の執務室にある色々な骨董品を見ながら幾等で売れるかなど楽しそうにしている。
皆自由だった。



「笹川の妹みたいなのがタイプらしいが俺だって捨てたモンじゃないんだぞ。絶対に飽きさせない」



えらい自信の持ちようだ。
ラルは綱吉の髪を撫でたり頬を引っ張ってみたり(結構痛い)肩に寄りかかってみたりと普段の彼女からは想像もできない仕上がりになっている。
しかし綱吉も綱吉で満更ではない様子だ。
普段あんな男勝りで大丈夫だろうかとラルの心配をしていたが、酒が入り多少は女らしくなってきたのを見て安堵の息なんか吐いている。
何が失礼かってラルの渾身の女らしさを押し付けられている綱吉は全くラルの想いに気付いていない。
娘が父親に甘えているのと同じと考えている。
だが綱吉も男だ。
幾等男に好かれてようが、求愛されていようが、性別は偽れない。
女の子が近くにいると、そりゃあ照れたりもするだろう。
相手が女の子であったりすると、そりゃあ甘やかしたくもなるだろう。
だから綱吉は一切文句を言わずに寧ろ可愛いなぁラルも、とご機嫌だったりする。
最近仕事ばかりで、加えて言うと(クロームは別として)周りを男共にカッチリガードさせられているせいかやはり女の子というものには癒された。
ジーンと己の現状と、ラルの可愛さに和み涙を飲みながら綱吉はとりあえず肉じゃがかシチューの材料を用意しておかなければと考えている。
一方で。



「オイリボーン、あのゲロ甘い空気を何とかしろ」

「ふざけんなお前が何とかしろ」



シュババババババ、と手を瞬速で動かしながらリボーンとコロネロが睨み合っていた。
先ほどからのあの胸やけしそうな甘さが気に食わない。



「「パシリ」」

「嫌ですよ!!俺がラルに殺されるじゃないですか!」



ラルは酔ったらタチが悪いのだ。
アレは相手が綱吉だから猫を被っているだけなのである。
酔いながらも相手を判別するとは流石としか言いようがないが、ここでスカルが割り込んだ所でラルの機嫌は急降下。
ブチ切れて遠慮なく銃を連射されるのがオチ。
酔いというのは恐ろしいものなのだ。
ただでさえ手におえない人間であるのに、更に手におえないとなるともう……。



「でも羨ましいよね」

「「「ウッ……!」」」



サラリと。
マーモンがプライドも一級品の男共の心の奥底にある本音を代表して呟いた。
リボーンとコロネロとスカルは素直になんてなれない性格故に、今の言葉を聞いて眉を潜めている。
認めたくないのだ。
自分が本当は綱吉に甘えたいだなんて。構って欲しいだなんて。
そんなものは、プライドに反する。
こればかりは幾等酒が入っても譲れない。



「つまり今回はプライドを捨てたラルのひとり勝ちって訳だね」

「……嫌な言い方だなコラ」

「別に羨ましいだなんて思ってなんかないですけどね」

「強がんなよパシリ」

「リボーン先輩こそ」



ズバン!!
リボーンの持っていたピコピコハンマーがスカル目がけて飛んでいき、スカルがギリギリでそれを避ける。



「すまん手が滑った」

「絶対に嘘でしょうそれ!!」



ぎゃーぎゃーぴーぴー煩くなったリボーン達に綱吉はラルを引っ付かせたまま首を傾げた。
いきなり何か騒がしい。



「何やってんだ、あいつ等……」

「フン。どうせまた下らない事でもしてるんだろう」

「あー、まあ確かにあいつ等のやってる事って大体の事が下らない……」

「ツナ」

「ん?」



リボーン達の方向に向けられていた顎をつかまれ、強制的にラルの方に向き直される。
グギィと嫌な音がした。



「お前は俺だけを見てろ」



おう……、実に男らしいお言葉だ。
綱吉はやっぱラルって男よりも男らしい、と言いかけてカッチリ固まった。
そりゃあそうだろう。
誰だって目の前にいる人物との距離が0距離――……早い話キスをされていたら固まるしかない。



「むぐぐぅ?!!」



大きな目を更に大きくして、綱吉は顔を真っ赤にさせた。
ちなみに男共は自分達の地味な戦いに必死で気付いていない。
ラルの唇が笑みに歪んだ気がして綱吉は眩暈を覚えた。
鼻につくのは、魅惑に滲むアルコールの香りだけである。



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