りく

□俺+お前−腐れ縁=上々
2ページ/3ページ




掃除の時間は意外と気楽なものだ。
これは最近知った事なのだが、コロネロとリボーンはお互い接触させない限り思ったよりも暴力的で無いようである。
ただしその接触しない時間というのは本当に限られた僅かな時間であるのだが、綱吉はその原因が自分にあることを未だ気付いていない。



「コロネロ君、箒がいい?それとも黒板消し?」



箒と黒板消しを両手に持ち首を傾げる綱吉に、コロネロはぐっと言葉に詰まった。
綱吉は動作が一々愛らしい。
そしてコロネロは、人生上で愛らしい生き物に触れ合う機会が中々無かった。
だから綱吉に惹かれたのだろうが、とりあえずコロネロは純情の塊みたいな奴だ。
リボーンに汚されるのならば自分の手にかけてどうこう、という行動が出来ない。
そういう願望はあるにしても、残念ながら実戦にうつせないのである。



「テメーは黒板の上まで届かねぇだろ。俺が黒板消すぜコラ」



ン、と手を差し出せば綱吉は微笑んでコロネロに黒板消しを渡した。
こうして普段通りに接すれば綱吉も怯えずにいてくれる。
それはコロネロも分かっているのだ。
分かっているのだが。
やはりあのリボーンを相手にしてしまうと、切羽詰まっている自分がいることは否定出来ない。



「ツナ」

「ん?」



今日の掃除はあまり教室が汚れていないからと、教師に指名された二人――早い話日直だけ。
コロネロと綱吉が、偶々本日の日直だった。
ワーワーと、校庭から騒ぎ声が聞こえてくる。
帰宅にハシャグ者、部活に精を出す者。
各々が各々の時間を過ごす中で、二人きりの教室は何だか世界から隔離されているような、そんな錯覚に陥った。
綱吉は未だ疑問符を浮かべた表情のまま、コロネロを見つめている。



「君呼びはヤメロっつったろコラ。コロネロでいい」

「いや、でもそんな……」



困った様に眉を下げる綱吉をムッとした表情で睨みつければモゴモゴと口籠り、小さくじゃあ…と呟く。
その後で、コロネロ、と僅かに聞こえてきた。
見れば綱吉の顔がほんのり赤い。
友達らしい友達が居ないからただ単に慣れていないだけであろうが、コロネロもつられて赤くなり二人して黙ってしまう。
沈黙が、気まずかった。

コロネロは綱吉が好きだ。
勿論、恋愛的意味合いで。
しかしリボーンに助けられているのが殆んどで、二人きりになった時の会話が上手く弾まない。
どうも、構えてしまう。
嫌われたくないから余計な事を言いたくないのだけれど、そうすると道は狭まりいつしか道そのものを見失ってしまう場合が常。
今もコロネロは分かりやすく行き詰まっていた。



「………、この後、」

「え?」

「この後。暇かコラ」



沈黙を打破する為の、コロネロの精一杯の誘い文句。
綱吉は大きな瞳をさらに大きくさせて、パチクリと音が出そうな程にこれまた大きく瞬きをした。
その琥珀に染まる瞳の中には、ちゃんと神妙な面持ちのコロネロが居る。



「ひ、ま……だけど」



綱吉の目が泳いだ。
今度はコロネロが疑問符を浮かべた。



「暇、だけど…。コロネロに奢るお金は持ってない……」



綱吉の中でのコロネロとリボーンの立ち位置は、あくまでイジメっこ。
そりゃあイジメっこに放課後誘われるとくれば、天性のイジメられっこの綱吉が思い浮かべることはひとつしかない。
つまり、そう。
恐喝とか。



「はぁ?」



今にも泣きそうな顔でうつ向いた綱吉に対して、コロネロは抜けた声を上げる。
どうやら綱吉の思考は予想外の範囲だったらしい。
というよりも、自分がイジメっことして見られていた事が心外だった。
ポカーンとしているコロネロを見て、綱吉はキョトンとして再び瞳をパチクリと瞬かせる。



「え、違うの?」



良かったぁ、と本気で安堵している綱吉にコロネロはそんなに怖がられていたのかと軽くショックを覚えた。
畜生。何もかもリボーンのせいだ。
とにもかくにもリボーンのせいにしなくては始まらないのがコロネロだった。
リボーンもまた然り。
リボーンとコロネロは大体の部分が責任のなすり合いで成り立っていたりする。



「何なら奢ってやってもいいんだぜコラ」

「でも、それじゃあ悪いし……」

「遠慮すんな。今日の昼飯を遅らせちまった詫びだ」

「えーっと……。じゃあ、お言葉に甘えて!」



パァア、と表情を明るくする綱吉は意外と現金なヤツだ。
コロネロは新たな発見を心のメモ帳にこっそりと書き記しておいた。



「何が食いたい」

「んんと、俺ファミレスでパフェ食べたい!」

「じゃあ俺はフォンダンショコラで。あとエスプレッソ」

「おお、分かった……って何でテメーが居んだコラァアアア!!?」



いつの間にかヒョッコリと顔を出したリボーンに、コロネロは赤面したまま大声で叫ぶ。
確かリボーンは委員会だからと言って教室を出たのだ。
こんな早くに戻ってくる筈が……



「なーに、心配すんなコロネロ。俺の仕事は全てパシリに押し付けて来たぞ」



パシリといえば、一年後輩のスカルだ。
二人からしてみれば、本来の下僕は綱吉ではなく彼にある。
そんな可哀想な青年を見れば綱吉も同情を抱いたかもしれないが、生憎顔しかしらなかった。



「ケッ。人がセコセコ働いてる内にツナを落とそうなんざセコい真似しか使えねーのかテメーは」

「うるせぇコラ!!何がセコセコ働いてる、だ!!テメーはパシリに押し付けてノコノコ帰ってきただけじゃねーかコラ!!」

「フン、これだからウブな純情青少年はダメなんだぞ。ロクな口説き文句も言えねぇ癖に」

「テメッ……!全部聞いてやがったな!?」



ギリギリと奥歯を噛み締めながら殺気を放つコロネロに、リボーンはニィと余裕の笑みを見せ付ける。



「この後暇?だなんて誘い文句、ひっさびさに聞いたぞ」



ククククッ、と笑ってから腹を抱えて本格的に笑いだしたリボーンに、コロネロが持っていた黒板消しがご臨終した。
それを見て綱吉は顔を青くしている。
やっぱりこの二人は巡り合わせてはいけないのかもしれない。
次第に白熱していく二人の討論に綱吉は肩を落としてガックリとうなだれた。
嗚呼。
苺フェアの特別パフェ。
食べたかったのに。な。
これでは折角のファミレスもオジャンになりそうだ。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ