りく

□チェリーにブロッサム
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愛しいベーベ




綱吉は幼い頃に両親を亡くしたからか、自覚は無いようだが非常に甘えたがりやだった。
リボーンからしてみれば美味しいことこの上ないが、綱吉はいつだって本気だ。



「よかったねぇツナ君、熱下がって!」

「はい、お陰さまで!」



オバサンににっこり微笑んでいる今は楽になったが、あのあとが大変だったのだ。
盗賊を警察に受け渡し盗賊の血が流れた部屋とはまた別の部屋を借り、リボーンと二人きりになれた時綱吉はビービーと更に泣き出した。
その口から出るのはリボーンのバカアホかお前はお前も俺の気持ちを少しは大切にするべきだ寧ろ思い遣れふざけるなどんだけ不安で怖い思いをしたと思ってるんだ云々、といった愚痴・愚痴・愚痴。
愚痴のオンパレード。
しかもサクラすら持って帰って来ないなんてどういう了見だ、とも。
これが綱吉でなかったのなら確実に殺している。
そしてその夜は綱吉に強引にベッドに連れ込まれ、引っ付かれたまま寝た。
最終的に熱・頭痛に泣いた事による頭痛が更に加わり鈍痛が頭を支配していたのだが、妙な根性で綱吉はリボーンの服を掴んで決して離そうとはしない。
もう大切な物は失いたくないという心の表れだろう。



「本当にサクラは見付かったんだろうな?」

「トーゼン。見たらきっとビックリするぞ」



そう満足気に笑うリボーンに疑いの眼差しを向けて、綱吉はとりあえず老夫婦にいってきます、と声をかけた。
どうやらリボーンはあの時サクラを見付け出していたらしい。
では何故持って帰って来なかったのかと問えば、内緒、とだけ返ってくる。
因みにこの内緒、の言い方が妙に大人びていて色っぽかったために綱吉の機嫌は少々下がった。
リボーンがキザったらしいのは多分生まれつきだ。
惚れ直すとかの次元ではない。

――だが。あの時、あのタイミングで助けに入って来てくれたときは本当に格好良かった。
やはりリボーンは強い。
それでいて、一番の味方でいてくれる。
約束も破らないし、本当に本当にイイ男で、とそこまで考えた所で綱吉は慌てて首を横に振った。
……マズイ。
今ナチュラルにノロケていた。
幼い頃の記憶として残っている両親の姿。
いつも一緒に仲睦ましく店を運営していて、母親の口癖といったら働く父親を見て「家光さん格好良いわ〜!」と。
そう両手を胸の前に組んでほわん、と表情を緩めていたのをよく覚えている。
それがマズイのだ。
綱吉は容姿において母親の遺伝子を深く受け継いでいるのだが、最近オッチョコチョイな所を含めて昔の母を知っている近隣の人に「まるで奈々ちゃんを見ているみたいだ」と感動される。
ということは、だ。
最終的には自分も、母親みたいに旦那(恋人)を絶賛する日が来てしまうのだろうか。
「やっぱリボーンは格好良いな〜!」なんて、そんな。
普段コロネロやスカル、ラルやバイパーから「目の前でイチャつくな」とお叱りの言葉は受ける意味が漸く分かった気がした。



「何だ人の顔ジロジロ見て」

「……べつにー」

「惚れ直したか?」

「………、……べっつにー!」



屋敷を出て、サクラの木を目指す。
トマゾからの流れ弾は思ったより無く、安全と見なされた為にリボーンは綱吉を連れ再びサクラを目指す事に決めた。
否、実際はそれだけではないのだが。
何故かいきなり膨れた綱吉の頬は淡く色付いている。
まるでサクラ。
サクラの色そっくりだ。
やはり綱吉にはサクラが似合うに違いない。



「で?新商品、ちゃんとまとまってんだろーな」

「うーん、実際にサクラを味見してみなきゃ分からないけど。でも、色合いとかから考えて何と無くは形になってるよ」



町からどんどん離れて行き、小さな野原へと出る。
綱吉は辺りに人が居ないのを確認してから、リボーンに手を差し出した。
リボーンも何も言わずに綱吉の手を握り返す。



「いいのが出来ると思うぜ」

「へぇー。随分持ち上げるね、サクラの事。めずらしい」



クスクスと微笑む綱吉の髪をそよ風が揺らして行く。
空は晴れやかだ。
やっぱり、綱吉は笑顔が一番似合う。



「ツナ、目」

「ん?」

「目、瞑れ」

「えーっ」

「いいから」



ナンダヨー、と唇を尖らせながらも素直に目を瞑った綱吉の手を引いて歩く。
ぶらぶら繋いだ手を揺らしているのは、ワクワクしているからだろうか。
付き合い始めてから綱吉は子供らしさを増していっている。
これはリボーンの勘違いでも何でもないだろう。



「もう開けていいぞ」

「えっ、もう?」

「おー」



リボーンの言葉に綱吉はゆっくりと瞳を開ける。
甘い琥珀が、徐々に現れる様子をリボーンは静かに見ていた。
そして次の瞬間、綺麗な瞳は大きく見開かれる。



「……、ほ、わぁー!」



目の前には、いくつものサクラ。
花は所狭しと咲き誇り、あたりを淡い紅色に染めつくしていた。
風が吹けば大きく花びらが舞う。
それでも一向に木に咲いている花の花びらが減る様子は見られなかった。



「すごいっ!リボーン!俺、もっと小さいの想像してた!」

「だろ?枝を折って持ってくのは気が引けたからな。それに、ツナをここに連れてきたかったんだぞ。ホレ、そこに立ってみろ」



言われるがままに、サクラの木の下に立つ。
するとその時風が大きく吹いて、舞った花びらが綱吉を包み込んだ。
フワリ、とサクラの香りが漂ってくる。
まさに幻想的な光景。
綺麗だ。
やっぱり綱吉にはサクラが似合う。
ただ、それは思った以上に儚く映りリボーンは何処か胸騒ぎを覚えた。



「リボーン?」

「いや……綺麗だぞ、綱吉」

「えっ、」



綱吉、と本名で呼ばれる事は中々に少ない為、綱吉は目を丸くした。
珍しい。本当に。
もしかすると、このサクラという花は何か特別な力があるのかもしれない。
だがその花をこれから調理していくのだ。
実に楽しみである。
そう、綱吉はペロリと唇を舐めて見せた。







サクラの花の色は甘く淡く柔らかなパステルカラー。
闇夜に浮かぶサクラも綺麗だそうだが、綱吉はダークよりやはりクリーム系だよなと深く頷いた。
あれからサクラの花をいくつか千切り、屋敷へ持ち帰り現在調理場を借りている。
枝から折ってしまうのは、成程確かに気が引けたので花のみを拝借することにしたのだ。
初めに綱吉は花びらをパクりと口の中に入れ、舐めたり噛んだりしてみた。
……不味い。紛れもなく植物の味だ。
けれども香りは強くなく、ほどよい。
そこで綱吉は小さな鍋を借り、水を入れ、大量の砂糖を入れた後で、これまた大量のサクラの花びらを投入した。
因みにこのサクラの花びらを花から取る地味な作業はリボーンに担当させてみたのだが、腹が立つ程に花びらが形を崩す事なく綺麗に取り除かれている。
全くこれだから手先が器用なイケメンはな。
そうブツクサ言いながらも、綱吉は慣れた手付きで作業を進めて行く。
久しぶりに調理場に立ったので、とても楽しそうな綱吉は鼻唄を歌いながら、煮立ち色濃くなったサクラのソースを舐めてクスクスと笑った。



「ツナ君は一体何を作ってくれるんだい?」

「ま、お楽しみってヤツだぞ。俺も知らねーんだ」

「でもあの子が洋菓子をねぇ、」



変わって居間ではリボーンと老夫婦が綱吉の作るものを今か今かと待っていた。
新商品の提供を一番に受けるのは、リボーンと老夫婦。
老夫婦には、今回の感謝の意味も含まれているのだ。



「でっきたー!」



老夫婦とゆったりとした時間を過ごしていたその時、調理場から綱吉の声が響いてきた。
それに老夫婦とリボーンは顔を見合わせて笑う。
熱を出して世話を掛けまくった綱吉は、老夫婦に気に入られ孫のように可愛がられている。いい事だ。

調理場からヒョッコリ姿を現した綱吉の手には皿が二枚、そしてその上にチョコンとケーキが乗っていた。
丸い、円状の形をした白いものの上に、サクラの花が添えてある。
ボリュームも派手さも期待した程は無いが、シンプルで可愛らしい。



「サクラのレアチーズケーキ!」



ホワッと花を散らしたように微笑む綱吉は、老夫婦の前に皿を置く。
その後で、リボーンの分と自分の分を運んできた。



「本当は生クリームでも良かったんだけど、やっぱりソースだとチーズの方が合うかと思って。サクラだけじゃ味が薄かったから、チェリーソースも混ぜてみたんですよ。どうぞ食べてみて下さい!」



弾むような綱吉の言葉に、老夫婦は喜んで食べ始める。
そんな老夫婦をドキドキしながら見つめる綱吉に、リボーンもつい一緒になってケーキを食べる老夫婦をマジマジと見てしまった。



「うん!すごく美味しいよ!」

「子供達にも食べさせてあげたいくらいだ!」



その言葉にホッとした様子の綱吉に、リボーンはよしよしと頭を撫でてやり自分もフォークを手に持って食べだす。
綱吉もリボーンの隣に腰を下ろし、食べ始めた。



「どう?」

「まあ、合格だぞ」



パクりとケーキを頬張るリボーンに、綱吉は呆れたと苦笑を漏らす。
でも合格は合格だ。
彼の気には召したのだろう。
食には煩いリボーンの合格は、結構大きなモノなのだ。



「このケーキ、ツナ君みたいに優しい味がするねぇ」



ふと、オジサンの溢した言葉に綱吉はキョトンとしている。
それにプッと吹き出したリボーンは、コクりとひとつ頷いた。



「ああ、そうだな」



甘くて、淡くて、柔らかい。
そして日溜まりの様な暖かみを帯た優しい味は、綱吉の微笑みを連想させるには十分。
本人は気付いていないようだが、綱吉を知っている人間ならば直ぐに分かるだろう。
可愛らしい綱吉。
それが自分だけのものかと思うと、かなり愉快だ。



「リボーン……。何ニヤけてんだよ」

「いや、別に?」



ククククッと笑えば、綱吉は納得できないといった表情でリボーンを睨んでいた。



「おやおや、仲良しな事!」



リボーンにつっかかる綱吉を見たオバサンの笑い声が響く。
甘味に染まる午後。
本日、町は至って穏やかだ。



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