りく

□チェリーにブロッサム
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口約束じゃ嫌




馬車の騎手の言っていた家のオバサンは確かに面食いだった。
リボーンを見て直ぐに黄色い悲鳴をあげた所を見ると、まだまだ気持ちは10代半ばのようだ。
しかしそれ以上の良心の持ち主で、綱吉が熱を出して弱っていると伝えると直ぐ様冷や水を用意し、ベッドを整えてくれた。
本当にいい人である。



「アンタ達、何処から来たんだい?」

「中心部だぞ」

「そりゃまた随分遠くから来たんだねぇ!王宮があるところだろう?にしても、何だって態々こんな田舎なんかに来たんだい?」

「サクラ、って花を探してるんです。トマゾとの国境境にあるって聞いて、それで」



ベッドに横たわったままの綱吉の体温は、計ってみれば39℃近くにもなっていたのだから呆れたものだ。
貧弱なのは見た目だけでなく、本当に貧弱だったらしい。
そういえば、昔同胞が勝手に綱吉を部屋に運んで放置した時にも熱を出していたことを思い出す。
あの時はすぐに下がったものの。

昔から熱が出るとすぐ上がってしまうんだ、と言う綱吉にリボーンは自覚してんだったら早い内に行動を止めとけ、と言おうとして止めた。
今言った所で綱吉の機嫌を煽るのは体調にも関わってきそうで困る。



「サクラ、ねぇ」

「知ってるか?」

「さぁ。街角にある花屋だったら詳しいかもしれないけど、アタシは花の事は良く知らないんだ」

「そうですか……」

「力になれなくて悪いねぇ」

「いえっ、泊めて頂けてるだけ有り難いですから!」



焦ってガバリと上半身を上げれば、その反動で頭の中がグラリと揺れ再び頭が枕に吸い付くように戻って行く。
そんな綱吉の一連を見て、リボーンは眉間に皺を寄せた。



「無理せず寝てろ」

「……はい」



そうギロリと睨まれてしまえば何も出来ない。
綱吉は渋々掛け蒲団を鼻のあたりまで持ってきて、反省の様子を示す為にシューンとして見せた。アホだ。



「ま、昼飯と夕飯は用意してあげるからゆっくりしておゆき」

「恩にきるぞ」

「いいんだよ。こんな広い家、アタシ等老夫婦にはちょいとデカくてね」



クスクスと笑うオバサンは少しだけ寂しそうに見える。
昔はもっとこの屋敷にも人がいたのだろう。
入り口の所へ飾ってあった家族写真と思われる写真には大勢の人が映っていた。
田舎の過疎化が進んでいるのは、主に治安悪化故の職業難。
だがこの国は戦争に手を付けていない分、いくらかましだ。
そこはスカルに感謝すべきなのかもしれない。
今後国家がどう動くかは、彼の策にかかっているのである。



「ああ、日が暮れたら外には出ないでおくれ。3時には錠前をガッチリ固定しちまうからね。家の中に入れなくて盗賊の餌食になっちまっても、責任は取れないよ」



しかし盗賊とは。
また厄介な奴らが現れたものだ。
どうせ職業難の餌食になった腕っぷしだけはいい集団が手を組んだだけに違いない。
オバサンが部屋を出ていくのを確認して、リボーンはフンと鼻を鳴らした。
ベッドに横になっている綱吉の表情は、オバサンが居た時に張り付けていた笑顔は無く憮然としたものになっている。
リボーンは分かりやすい綱吉の心が手に取るように分かるようで少しばかり愉快になった。



「ま、コロネロあたりでも派遣させるか」



昔の馴染みというのは強い。
リボーンと綱吉が意見を述べれば、今国を担っている元死刑執行人達はすんなりと聞き入れてくれる筈だ。
特に、綱吉は人一倍一般市民が傷つくのを嫌がる。
田舎だろうが何だろうが、国内の事は放って置けない。
コロネロかラル・ミルチどちらかを派遣させこの町も規律を正さなければならないだろう。



「ツナ、お前は何も心配しなくていいぞ」

「……でも」

「大丈夫だから」



未だ納得していないような瞳ではあったが、リボーンの大丈夫という言葉に綱吉は頷いた。
まあ何かあったらリボーンがその抜群の身体能力兼体術で何とかしてくれる。
でも。



「何も無いといいけど」

「何も起こらねー。起きた所で地獄を見るのは奴らだぞ」



ククッ、と喉で笑って唇をひと舐めし湿らす。
ちろりと赤い舌が薄い唇に這う様子は何とも妖艶。
実際綱吉が心配しているのは、ここのオバサンもそうだがリボーンについてだった。
処刑が無くなり、争い事皆無な日常を送ってきた為に今まで問題は無かったが。
その血が震い立ち、盗賊共を勢いのまま殺してしまわないだろうか。不安だ。



「……そう、だね」



きっとリボーンは自覚していない。
けれど自分に出来る事もない。
綱吉はそんなリボーンを横にゆっくりと瞳を閉じた。
今は少しでも体力を回復しなければならないのだ。




日が落ちると家々が灯りを消した。
町はもう真っ暗で闇に包まれている。
音も、中央公園にある噴水の水が流れる音以外何も聞こえない。
綱吉はオバサンから与えられた3つのロウソクの火を眺めながら、何だかなぁと思った。
リボーンはリボーンで窓際に持たれかかり、何か出てくるのを面白そうに待っている。
この家は中央公園に面しているだけあって、見晴らしがたまらなくいい。



「なーんかなぁ……」

「何だ」

「んー?いや……別に、」



むすくれたままの綱吉。
どうせ考えていることは、この町の市民の事なのだろう。
ここまで他人の事を思い遣れる人間も珍しい。
ただ、少しは自分の事も思い遣って欲しいものだが。
しかしそれは一番身近にいる此方がカバーすればいい事だ。
リボーンは呆れながらも、自分の存在意義を感じてほくそえんで見せた。



「今町中から悲鳴が聞こえても行くなよ、ツナ」

「……行かないよ。どこかの誰かさんと違って」

「良く言うぞ。俺より気性が激しい癖に」

「別に激しかないよ!……リボーンも行くなよな」

「何でだ」

「何で、って……」



ぐう、と言葉に詰まった綱吉の耳が赤くなってくる。
そしてうつ向き加減に、小さく、それでもリボーンには届く声色で呟いた。



「お前が、俺を守るんだろ……。だからひとりには……」



しないで。

もうひとりにはなりたくなかった。
思い出されるのは、王宮から指名手配を受けてひとり部屋に籠っていた時の事だ。
怖い。嫌だ。
どうにかなってしまいそうだったのに。
またあんな時間を過ごさなければならないのかと思うと暗鬱な気分になってしまう。



「仰せのままに」



手を取られて、チュッと甲に接吻される。
その時のリボーンの顔が大人びていて、綱吉は顔に熱が集まるのを感じた。



「顔真っ赤だぞ、ツナ」

「うっ、うるさい!熱だ熱!!」

「そうか?」

「しつこいよ!!」



ギャー!と叫んで再び頭痛に災なまれている綱吉は学ばない。
熱はまだ下がらない。
灯りはロウソクしかないが、顔色もあまり著しくないようだ。
騒いだ後だからか、額にうっすらと汗も滲んでいた。
思ったよりも辛そうな綱吉に、リボーンは頭を撫でてやりながら気持ちを落ち着かせてやる。



「馬鹿は風邪ひかないって言うのにな」

「何故なら馬鹿じゃないからな」



くくっ、と笑う綱吉はリボーンの手を掴んで離さない。



「早く治せダメツナ」

「ん」



今日は寝ている事しか出来ないのが残念ではあるが。
掴まれている手をそのままに、ちゅうとリボーンは綱吉の額にオヤスミのキスを落とした。



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