りく

□君はペット
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リボーンはその夜力尽きて倒れていた。彼にしては珍しく、色々としくじったのだ。思えば今日は散々だった。
ぐう、と腹の虫がなる。
何て事だろう。人間というものはいかなる時も空腹を忘れないらしい。
舌打ちをするよりも先に、呆れてククと笑いが出てしまう。



「うおっ……」



側から声が聞こえた。そりゃ道端だ。通りすがりがびっくりして声を上げたのだろう。
リボーンは顔を上げてその無礼者を見た。
ゆっくりと、琥珀色の瞳と目が合う。
―――――女?



「大丈夫ですか?」



何とも呑気な雰囲気を放つ女だろうか。
不思議だ。控え目なワンピースは春らしく淡いピンク。膝下までのブーツに濃いバイオレットの上着をはおって、手にはスーパーの袋。
髪型はちょっとアレであったし、顔も平凡普通。
それでも差し出された手に、リボーンはときめいた。
今まで数々の女を手懐けてきたリボーンだが、こんな気持ちになったのは初めてである。
きっとこれが、世間一般にいう恋。
さぁあ、と桜の香りが夜風に混じり合い二人を包んではくすくすと笑っているようだ。
そしてそんな中、彼女は困った表情のまま微笑む。
リボーンの胸は更に高鳴った。



「よかったら、うちでご飯でも食べていきます?」



先程の腹の虫が聞こえたのだろうか。
リボーンは今度こそ舌打ちをしたくなったが、そこはグッと我慢して彼女の手をとった。



「わりぃな」

「あ、はい……っていうか怪我痛そうですね!?」

「何てことねーぞ」



そ、そうですか……?とビクビクと肩を揺らしながらとりあえず此方に合わせた速度で歩いてくれている。
どうやら困っている人には手を差し出してしまう性分らしい。
面倒事にはあまり関わりたくないのに、と顔にありありと書いてあった。
面白い女だ。



「お前、名前は?」

「あー……、沢田綱吉です」

「女なのに随分イカツイ名前だな」

「そうなんですよ、父親が勝手に。そういうあなたは?」

「リボーンだ」

「あ、やっぱり外国の人」



だからこんなにスタイルがいいのかー、とやたらポワポワしている綱吉についていくと高級そうなマンションにつく。
もしかしたら、平凡そうな容姿に反してお嬢様なのかもしれない。
指紋認識を終えると自動ドアが開き、中へ入る。
そのままエレベーターに乗って最上階である35階のボタンを押した。



「きっとリボーンさんが最後のお客さんです。あと少しで引っ越しちゃうから」

「もっと良いところにか?」

「質は落ちるけど、良いところですよ。ここじゃ静か過ぎて、幸せとはほど遠いんです。何よりこんな豪華な場所は俺には合わないし、近所付き合いも皆無だから――――っと、着きました」



チン、と軽快な音が響き、エレベーターのドアが開く。
最上階なので時間がかかると思いきや、かなりのスピードでエレベーターが上がっていたようだ。

赤い絨毯が床に敷き詰められていて、ひとつの扉が目の前にある。
この階に部屋はひとつしかないらしい。
そりゃ近所付き合い皆無な筈だろう。

にしてもこんな金持ちのお嬢様に運良く拾われた訳だ。
これは放っておく手が無い。
リボーンはニヤリと笑って綱吉の腰に手を回す。怪我だらけだろうが何だろうが、口説くことは出来る。
この様子だと、独り暮らしだ。



「うわわっ、大丈夫ですか!?」

「ツナ、俺は――――」



ふっと雰囲気を変えて綱吉を口説こうと耳に口を寄せたその時。
綱吉はピンポンピンポンピンポンピンポン!と部屋のインターホンを連打する。
色気ない云々の前に何故インターホン。
まさか中に人が?



「わーわーわーっ!!大変早く治療しなきゃ!」

「オイ、ツナ、」



そしてリボーンがそこまで言いかけると、中から扉がガチャリと開いた。



「遅い!!何処ほっつき歩いてたんだアンタは!!」

「スカル大変!!リボーンさんの傷がっ……!」

「はぁ?リボーンって……」



中から現れたのは男。
スカル、とは。聞いたことのある名だ。
そう、確か過去に作ったパシリの代表格にそんな奴が居たような居なかったような。
そこまで考えてリボーンは綱吉の後ろからひょっこり顔を覗かせてその男を見た。



「先輩ィ!?」



驚愕に歪んだ顔。
懐かしい顔だ。別に忘れても構わなかった顔だが、こうしてまた見ることになるとは思わなかった。



「おー、パシリ。テメー何でそんな所にいるんだ?」

「それはこっちの台詞です!!」

「パシリ……」

「アンタはそんな目でこっちを見るな!!」



微妙な視線を向けてくる綱吉を叱りつつ、スカルはリボーンを睨む。
スカルとリボーンは言わば、先輩と後輩(パシリ)。
腐れ縁とは過去の事かと思っていたが、そうそう切り離せるものでもないらしい。
スカルは嫌そうに溜め息を吐いた。



「スカルの知り合い?」

「ああ。過去のな」

「ツナはコイツとどういう関係なんだ?」



スカルを顎でさし問掛けてくるリボーンに、綱吉は一度きょとんと瞳を瞬かせてからふわりと笑う。
愛らしい、憎めない笑みだ。



「スカルは、俺のフィアンセだよ」

「綱吉は俺のペットです」



ギシィ、と音を立てて空間が歪んだ。
主に三人各々が発した空気のせいだろう。
綱吉はスカルの台詞に、スカルは綱吉の台詞に。
リボーンは二人の台詞に対して。
三人共良い顔をしているが、後ろに吹雪を背負っている。


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