りく

□強情な蜘蛛
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友達というものは、中々に儚い関係だ。
深く繋がれていたかと思えば、些細な問題でガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
まるで桜の花の様。
花を咲かせるまでに一年を要し、寒い冬を越えて健気に頑張っているのに。
散ってしまうのは、どうしてこんなにも早いのだろう。


机の上にある写真立て。
勉強なんてしないから机の上は漫画やCDが散乱しており、その奥にそれは密やかに立っていた。
多分、3年前のものだ。
幼馴染みは相変わらず顔も頭もいいし、女子からの声援も絶大。
こちらも相変わらずダメダメでどうしようもないダメツナ。
ただ変わってしまった事と言えば、この写真の様に二人並んで笑い合える事が無くなってしまったということだろうか。
運命は全く皮肉なものである。


綱吉は小さく溜め息を吐き、写真立てをパタリと机に伏せた。
朝っぱらから鬱蒼な気分にはなりたくない。
只今の時刻は早朝6時。
本日は宿泊学習なのだ。


リボーンは綱吉の近所に越してきた外人さんだった。
同い年で通う幼稚園も一緒だったこともあり、お互いの家を行き来して泊まるくらいには仲良くなれた。
リボーンは何でも出来る男で、綱吉から見ればまさにスーパーマン。パーフェクトマン。
文句なしに、いい男だ。
ただその言葉使いと性格を除いては。

リボーンと綱吉は当たり前の様に二人でずーっと過ごしてきた。
お互いにお互いをどつき、笑い合える関係で本当に。本当に、この関係が綱吉はずっと続くと思っていたのだが。

二年間一緒だったクラスが変わって、環境も段々変わっていった。
綱吉の方が人見知りが祟って直ぐに友達が出来なかった事に対し、リボーンは持ち前のカリスマ的オーラで同級生をも翻弄する。
きゃーきゃー言われて、人々に囲まれて。
随分楽しそうだなと綱吉が眉を潜めた時には、もう同じく海外から来たイケメン達と喧嘩し合える程に仲良くなっていた。
ショックと言われればショックだ。
けれどもリボーンの人生なのだし、口を挟む余地は無いとして綱吉は踵を返す。
程無くして、綱吉にも獄寺と山本という友人が出来た。
リボーンとまでは行かないが、中々楽しくやれている。



「ったく、たりーっすよね!宿泊学習なんて好きな奴だけ行けっつーの」

「そうか?俺はツナと色々出来るから楽しみだけどなー」

「お、俺も一応楽しみだったかな」

「ですよねー!いやぁ俺も実は楽しみだったんすよ!沢田さんに野外炊飯でめちゃめちゃ美味いカレー作りますから安心して任せて下さい!」



バスの中でグダグダと話をして、現地につくのは早かった。
地元にある少年自然の家だ。一時間もしないでつく。
そこからはオリエンテーション、野外炊飯ときてキャンプファイヤにー肝試し。
その企画の大半が教師から出されたもので、勿論肝試しは教師同伴、というよりも教師が幽霊役になって脅かすというものであった。

オリエンテーションはただコースに沿って森を歩き、木にぶら下がっているパネルに書いてある文字を見付けて最後に組み立てて言葉を作るというものだ。
綱吉達の班はさくさくと森へ足を踏み入れる。



「わぎゃあ!」



しかしいつものごとく、綱吉は足下の毛虫に悲鳴を上げてすっ転ぶという大変格好悪いアクシデントに見舞われた。



「いっつつつ……」

「おい、大丈夫か?」

「う、うん。ありがとってどわぁああ!!り、リボーン!?」

「うるせーな。耳元でデカイ声出すんじゃねーぞ」



尻餅をついた綱吉に、さらっと手を差しのべたのは何とリボーンだった。
全クラス同じ場所でオリエンテーションをやっているのだ。
遭遇する確率は高いとみて腹をくくってはいたが、まさかこんな形で出会うとは。



「ありがと……」

「ったくテメーはマジで進歩しねぇな」

「そりゃ、」



お前に比べれば、と言おうとして口をつむぐ。
彼はもう、自分と同じ世界の人ではないのだ。
中途半端に関係を持つこと程切ないものは無い。
綱吉はリボーンからサッと手を放して、何でもないと呟いた。



「ほら、コロネロ君達が待ってるだろうから早く行けよ」

「でもお前手ぇ擦ってるぞ」

「いいんだよ。リボーンには関係ないんだから」



思わずそっけない態度をとってしまう。
リボーンの眉が潜められたのが分かったが、しらんぷりを決め込んだ。
こんなダメツナより、コロネロ達と居た方が楽しいし何より見映えも良いだろう。
綱吉は踵を返してリボーンに背を向けて獄寺達の方へと歩き出す。
ちなみにこういう時にすぐ飛んでくるであろう獄寺は、パネル探しに必死の様だ。
リボーンの視線が背中に痛く突き刺さったが、彼もコロネロに呼ばれて戻っていった。
何だか肺が鉛になってしまった様に重い。
小学生といえども悩みはいっちょまえに持ってるものだ。



「沢田さん、どうかしましたか?!」

「お、ここ擦れてんぜ。ほら、貸してみ」



しゅんとして戻ってきた綱吉に獄寺が声をかければ、山本も近寄ってきて絆創膏を手に貼ってくれた。
本当は水で洗わなければならないのだろうけれど、生憎森の中に水道はなく、我慢する。




「おいリボーン、テメーもちゃんと探せコラ」

「るせぇ」

「何いきなり不機嫌になってんですか」

「別にパシリの知った事じゃねーだろ。大体地図ぐらい把握しとけこの役立たずが」

「知りませんよ地図なんてありませんでしたし!!」



スカルとコロネロを無視してさっさと歩き始めるリボーンは、正直キレていた。
綱吉と溝が出来たのはクラス替えがきっかけだと思う。
リボーンは舌打ちをして、不機嫌を隠さずに足を動かす。
綱吉は友達を作るのが苦手だった。だから少し甘くみていたのかもしれない。
まさか獄寺と山本が綱吉につくとは思わなかった。
はじめの内は、綱吉がリボーンを囲む奴らに僅かなる嫉妬を抱いていた事に喜びを覚え、色々な奴らと話したりしたのだが。
今となっては意味がない。
コロネロやスカルは此方に同じ時期、同じ事情で引っ越してきた言わば同胞。
楽しいから一緒にいるのではなく、只の暇潰し。
お互いを理解しているので、面倒な事はない。
だが綱吉はそれを勘違いして、無駄に向上心を働かせた様だ。
馬鹿な奴。お前は一人で良かったのに。他人となんかツルまないで、俺だけを見て、俺だけの事を――――。そこまで考えて、リボーンはこの心に潜む醜い感情の名を思い知った。
嗚呼、これは嫉妬。しかもかなりタチの悪いものだ。
人々は皆親しみをもってこれを恋と呼ぶ。


子供という生き物は曖昧でいて、複雑な時期の形態。
思春期などに駆られてヤケになる事が多い。
権力世界を分かりやすく絵にしたようなものだ。
子供達は地位を決め、上の者をヨイショして、いわゆる大人と同じような環境に立たされている。
自分の意思を持ちガキ大将に従い、行動するもの。
自分の意思関係なく地位が低いために従うしかないもの。
そこには色々な複雑な情や念がとぐろを巻いている。

小学生の高学年は殊更。



「あの沢田っつーやつが気になるのかコラ」

「死ね」

「意外に先輩って分かりやすいですよね」



ムカつく間抜けには石を拾い投げつけておいて、リボーンはコロネロにニィと笑みを返す。
それは余りタチの良くないもので、コロネロは嫌そうに眉を潜めた。



「落とす。今日中にな。テメー暇そうだから協力しろ」

「タダはお断りだぜコラ」

「仕方ねーから新商品の銃でもやるよ。テメーが今持ってる奴の改良版だ」

「随分気前が良いじゃねーか」

「アイツを手に入れる為なら安いくらいだぞ」



あの笑顔、あの雰囲気。
何をするにも駄目な奴だったが、リボーンにとっては新鮮かつ魅力的な奴だった。
幼い頃からずっと一緒にいて、愛護してきたようなものだ。
今更手放す愚かな真似は犯さない。



「なんというか……沢田綱吉も不憫ですね」

「うるせーよ。テメーはズベコベ言わずにさっさとここ周辺回ってパネル探してこい」



カチャリと銃を向けてスカルを脅せばスカルは嫌そうな顔をして渋々頷き、パネル探しに精を出すことにした。
閃つきにより不機嫌を治したリボーンは気分屋だ。
その気分を害さない内に側を離れるのが得策だろう。
にしても、あの沢田綱吉の何処にそんな魅力があるのだろうか。
スカルとコロネロは、言葉には出さずにこっそりと内心で首を傾げておいた。


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