りく

□取り扱いに注意!
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帰ったら一緒に飲もうと誘いを掛けてきたのは綱吉の方だったのに。
スカルは腕を組んで仁王立ちして、帰宅した馬鹿を迎えた。
加えてその馬鹿を背負って運んできた金髪碧眼の先輩も睨む。



「態々すみません、うちのが迷惑かけて」



不機嫌全開なスカルに、コロネロはニヤリと笑う。
この男は性格が悪い。
スカルの恋人の家庭教師より幾分かはマシだが、そういうことだ。
スカルはそんな男に背負われて帰還したデロンデロンに酔っ払った恋人の首根っこを掴み無理矢理ずり下ろした。
ぐぇ、と蛙が潰れたような声が漏れたが気にしない。
寧ろ此方の悲惨な状況を考えれば、お釣りがくるくらいである。

何が悲しくて恋人の居ない部屋(敵、しかもあのボンゴレボスの領域だ)に忍び込み、独り暇を持て余しつつ帰りを待った挙げ句、苦手な先輩に背負われた既に酔っ払った恋人を迎えなければならないのか。
意味が分からない。
恋人、という枠では勿論綱吉が初めてだが、愛人という枠であれども絶対にこんな粗雑な態度を取る輩は居ないというのに。
何てヤツだ信じられない。



「あひゃー、スカルだあははは!こんばんみぃ」

「アンタはちょっと黙ってろ」

「ぎゃうっ!」



ひゃっくひゃっくと呑気にやっていた酔っ払いに手刀を食らわせ黙らせる。
というよりも眠らせる。
綱吉は酔っ払ったら更に意味が分からなくなるのだ。
笑う泣く怒る眠る意味もなく暴力を振るう歌ってみる甘えてみると、より取りみどり。
だからスカルは綱吉にデロンデロンに酔っ払うまで酒は飲ませないというのに、この先輩は構わず飲ませに飲ませたらしい。



「随分粗雑に扱うじゃねーかコラ」



コロネロがチラリと床に倒れて気持ち良さそうに眠る綱吉を顎で指す。
スカルはフンと鼻を鳴らした。



「拳で黙らせるくらいが丁度いいんですよ」



ケッと吐き出す様に言葉を投げ捨てれば、コロネロはへぇと片眉を上げる。



「なら俺の方がツナには合ってるんじゃねーかコラ。さっさと別れろよ」

「何言ってんですか。この生き物はコロネロ先輩にはお薦めできません」

「あぁ?」



これは、あのリボーンですら知らない綱吉の要らん情報なのだが。
綱吉という生き物は、あれだけ普段は真面目腐っている癖に気を抜くと恐ろしい事になるのだ。
まあそこは一介のボス。
大ファミリーを従えているだけあって、普段の顔はスカルでさえ緊張感を持ってしまう程に綱吉はしっかりとしている。
はじめの内は多重人格かと疑った事もあったのだが、今ではそれが綱吉だと何とか受け入れる事が出来た。
リボーンの手前、流石に気を緩めて家族の様に接する綱吉なのだが、恋人の前だと如何せん気を緩めすぎる傾向にある。
やたら我儘になったり、普段規則に縛られまくっている反動か、恐ろしく天邪鬼で気分屋。
恋人に一番求められるのは、忍耐力だろう。
可愛い馬鹿だとは思うが、手の掛る馬鹿である事も紛れもない事実であった。



「どーいう意味だ」

「コロネロ先輩には刺激が強すぎます。色んな意味で」

「んだとコラ!」



人の恋人を捕まえて何を想像したのだろう。
コロネロの顔は真っ赤になった。
スカルはコロネロに掴みかかられながらやれやれと溜め息を吐く。



「綱吉と付き合う時に一番必要とされるのは忍耐力なんですよ?」

「問題ねーよ」

「う、ぐぐっ……先輩ちょっと絞まって…!」

「……このまま絞め殺してぇ」



初恋は実らないというが、その通りに実らなかったコロネロが怒るのも無理はない。
というよりも、コロネロは最早意地でスカルと綱吉の仲を引き裂こうとしている。
それはコロネロだけでなく他にもわらわらといるのだが、スカルは頭が痛くなりそうだったのでもう考えない事にした。
知られているのは交際しているという事実だけなのだ。
スカルと二人きりの時に見せる綱吉を知られている訳ではないのが唯一の救いである。



「先輩、忍耐力って言ってもオイシイ方を想像してませんか?」



ふっといきなり遠くを見たスカルに、コロネロは手を緩めた。
オイシイ方も何も、恋に必要な忍耐力というものは大体にしてそういうものなのではないだろうか。
例えば相手が純粋過ぎるが故に理性を保たなければならないだとか、天然の言動にも辛抱強く我慢しなければならないだとか、主にそういう類の忍耐力。

しかしスカルは呼吸を整えてから違うと言い切った。
しかも生意気に、甘いとまで。



「下手すると女よりややこしくなるんですよ。自分から仕掛けて来たかと思ってのればドン引きして失礼な態度で断りを入れてくる」



つまり、綱吉を物凄く愛してやまない者に対しては一種の拷問だろう。
スカルの場合は妄想と綱吉を重ねる事はしないので、そこは冷静に対処が出来ているが。



「ハッ、それが何だっつーんだ。思い上がんなよコラ」

「拳で黙らせすぎても駄目なんです。一定の限度を越えると綱吉の機嫌が悪くなってこっちが謝るまで断固口をきいてくれなくなる。但し綱吉はオツムが弱いんで弁論で押さえ付ければ何とかなりますが」



まるで子供をあやす時の様なスカルの言いように、コロネロは顔を歪めた。
信じられるか、そんな情報。
顔にそうありありと書いてある。


スカルは綱吉の頭を撫で、そしてニヤリと口元に嫌な笑みを張り付けてコロネロの方に向き直った。
その深い紫の瞳の奥には、何やら考えがあるらしい。



「一日」

「ああ?」

「一日、先輩に貸してあげますよ」



はっきりとした口調で告げられたその言葉に、コロネロは眉を潜める。



「それで綱吉を手懐けられなかったらキッパリ諦めて下さい。俺としても恋人をそういう目で見られるのは良く思わないんで」



先程の雰囲気から一変して、緊張感が満ちて行く。

スカルも本気なのだろう。
普段は綱吉にもあまり愛を囁かない男が、敵意を向けて微笑を浮かべている。
何だかんだ言った所で、結局綱吉は恋人なのだ。



「もし懐いたらどうすんだコラ」

「そのままあげます」



随分とふざけた賭けだが、余程スカルには自信があるらしい。
やれるもんならやってみろと瞳で訴えてくるスカルに、コロネロも瞳をギラリと光らせて笑い返した。
パシリの癖に随分と調子に乗っているが、ここはその伸びきった鼻をバッキバキに折ってやる方が最優先である。



「その言葉、忘れんじゃねーぞ」

「忘れませんよ。鶏じゃあるまいし」



夜も更けているので、今渡す事は出来ないからまた後日。
そうスカルが告げれば、コロネロも頷く。

一日。
綱吉を落とせなければ、清く諦めろと言う。
まあ無理な話だが、賭けの商品がデカい。
この勝負、見逃す訳にはいかなかった。



「帰ったら作戦でも立てておいた方がいいですよ」

「テメーも精々ツナとの残りの時間を楽しむんだなコラ」



ククッとお互い喉を鳴らして笑うが、背には禍々しいオーラが漂っている。
そこで寝ている綱吉が何やら寒気を感じ取りブルルと震えたのだが、二人が気付くことも無く。
そもそもの問題、当の綱吉が何も得をしないという可哀想な現状を二人が気にする事も無かった。



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