りく

□I knew from beginning
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それは、いきなりだった。
いつもの様に夕飯の支度に取り掛かっている綱吉を背中に感じながら、夕方のアニメを義兄弟達と何と無く見る。
そんな日常に舞い降りた衝撃。



「スカル、ちょっといい?」



カレーを煮込んでいる間、綱吉がにっこりと微笑んでスカルに手招きをした。
アニメの内容も別段盛り上がっている訳でもなかったし、義兄弟達もおとなしく各々の時間を過ごしているのでスカルも素直に綱吉の元に駆け寄る。
綱吉は駆け寄って来たスカルを抱き止め、頭をよしよしと撫でて笑う。
彼の教育方針の基本は誉めて伸ばす、だ。



「なぁ、スカル。次の土曜日の事なんだけどね」



スカルの目線に合わせるために、綱吉はしゃがんで話し始める。
ふわりと食器用洗剤の香りが漂ってきた。
この香りは、嫌いじゃない。



「リボーン達の授業参観があるんだ」

「知ってる」

「あ、そう?」



スカルの義兄弟であるリボーン、コロネロ、ラル・ミルチはボンゴレ小学校の一年生であり、スカルの二つ上になる。
皆自由な性格で弟のスカルを見事にパシリとして利用する小学生にしては辛口の彼等だ。
そんな彼等の授業参観が、今週の土曜日に催される。
授業参観というものは、小学生にとっては大イベントだ。
授業参観で張り切った暁には、綱吉から誉められるという最高の特典がつく。
だからだろう。
リボーンもコロネロもラルも、今週はいつもよりも互いに威嚇しあっている。
巻き込まれなくて良かった、とスカルは本気で思ったが直に進学して自分も巻き込まれるとなると不安しかない事に気付く。



「それでね、俺も行っちゃうからスカル一人になるだろ?」

「別に俺は構わない」

「そういう訳にはいかないよ。やっぱりスカルの事心配だもん」



しっかりものだけどまだ3歳だろお前、と唇を尖らせて綱吉はスカルの頬を撫でる。
綱吉の手は、水にさらされていた為か冷たい。
本当は、心配をかけたくない。
かけたくないし、本当に一人でも大丈夫なのだ。
スカルは何だかなぁととりあえず眉間に皺を寄せておいた。



「マーモン君って覚えてる?ザンザスさんの所の、」

「あー……」



覚えている。
瞬時に脳裏に浮かんだ顔にスカルは嫌そうに顔を歪めた。
ザンザスは綱吉の上司、マーモンはザンザスの養子だ。
綱吉は知らない事だから態々教える必要もないのだが、マーモンがザンザスの養子になったのは暗殺部隊に入隊するためであった。
只のガキとは違う。
面倒くさい。
しかも1歳年上だ。
非常に面倒くさい。



「ザンザスさんとこのベル君も小三で授業参観があるから、丁度マーモン君も一人だし一緒に待っててくれないかな?」



うっ、と顔を更に歪めたスカルが反抗する前に、綱吉はガバっとスカルの口を塞いだ。
先手必勝。
綱吉の笑顔が少し怖い。
この笑顔はあのリボーンやコロネロをも有無を言わさずに黙らせられる代物だということをスカルは知っている。
普段温厚なだけに綱吉の鉄拳制裁は恐い。



「大丈夫だよな?スカル!」



ねっ、と。言われましてもだが、こうなってしまってはスカルに残された選択肢はひとつしかないのだ。
スカルは酷く憂鬱な気分になりながらも、小さくこくりと頷いた。
するとぱぁああ!と綱吉の顔が輝く。
それはまさに花が咲き乱れるかの如し。
ぱっ、とスカルの口から手を放し、今は思いきり彼を抱き締めている。



「さすがスカル!聞きわけの良い子って、俺好きだな」



だーいすき。そう言いながら綱吉はスカルから身を離してちゅうと額に穏やかなキスを落とす。
この飴と鞭が、この子供達には一番効くのである。



「ツナ、」

「ん?」

「もしおとなしく良い子にしてたら、褒美はくれるのか?」



子供は現金な生き物だ。
期待の色を瞳に含ませたスカルが、綱吉を見つめている。
綱吉は苦笑いを漏らして、もう一度スカルの頭を撫でてやった。



「ゲーム買ってーとかは駄目だけど、夕飯の決定権とか。うん、一週間分なら全然いいよ!」



スカルの為に豪勢なのにしちゃうと意気込む綱吉に、スカルは首を横に振る。
そしてきょとんとする綱吉の頬に可愛らしい手を当てて、望みを言葉に乗せた。



「……ツナの、隣で寝たい」

「へ?」



因みに今は右をリボーン、左をコロネロに固定して寝ているのでスカルとラルは不満満載だ。



「でなけりゃ毎日ローテーションするとか、何か策を打ってくれ」

「さ、策って……寝る場所については俺の隣で良ければ構わないけど。そんなんで良いの?」

「ああ」



寧ろそんな事の方が大切なのである。
要はひとつひとつの積み重ね。
大きな物を落とすには、小さいものから。
何事も計画を立てなければ始まらない。



「じゃあ、土曜日よろしくな」

「任せろ」

「うん、力強い!頼りになるなー」



あのマーモンと一緒に過ごさなければならないのは気が引けるが、まあ仕方がない。
それ相応の代償がある。
綱吉の横で寝るためなら、一時の我慢なんてチョロイものだ。



「さ、みんなー!カレー出来たぞー!」



コトコトと丁度良くカレーが煮詰まった所で、綱吉が声を上げる。
すると居間でテレビを流しながら各々適当に過ごしていたリボーン達がミーアキャットの如く顔を上げた。
こうして声に直ぐ様反応してくれる様子は、見ていて本当に可愛い。
綱吉はデレデレと子煩悩ぶりを発揮しながらライスを皿に盛っている。
テレビからはもう、アニメではなくバラエティが流れ始めていた。
夕食時だ。



「ま、精々バイパーと仲良くやるんだぞ。パシリ」



ふん、と鼻を高くして(鼻が高いのはいつもの事だった)言ってくれるリボーンに、スカルも負けじとデカい態度を取りいつものように生意気だと殴られる。
理不尽だ理不尽だと普段から思ってはいるが、やはり理不尽なのがリボーンだ。
スカルはくそうと唇を噛んで、絶対に綱吉の隣で寝る権利を奪ってやろうと心に固く誓ったのだった。


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