にじのゆめ、ひかりのあめ

□ちょこれいと・ちょこれいと
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前日戦







2月14日。
そう、明日は言わずと知れた聖バレンタインデー。
前日と当日はやたらと男女がドキドキウキウキワクワクソワソワする不思議な日でもある。
そんな中、沢田綱吉25歳は小さく溜め息を吐いた。

綱吉はまだまだ尻の青い新米保夫だ。
ボンゴレ保育園に通う、普通の子供好きのちょっとおっちょこちょいな愛嬌のある童顔の青年。
ただ子供たちとその親からの信頼は中々良く、新米にしてはかなり安定した位置に居る。



「うぅ……バレンタインか」



職員室にある自分の机で綱吉はカレンダーを見つめてゲンナリしていた。
そこにひょっこりと同じく新人保夫の山本武が顔を出す。
彼もその抜群の爽やかさと人辺りの良さで、母子から絶大なる信頼をおかれている先生だ。
ただ子供相手に野球をすることを禁止されている事を除けば、本当に良い保育者だと綱吉も尊敬してる。



「おー、ツナ!どうした?」

「うん、ちょっとね」



本日も至って爽やかな山本に、綱吉は眉を下げてあやふやな答えを返す。
横で山本が首を傾げたが、綱吉はそのまま笑って誤魔化しておいた。
だって、言えないだろう。
明日、つまり。聖バレンタインデーが恐ろしいだなんて。
一人の男としてそれはどうなのという感じだ。
貰えないのが恥ずかしくて嫌だとか言っている内はまだ良い。
最悪なのは、食えないチョコレートを押し付けられる事なのだ。
好意というより、明らかに悪意が混じっている様なチョコレートが9割だった去年を思い出す。
残念ながら、作ってくれている本人達にその気は無いようなのだが。
はあぁ、と更に大きな溜め息を吐いて綱吉はやれやれと肩を落とした。

今年のバレンタインデーは一体どのくらいのHPを削られるのだろうか。
考えるだけで頭痛がしてきそうな嫌すぎる未来だ。



「はは……山本が羨ましいよ」



だって山本のチョコレートは可愛らしい普通の子供たちからのチョコレート。
多少は砂糖と塩間違えちゃった!的な菓子はあるだろうが、綱吉からしてみればそんなのは可愛い可愛い。



「今年は何もなけりゃあ良いな、ツナ……」



色々と察してくれたらしい山本が、ポンと綱吉の肩を叩いた。



「うん……」



そして綱吉はぐすんと密かに涙を飲んだのであった。
幼い頃はまさかバレンタインがトラウマになるなんて思っても見なかったけれど。

















明日はバレンタインデーだ。こりゃめでたい。
たかが4歳児。されど4歳児。
リボーンはニヤリとあまり性質の宜しくない笑みを浮かべていた。
それを他の4人は冷ややかな視線で眺めている。
リボーンが意味不明なのはいつもの事だ。放って置こう。
だが次の一言で、冷ややかな視線は一気に殺気に満ちたものになった。



「今年もバレンタインデーでツナの愛を勝ち取るのはこの俺様だな」



ハッと足を組んで頬杖をつきその美貌に余裕な笑みを張り付けているリボーンに他の4人、コロネロ、ラル・ミルチ、マーモン、スカルも鼻で笑い今度は無視する事なく食ってかかっていく。
口火を切ったのは金髪碧眼の麗しい少年、コロネロだ。



「馬鹿かテメー。去年ツナの愛を勝ち取ったのはこの俺だコラ」

「いや、それは無いでしょ。僕だよ。僕のが一番マトモだった」

「ありえん。俺のが一番ツナのハートを射止めた筈だ」

「それこそ有り得ない。大体、ツナは翌日休んでたじゃないですか」

「「「「あー……」」」」



納得。そういえばそうだった。
だがしかし子供たちはめげない。



「ま、愛がデカ過ぎたんだろ。全くダメツナは繊細だからな」



ふふふ、と優雅に笑い出したリボーンに成程、と頷くスカル以外の他の子供たちは結構な勢いでリボーンに次ぐアホであった。
因みにそんな奴らの総合パシリを押し付けられているスカルは最早ドンマイという言葉しか投げつけられない実に憐れな少年である。

しかし頭脳明晰で身体能力も著しい彼等なだけに、周りの人間は首を傾げるばかりだ。
加えて美貌が半端ない。



「だが今年こそ俺の勝ちだな。わりぃが最近ツナと頻繁に目が合うんだ」

「ム……それはお前が呪えそうな視線でツナヨシを見てるからだろ」

「汚らわしいぜコラ」

「バレンタインデーに事故で入院して欲しいな。寧ろ今日」

「……ほー?」



爽やかな笑顔で辛辣な会話を飛ばしていた4人の間にある空気が見事に軋む。
スカルは巻き込まれたくないとばかりにそこを離れようとしたが、ガシっとコロネロに腕を捕まれた。
つまりは逃げられない。憐れだ。



「目出度いバレンタインデー前日に物騒な事はしたくなかったんだが……」

「とかいってその手に持っているものは何だコラ」



チャキッと音がして各々が武器を構える。
嗚呼、こうなってしまうと止まらない。
スカルも懐からナイフを取り出し、マーモンも手をかざして幻術を使う気満々だ。
他の園児達は事情を察知して、静かに教室から離れて行く。
巻き込まれたら病院送りは確実。楽しい楽しいバレンタインデーを過ごそうとしている園児達にとっては堪ったモンじゃない。



「邪魔な雑魚共は早めに処分したほうが良いだろうからな」



クツリとリボーンが笑って銃をクルクルと優雅に回して見せる。
そしてバギュン!と一発。
その音が合図となり、誰も居なくなった教室に静かな旋風が吹き荒れた。




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