にじのゆめ、ひかりのあめ

□恋人/逆位置:ラル・ミルチ
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雪がこんこんと降る中で、二人銀世界を歩く。
また綱吉が脱走を試みたのだ。
世話の焼けるボスはいくらでもいるが、こういった癖は厄介極まりない。
護衛として付いて行くと言えば、護衛としては嫌と。
生意気にもそう返して来る彼の目は割りかし本気である。



「ラル、寒くない?」



鼻を真っ赤にしながら、綱吉が隣を歩くラルに声をかけた。
寒いことには寒いが、ここで弱音を吐くほど抜けてはいない。



「俺は大丈夫だ。それよりツナのが問題だろう。風邪をひいたらどうする」



フンと鼻を鳴らす少女に、綱吉は嫌そうに顔を歪める。
しかしそこは表情をころころ変える事が得意な綱吉だ。
直ぐ様自分の首に巻いていたマフラーを取り、ラルの目の前にしゃがんで彼女の首に巻き付けた。



「おい、どういうつもりだ」



むっ、と綱吉の行動に眉間に皺を寄せたラルに綱吉はにひひと子供みたいな笑みを浮かべては白い息を吐き出す。



「子供は風邪の子だけど無理は禁物ってね。俺はデスクワークだけど、ラルは外回りでいつも大変だから」



ぽんぽん、とラルの頭を撫でて綱吉は再び足を進めた。
こういう時だけ嫌な事に綱吉は大人の余裕とやらを見せてくる。
頼むからその配分を間違えるなと言いたいラルだが、呆れて溜め息しか漏らせない。
安定という言葉を知らない綱吉。
しかしその不安定でアンバランスな性格に惹かれているのも確かだ。

ラルも再び綱吉に付いていくために足を進める。
ふと真っ白な雪から視線を上げれば、綱吉の手。

握ったら、暖かいのだろうか。
それとも、やはり冷たいのだろうか。

興味はとてもある。
彼の手を握れたら、どんなに幸せだろう。
きっと綱吉も、少し驚いた様な顔をしてから優しく微笑んでくれる筈だ。
だが。
あと一歩が踏み出せない。
いつもそっ気ない態度をとっている為に、尚更やりにくい。これは困った。



「あ、バス停発見!」



しかしラルがグダグダと綱吉の手とにらめっこをしてグダグダと思考を走らせている内にも、綱吉は意気揚々とバス停まで走って行ってしまった。
自分の教え子にヘタレだ何だと言っている割りに、自分も中々行動できていない事に気付く。
何だか無償に切ない。

ラルはチィと舌打ちをしてバス停まで走った。
人知れず肩を落としていたのは、彼女だけの秘密である。


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恋人/逆位置
優柔不断の為に、せっかくのチャンスを逃す。

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