にじのゆめ、ひかりのあめ
□されど小学生
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イジメられっ子の綱吉は、体が華奢で貧弱で色素が薄くて目がパッチリした男の子。
そんなターゲットが本日学校をお休みした。
「ったく、これだから貧弱は参るぜコラ!」
「テメーがドッジボールで狙い打ちしたのが悪かったんじゃねーのか?」
「ああ。そういえば顔面直撃してましたよね」
「はぁ?あいつが勝手に当たったんだろ。…俺は悪くねーぞコラ」
テコテコと、閑静な住宅街を3人のイジメっ子達は歩く。
マンションが多い駅周辺とは打って変わって、都会的要素の全く見受けられない住宅街にある一軒家。
それが綱吉の家だった。
担任は何を履き違えたのか、最悪にもこの3人に綱吉のプリントを家に届けるように頼んだのだ。
見ているようで実は全く見ていない。
畜生何度も言うようだが、これだから教師は駄目なんだ!
綱吉からしてみれば、彼等と仲良くした覚えもなければ仲良しだという事実も皆無であるのに。
「そんな事より、リボーン!テメーの嫌味攻撃が効いたんじゃねぇのかコラ!」
「あぁ?嫌味なんて言ってねーぞ」
「先輩…あれが嫌味じゃなかったら何だってんですか?」
「本当の事だぞ、どこをどう取っても。…よって俺は悪くねぇ」
自分が悪くないという主張をしているものの、コロネロにしてもリボーンにしても一応自覚はあるようだ。
こちらからしてみれば決してイジメているわけではないのだが、如何せん綱吉本人に怖がられてる感は否めない。
手渡された地図と住所を見ながら、リボーンはスカルを睨んだ。
「おいパシリ、」
「パシリじゃない!」
ズガン、と1発。
スカルの頬を僅かにカスって実弾が飛んだ。
リボーンの手元には、何処からか取り出した銃がある。
スカルはぐ、っと息を詰まらせた。
「テメーにも原因があるんじゃねぇのか?」
「はぁ?ありません」
「でもこの前ツナ泣いてたじゃねぇかコラ」
「あれは…多分目に砂利でも入ったんですよ」
リボーンから目を反らしながらスカルは言う。
実際の所、コロネロで体にストレスが溜りリボーンで精神的にストレスが溜り、最後スカルに叩き潰されるという最悪の悪循環が産み出した結果なのだが、リボーン達が知るわけない。
「ついたぜコラ」
コロネロが1つの表札を指差す。
確かにそこには沢田の表札。
地図と見比べてみても、違いはないようだ。
「パシリ、インターホンを押せ」
「嫌です。コロネロ先輩が見付けたんですから先輩が押して下さい」
「何で俺なんだコラ!リボーン、テメーが行け」
「断る」
いつもはそんなことないのだが、というかいつもは寧ろ図々しいくらいの彼等なのだが。
何故だかインターホンを押すことに気が引ける。
もし押して「帰って」と言われたらどうしよう。
まぁ、別にどうってことないのだけれど。
…どうってことないのだけれど。
むぅ、と黙った3人は悲しい程に強がりだった。
仕方なくジャンケンで決めようにも、決まらない。
あいこ、あいこ、あいこ、あいこ、あいこだ。
ドンマイすぎる。
ぐだぐだとジャンケンを続けていた3人は、結局馬鹿らしくなって放棄した。
「いい加減パシリがおしゃーいい話だろうが」
「賛成だぜコラ」
「んなっ!ズルイですよ!!」
「るせー、さっさと押せ」
ゲシゲシと2人から蹴られて泣きそうになる。
悪魔め。
こうなってしまってはスカルに拒否権はない。
嫌々ながらもスカルはインターホンの前に立った。
そしてボタンと睨めっこだ。
男らしくないとは自覚しながらも、腕が重くてあがらない。
しかしいつまでもこうしているわけにはいかないだろう。
スカルは意を決してインターホンに指をかけた。
緊張感があたりを包む。
「あら、お客さん?」
が、しかし。
後ろからかけられたのほほんとした声に何もかもがブチ壊しになった。
3人同時に振り向けば、若い女性が立っていた。
その顔に、少しだけ見覚えがある。
というか、知っている顔に激似だ。
髪型こそ違うが、まるで生き移し。
「ツナにプリント届けに来たんだぞ」
まずリボーンが口を開いた。
コロネロとスカルも続いて頷く。
するとその女の人はニッコリ嬉しそうに微笑んだ。
随分と愛らしい。
綱吉も、笑ったらこういう顔をするのだろうか。
3人がいつも見ている綱吉の顔は、困っていたり泣きそうになっていたり。
というか泣いていたり。
笑った顔を見たことが無いに等しい。
「ありがとう!つっ君も喜ぶと思うわ!本当は会わせてあげたいんだけど、風邪をうつしたら大変だからおばちゃんが受け取ってもいいかしら?」
淡い雰囲気を纏った日溜まりの様な女性は、やはり彼の母親らしい。
しかし若い。
若すぎる。
「構わないが…そんなに綱吉の風邪は酷いのか?」
心配そうに尋ねてくるスカルに、彼女はニッコリと微笑んだ。
「んー、来週には行けると思うけど。でも、一応ね?」
ね?と可愛いらしく首を傾げられてしまったら3人は黙るしかない。
しかし気になるものは気になるので、彼女をじぃーっと見つめてしまう。
3人の熱視線を浴びて綱吉の母親である奈々は、んーとこれまた可愛らしく唸って3人1人1人を見返す。
そしてひとつ思いついたような顔をして、ニッコリ笑った。
「ちょっと待ってて貰えるかしら?あの窓見てて頂戴ねー」
言いながら彼女は家の中に入っていく。
パタンと閉じられた扉を見て、3人は顔を見合わせた。
そして数分後。
じぃ、と言いつけを守って窓際をガン見していた悪ガキ共の視界に、いつものひ弱な少年が映った。
ガラガラと窓をビクビクした様子で開けているのは、まぎれもなく沢田綱吉だ。
因みに現段階で綱吉の心情は「めっちゃみられてんですけど!恐!なにあれきっと外に一歩でも出たらとって食われるんじゃないの俺!」となんとも残念な状況なのであるが、3人は気付く筈もない。
しかし綱吉はとりあえず母親から手渡されたプリントを手にもってピラピラと振ってみる。
すると驚くことに3人の顔がパっと明るくなった。
「ツナ!風邪は平気かコラ!」
「えっ、あ、うん!」
「あんま無理すんじゃねーぞ」
「う、ん。気を…付ける?」
「何で疑問系なんだ」
「えと…何と無く」
次々と投げ掛けられる質問や突っ込みにあわあわと綱吉は対処する。
にしても、何しに来たんだ。
いや、プリントを届けに来てくれたのか。
でも、何で彼等なのだろう。
「ツナ、お大事にな」
「しっかり安眠しとけコラ」
「じゃあ、また学校で」
「う、うん。また…」
キラキラのオーラを放ったまんまの王子改め餓鬼大将に、綱吉は引きつってはいるものの笑顔を向けた。
困った様に笑っている顔は、まさに健気に微笑んだ天使のようで――――…
「「「……――――ッ!!?」」」
ものの見事に3人は、綱吉の初めて見せた笑みに撃ち抜かれた。
皆程良く顔が赤くなって固まっている。
「……え、何…どうしたの?」
「い、いや!何でもないぞコラ!」
「ああ!何でもない!!」
「ツナ!俺と付き合え!」
「「「はぁ!!?」」」
いきなり愛の告白をしだしたリボーンに、3人は声を合わせて、内2人は彼を睨んだ。
しかしこの4人の内恋愛経験が豊富なのはリボーンだけであった。
一応スカルも使える女子は使っとく(つまるところ金持ちの女には軽く愛想を振り撒いとく)性格ではあったが、甘ったるいキャラメルミルクティーみたいな思考は残念ながら持ち合わせていないのだ。
コロネロに至ってはモテてはいるものの、本人が無自覚な為に恋愛には発展しないという無念さ(実際に無念なのは女子のみ)。
綱吉は…まぁ論外。
「テメーリボーン!!ふざけんのもいい加減にしろコラ!」
「先輩、言っていい冗談と悪い冗談があります!」
「るせぇヘタレ共。ここは俺に場を譲れ。そうすれば全て丸く治まる」
「「治まってたまるか!!」」
何だか自分を外してやけに楽しそうな3人を見て、ありがたいけど早く帰ってくれないかな、とか失礼極まり無い事を思っている綱吉だが、そんな綱吉に気付くものは居ない。
なんというか。
この小学生達の恋愛に、何だか前途多難そうな香りが漂っているけれど、こちらも同様、誰も気付いては居ないようだった。
強いて言うなら、約1名。
奈々が密かに微笑んでいたのだけれど。
彼女も彼女で「つっ君モテモテねー」と軽く済ませていたりする。
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