にじのゆめ、ひかりのあめ

□OATH4
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綱吉がスヤスヤと漸く寝息を立てた頃、コロネロはムクリと体を起こした。


一応初日はちょっと、とさっきはキスを甘んじて受け入れていた癖に、共に寝ることを拒否されたのだ。
どうやら綱吉は気まぐれな性格らしい。

仕方なくお預けを食らったコロネロは綱吉にベッドを貸し、自分は床に布団を敷いて寝ることにした。
しかし綱吉は一向に眠る様子を見せない。
闇の中でじっと目を見開き、何かを考えているようだった。



「寝れねーか?」

「んん…大丈夫」

「そーいや、テメー親はどうしてんだコラ」



この年で独り暮らしをしている自分が聞ける事では無いのかもしれないが、聞いてみる。



「多分、雲雀さんが連絡してくれてると思う」



ふぅ、と暗闇の中に溜め息が漏れたのを聞こえて、コロネロは眉を潜めた。



「屋上で、」

「んん?」

「あの時、屋上で言ってた帰る場所があるってーのは、雲雀の事か?」



綱吉は屋上から連れ去られる時に、帰る場所はあると言った。
雲雀が迎えにきた所をみると、どうやら彼が関係している事だけは分かる。



「まぁ…一応ね。俺、さ…高校卒業したら雲雀さんちの養子になる予定だったんだ」

「結婚できねーだろ」

「そうだよ。だから、引き取られるって形でさ」

「それがツナの帰る場所か。まー彼奴んちに行くんなら怯えて当然だなコラ」

「別に怯えてなんて…」



いない、という言葉を飲み込むかのように綱吉は小さく首を横に振った。



「コロネロ」

「何だコラ」

「…ごめんね」



本当は、関わるつもりなんて毛頭なかった。
そもそも、愛なんてものはあの時に捨てたものだとばかり思っていたのに。
雲雀だけでは飽き足らず、コロネロにまですがっている。
なんて甘くて情けないのだろうか。
避けて通れない道に頭が痛くなる様だ。
懺悔しても救われない。
だからといって面倒臭いからと全てを投げ捨てられるわけでもない。
きっと体はこうして時を刻んでいても、心はまだあの日に置き去りのままだ。

ごめんね。

その言葉はコロネロへなのか雲雀へなのか。
はたまた心の淀みに住み着く彼への言葉なのかは分からないけれど。
いまはただ、謝らなければやっていられない。
雲雀は君が謝るなと言ってくれるが。



ごめん、と何回か呟いた後で綱吉は瞳をゆっくり閉じた。
そして規則正しい寝息が小さく部屋へ響きわたる。


丁度その時だ。
コロネロの携帯に着信があったのは。
こんな時間に、知らない番号から。
しかし大体検討がつく。
コロネロは綱吉が寝ている事を確認して、外へ出た。
扉を開閉に気を使う。
漸く寝た綱吉を起こすことはしたくない。



近所迷惑にならぬよう、駐車場まで足を伸ばす。
猫が2匹、月明かりに照らされて仲むつまじく寄り添っていた。

携帯のリダイヤルボタンを押し、耳につける。
するとコール3回にして相手が出た。
予想していたことだが、雲雀の不機嫌な声にこちらまで不機嫌になりそうだ。
というか既に若干なっている。



「勝手に人の番号調べるなんてテメー悪趣味だぜコラ」



挨拶代わりに小言を叩き付けると、受話器の向こうで鼻を鳴らす音が聞こえた。



『ふん。僕の情報は侮らない方がいい』

「ロクな情報じゃなさそーだな」

『君さ。綱吉と深い関わりがあったようには見えないんだけど』

「そーだな。精々半年ってくらいだぜコラ」

『…ふうん』



そこで微妙な間が開いた。
しかし電話を切られるというわけでもないので、コロネロも待つ。



『ねぇ、君。君、綱吉の笑顔って見た事ある?』



ポソリと呟かれた声に、コロネロは眉を潜める。



「…あるぜコラ」



先程見たものが最初だとは言わないでおく。



『そう…。ねぇ、明日綱吉に会って話をしたいんだけど時間開けといてって言っといて。一応僕から本人にメール入れとくけど』



そして雲雀は一方的に言葉を吐きだし、電話を切った。
一体なんだったのだろうか。
害が無さそうだっただけに、謎が更に深まる。
あの昼の殺気だった雰囲気を思い出しつつ、コロネロは部屋へ戻った。
すると消した筈の電気が付いている。



「起きたのかコラ」

「うん」



少しだけ泣きそうな表情の綱吉に、コロネロは寄り添う。
まるでそれは置いてかれた子供のようで、自分がついて居なければと錯覚する。



「黙って出てって悪かったな」



コロネロの言葉に、コクリと綱吉は頷く。



「雲雀から電話があった」

「えっ…」

「喧嘩はしてねーから安心しろ。明日ツナと話がしたいんだとよ。だから時間開けとけって言ってたぜコラ」

「そ、っか」



コロネロの言葉に安心したのか、綱吉は小さく安堵の息を吐く。
そしてコロネロに寄り掛る。
僅かな重みが心地好い。
お互い、感じる体温に瞳をゆっくり閉じる。
少しだけややこしい明かりを消して、月明かりに身をまかせていれば、逃げていった睡魔も戻ってくるのだ。



「寝るぞコラ」

「うん。おやすみ、コロネロ」



手を重ね、離れない様にと指をきつく絡ませ、ベッドに2人横たわった。
布団を被れば更に距離が近くなり、同時に世界は狭くなる。


そしてそっと綱吉は繋がれたコロネロの手の甲に口付けをした。



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