にじのゆめ、ひかりのあめ

□OATH3
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誰かを家に入れるのは久しぶりだった。
シンと静まりかえった部屋。
パチリとスイッチをひとつ押せば、瞬時に光に包まれる。
闇を殺すのは簡単だ。



「…お邪魔します」



綱吉は存分に泣いた後、何故だか照れているのか少しだけコロネロと距離をとっていた。
それがもどかしくて苛ついて、結局手を繋いで帰宅したのだ。
辺りはもう、紅色の光に染まっている。
窓を開ければ、少々肌寒かった。
近くの公園で遊んでいる子供呼ぶ母親の声が聞こえてくる。
丁度夕飯時だ。



「テキトーに座れコラ」

「う、うん」



きょろきょろと座る所を探して、綱吉が結局座ったのはベッドの上だった。

コロネロは中学の頃から独り暮らしをしている。
これといって不備は無かったし、何より快適。
元より親に対して寂しいなどという感情はあまり持ち合わせていない。

綱吉はコロネロがキッチンにお湯を沸かしに行ったのを見届けて、ベッドに寝転んで天井を見上げた。
あまり広くない部屋だ。
でも逆にそっちの方がいい。
ゆっくり肺から空気を吐き、新しい空気を取り込む。



「カップラーメンって、体に悪いよー」

「ガリガリのテメーに言われたくねぇ」

「あのさ…いっつも思ってたんだけど。コロネロって酷いよね。なんか心にグサっとくるよ」



ははは、と乾いた笑みを浮かべながら綱吉は漂ってきた良い香りに横たえていた体を起こす。
そういえば今日は何も食べていなかった。



「アイツとはどんな関係なんだ?」



お湯を注ぎながらコロネロが不意に聞いてくる。
アイツというのは雲雀の事だろう。
しかしここまで気を使わないでいてくれると逆にありがたいのかもしれない。



「関係?……恋人」



ボソリと返した綱吉に、コロネロは驚いたように顔を歪めた。
そんな表情を見るのは初めてで、何故だか綱吉は笑いたくなった。
笑ったのも久しぶりだ。
もう何年も笑っていなかった。
頬が引きつって、上手く笑えているかは分からないけれど。

しかしコロネロはそれが嫌だったようで、ムッとした表情に戻してしまった。
可愛らしかったのに、残念だ。



「嘘。分からないよ。そこらへん曖昧なんだ」



何でもないように言った綱吉は、カップラーメンの火薬の封を切る。



「…キスは」

「したよ」



むぅ、と黙りこんだコロネロに、綱吉は机に頬杖を付いて更に続ける。



「因みに、それ以上もした」



その一言に、コロネロはどんどん不機嫌になりながらも綱吉の唇に噛みつくようなキスをした。
勢い余って押し倒してしまったが、まぁ構わないだろう。
綱吉も今は黙ってコロネロのキスを受け入れている。

舌を絡めあって、情熱的なキスである筈なのに何故か静寂が身を包む。


そのままの流れで綱吉の服を脱がしにかかったコロネロだが、綱吉に止められた。
何かと思って動きを止めれば、熱に潤んだ瞳と目が合う。



「コ、ロネロ…」

「ンだコラ」



ベッドが良いのかと目で投げ掛ければ、綱吉は机を指差す。
そして一言。



「麺が伸びる」



最低だ。

思いきりヤる気を削がれたコロネロだが、そのまま無視してもう一度キスを決め込もうとした。
しかし綱吉は手でコロネロの口を塞ぎ、首を横に振った。
どうしてもカップラーメンを食べたいらしい。
何が体に悪いだ。



「胡椒とって胡椒」

「ん」

「ねぇねぇ、テレビ無いの?」

「ねぇよ」

「しけてんなー」

「ンだとコラ」

「ちょ、俺のチャーシュー!」



ふっきれたのか無理をしているのか。
そこら辺が定かではないが、まぁ元気があるのなら別にいい。
空元気というわけでは無さそうだ。



「なぁ、コロネロ」



ズルズルと一通り食べた後、綱吉がコロネロにポソリと話かける。



「あまり、雲雀さんに迷惑かけないでね」



あの人、不器用だけどいい人なんだ。
そう困ったように微笑みながら呟いた綱吉に、コロネロは「あぁ」とだけ返した。



「喧嘩とか…怪我だけは本当にヤメロよ」



不安そうな視線に、コロネロは綱吉の横に移動して頬に細やかなキスを落とす。



「絶対だからな」

「あぁ」

「誓って言えるか?」

「大丈夫だ。ツナ、そうテメーに誓うぜコラ」



それでも不安がちな瞳を伏せて綱吉はコロネロの両手をとって自分の手で包みこんだ。
祈りにも似ている仕草に、コロネロは綱吉の首筋に印を残す。
チクリとした痛みに顔を歪めた綱吉だが、コロネロの意図を読み取り、コロネロの首筋にも同じものを落とした。
お互いの物になれたという証。
一時的な幻想ではあるけれど…。



「ツナ、ツナも俺に誓えコラ。テメーは今から、俺のものだと」



コロネロの青く深い瞳が綱吉に訴えかけてくる。
綱吉は心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥ったが、小さく確かに頷いた。


ごめんなさい、と。
何度も何度も心の中で、あの日の晴天とあの日の彼を想いながら。


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