にじのゆめ、ひかりのあめ

□蜂蜜漬けの、
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世の中には、とても信じがたいけれど国民誰しもが興味を引かれる食べ合わせというものがある。



「例えばプリンに醤油、アボガドに醤油、」



なんとなくそう綱吉が呟けば、珍しくキッチンへと足を踏み入れていたスカルが物凄く嫌そうに顔を歪めた。



「醤油ばっかだな、日本人」

「うるさいよイタリア人」



醤油臭い国で生まれ育ったのだから、そこは仕方がないだろう。
ワインは水です、のイタリア人よりかは可愛いげがある筈だ。
多分。
ちょっと渋いけど。



「でもアボガドと醤油とワサビは意外に美味いだろ?」



これに関しては綱吉がちょくちょく食べていたのでついでに貰ったことがある。
まぁ不味くはなかったので、スカルは1つ頷いた。



「トロの味がする」

「…そうか?」

「そうだよ。え、お前食ってて気付かなかったの?」



ばっかだー!と楽しそうに笑っている彼は、仮にもドン・ボンゴレで、そりゃあスカルも含めた虹の子の我儘の為に自ら夕飯を作っていようとも、トロに手が出せないほど貧しくはない。
いや、そもそもトロなんて日本の回転寿司に行けばお手頃価格で食べれるだろうに。

スカルは多くの高級食材を食してもなお庶民でい続けられる綱吉に首を捻る事しかできなかった。



「あ、でも醤油だけじゃないんだぞー」



思い付いたように綱吉は笑って、そして続ける。



「この蜂蜜と何で、メロンになるでしょう?」



椅子に座っているスカルに、くるりと振り向いて笑いかける綱吉は無邪気でとても可愛らしい。
可愛らしいのだが。
スカルは嫌な予感に黙った。
多分、スカルの記憶が間違いでなければ、それは何とも言い難いものである。

一方そんなスカルを見て、綱吉は更に笑った。
スカルがこの事実を知らないとでも思ったのだろう。
いつも知識では負けているので気を良くした綱吉は、冷蔵庫を開けて今スカルが一番見たく無かったそれを取り出した。
緑色で、細く長い形をした――――…



「正解は、キュウリでしたぁ!」



嗚呼。
一体誰がこんなものをあみ出したのだろうか。
スカルは割りと本気でその張本人を呪ってやりたい気分ではあったが、残念ながらそれはできそうに無かった。
できたとしても、後回しである。


なぜなら今はただ、さっそく胡瓜に蜂蜜をかけようとしている愛くるしい馬鹿を殴って黙らせて止める、という選択肢しかないのだから。


そう確信するやいなや、スカルは早速綱吉を止めにかかった。
早い話後ろからはおい締めにしただけである。
もちろん背はまだ届かないので、椅子を十分に活用して。



「何で止めんだよ!スカルは食いたくないのか!?」

「当たり前だろう!!普通にメロンを買ってこい!」

「普通にメロン出したんじゃツマラナイだろー!」

「メロンに面白さを求めるのは間違ってるぞ!!というかそれはメロンじゃない!胡瓜だ!!」

「いいだろ胡瓜でも!胡瓜の何が悪いんだよ!」

「別に胡瓜が悪いとは言ってない!悪いのは全部胡瓜に蜂蜜をかけようとしているアンタだ!」

「スカルのケチ!」

「誰がケチだ!」



ダダをこねる綱吉の頬をむにゅーと引っ張ってのばす。
スカルも必死である。
当然だ。
綱吉の餌食にはなりたくなかった。
全く、大人が子供の食育を誤ってどうする。
寧ろトラウマが出来た日には笑えない。
笑えないのだ。



「フン。アンタが全部食って、それでも美味いと断言できたなら食ってやってもいいけどな」



但し一欠片。


そのスカルの一言に、綱吉は顔を歪めた。
自分が食べるつもりは無いらしい。
何てヤローだ。



「出来ないなら此を機に食べ物で遊ぶのは止めろよ」



子供に食育されている大人なぞは見たことがないが。
まぁそこは仕方ない。
なんたって綱吉と虹の子だ。
綱吉に原因があることは、虹の子によって正される。

逆は有り得ないけれど。



そんな悲しい現状に、しぶしぶと綱吉は蜂蜜を棚へと戻した。
何だかやるせなさそうな表情をしていたが、別に知ったこっちゃない。


にしてもだ。

綱吉の手に収まったままの胡瓜を見て、スカルは1人満足そうに微笑んだ。


なんというかスカルは今、良い仕事をした自分をとっても誉めてやりたい気分になった。


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