にじのゆめ、ひかりのあめ

□トマトは如何?
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コロネロが風邪をひいた。
多分。

この多分、というのは本人がやたらと否定してくるので取って付けてあげただけだ。
ああいった性格も上乗せして、きっと風邪をひいたという事実が結構ショックだったりしたのだろう。


綱吉からしてみれば風邪なんてものはあの家庭教師が現れる前までの話だが、学校を休める口実にもなるしかなりありがたーい物だったのだけれど。
ちょっとばかし理解に苦しむ綱吉は首を傾げて自分のベッドに寝かし付けたコロネロを不思議そうに眺めた。


コロネロは、さっきからむすくれたままだ。
綱吉に無理矢理寝かし付けられたのが気に食わなかったのだろうか。


あちゃー。だとか割りと軽く思った綱吉だが、何やら良い案を思い付いて、ふいにベッドの横から立ち上がろうとした。

瞬間。

グイと服の裾を引っ張られる。


何事だと思い、裾を掴んでいる張本人を見ると澄んだ青い瞳と目が合った。



「コロネロ?」



若干ムスくれた表情の奥底にチラリと見えた不安の色に、綱吉はもう一度ベッドの横に腰を落とす。
そして裾を掴んだままの手に手を重ね、さらに片方の手でコロネロの髪を安心させるように結いてやった。



「大丈夫だよ、キッチンに行くだけだから」



むすくれたままではあるが、わざわざ己を止めてまで問いを投げ掛けてくれたコロネロに微笑んでからキッチンを指差す。
生憎キッチンはベッドから見える位置にある。
キッチン内までは見えないが、誰が何をしているかくらいは分かる構造だ。




ふと。
答えを知り、少し安堵した様子のコロネロが、きちんと目を合わせながらも体を布団の中でもぞりと動かしたのを綱吉は見た。


ふてくされの虫はおさまった様だが、それは別の糸口を見つけたからみたいだ。

何と言うか、ガキである。
隙を見て逃げ出そうとしているのが見え見えだ。

リボーンは上手くすり抜けるだろうに、どうもコロネロはこういった類の嘘は苦手だった。
何故かスカルも、マーモンも。
何でも出来る万能少年だと思っていただけに、親近感がわく。


と、まぁ。
別に今はそんなことはどうだっていいんだ。



綱吉は、裾を離し更に綱吉の手を無造作に振りほどいた(安心させてやろうと思ってやったのに失礼なやつだ!)コロネロの顔を右手と左手でガッチリ挟み、目が合う様に持ち上げる。



「逃げようなんて思うなよ?コロネロ」



瞳を見て、いつも以上ににっこり笑った綱吉にコロネロは嫌そうに眉を潜めた。
そして綱吉の手を無理矢理頬からひっぺがして布団へと潜り込んでしまう。

あーあ。

またふてくされの虫が戻ってきたようだ。
まったく早いご帰還だこと。
しかしその虫が戻ってきたというところを見ると、もう逃げることはなさそうなので、綱吉は自分に背を向け壁の方に顔を向けたコロネロにクスクスと笑いかけてからキッチンへと足を運ぶことにした。



一方で。
コロネロは真っ白な壁と現在進行形で睨めっこ中である。
あぁ。情けない。
まさかコイツの世話になるなんて。
というか風邪なんてほっとけば治る代物だ。
今までだって治ってきた。
馬鹿みたいだとは思うけれど、それが彼の優しさであり、己が惹かれる所以であるのだから切ないものだ。
コロネロは小さく舌打をして溜め息を吐いた。
溜め息を吐く為に大きく息を吸いこめば、肺に布団に染み渡った太陽の香りが滑り込んでくるのが分かる。
淡く、優しい光の様な香りだ。
確かに、沢田綱吉を連想するにふさわしい。
この香りをかぐと、体の力が嫌でも抜けていってしまう。
今回も例外ではない。


コロネロは小さく欠伸を漏らした。
そして重くなってきた瞳を閉じる前、遠いところでこのベッドの所有者の声を聞いた気がしたが。
残念、それはコロネロの瞳が完全に閉じきった後だった。

















「――――…ホラ、コロネロ。起きて」


あれからどれだけ時間が過ぎたのだろう。
薄れかけた意識の中、綱吉の声に引き上げられた。
どうやら不覚にも眠ってしまっていたらしい。
嗚呼。
全てはこの布団が悪いのだ。
やっぱり無駄に安心しきってしまう。



「寝ろっつったり起きろっつったり忙しいな、コラ」



フン、と鼻を鳴らして体を起こしたコロネロは、少し八つ当たり気味に綱吉へと小言を投げ掛けた。
ちょっと寝てしまったのが悔しかったのだ。



「コロネロが充分寝たと思ったから、俺は起こしたんだぞ?」



チョイ、と微笑んだ綱吉が指差した先には小さな壁掛け時計。
但し短針は先程よりも2時間すぎている。
そんな現実に、コロネロは今度こそ黙るしかなかった。
いつもは弱くてダメダメな綱吉は、こうなったら強い。
そして他でもないアルコバレーノの立場は一気に弱くなってしまうのだ。



「ま、寝る子は育つっていうからね。はい、トマト。フルーツトマトだから甘くて食べやすいしスッキリするぞ〜」



そう差し出された皿の上には、色鮮やかな赤が四切りにされていた。
フォークを手渡され、コロネロは仕方なく受けとる。



「トマトは医者いらずーってね」



ホラホラと勧める綱吉自身も幼い頃はあまり好きではなかったタチなのだが、そんなことは今どうだっていい。
今大切な事は、綱吉がトマトを摂取する事ではなく、コロネロがトマトを摂取する事だ。
大人というのは、時にひどく理不尽である。

それでもやはり今は綱吉の方が上にいるので、コロネロはおとなしく従うことにした。
横に首を振っても、どうせ口に詰められるのだ。
しかもあーん、だとかそういう麗しい類ではなく、もっとこう、サバイバル的な感じで。


1つにフォークを突き刺して口に入れれば、冷たく甘い汁が広がる。
確かにそれは、熱ってダルい体には丁度よかった。

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