にじのゆめ、ひかりのあめ

□ポピーを着飾って
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可憐な花だ。
そう呟いて、リボーンが花屋の前でずっと見ていたから、買ってあげようかな、などと柄になく思ったりしたのだけれど残念ながらその日は財布を持ち合わせていなかった。


あれから10年。
あの可憐で彼には似合わない花が、今日屋敷に届いた。
ハルからだそうだ。
ポピーの花言葉には『七色の愛』というものがある。
お礼の電話をした際に、受話器の奥で彼女は『皆にもおすそ分けしてあげてくださいね!』と笑っていた。
その言葉のうちの『皆』というのは、聞かなくても分かりきっていることだ。



「ポピーか」



何の断りもなく、いつものように執務室へと足を踏み入れたリボーンが花瓶の中の花々をみて小さく呟いた。
綱吉は入れたてのココアを飲みながらそんなリボーンを見つめる。
なんだか不思議で堪らないのだ。
人の好みにとやかくいうつもりはないし、そもそもリボーンがどんな花が好きかだなんて知ったこっちゃなかったけれど。
でも、いつもリボーンには薔薇だと勝手に認識していたから。
多分、違和感がありすぎるからこんな結果になったのだろうけど。
にしてもポピーか。
意外に可愛いところもあるんじゃないか。

そんな綱吉の思考を読み取ったリボーンは、いつの間にやら懐から取り出していた黒い相棒で綱吉の横1cmも満たない場所を打ち抜いた。
綱吉思わずぐ、と息を呑む。
それでも10年付き合ってきた仲だ。
少しだけ慣れを感じている自分に何だかなぁ、と思いつつ綱吉は溜息を吐いた。

10年。
10年もたったのに、彼がポピーを好んでいる理由を知らない。
なんとなく、と言われてしまったらそれまでなのだけれど。


「何でリボーン、この花好きなの?」


今度はちゃんと疑問を口に出して伝える。
彼は心を読むことが得意だけれど、やはりそこは人間なようできちんと口に出して貰う方が気持ちが良いらしい。
そりゃそうだ。
アルコバレーノだ死神だと絶賛されていても、綱吉が知っている彼は何と言っても人間。
我侭で、欲が強くて。
いちばん人間らしいのは、実の所彼らなのかも。
素直になれない所が、いちばん素直で可愛らしいと綱吉は思うのだけれど。



「そうだな。いい機会だ、教えてやるぞ」



リボーンは花瓶の中からポピーを一輪抜き取った。
そしてその手で、茎の部分を折ってしまう。
一向に意図がつかめない綱吉の前まで来て、リボーンは楽しそうに微笑んだ。
心地のよい風が窓から入ってきて、カーテンを滑って行く。
サラリ、とカーテンが泳いだ所で、綱吉は瞳をパチクリと瞬かせる。
カーテンが彼を包んだ瞬間に、ポピーはリボーンの手によってアクセサリーへと姿を変えていた。
丁度、綱吉の右耳の上にポピーがそっと乗っている。

それを眺めながら、リボーンはご満悦だった。



「馬鹿みたいに似合うんだ。…恋しい奴にな」



だから、いつのまにか好きになっちまったんだぞ。
薔薇よりも、何よりも。


そんな言葉を吐くガキは、なかなか居るもんじゃない。
というかこんなんがうようよ居たら今頃世界は終わりを迎えてる。


綱吉は心の中でひそかに悪態をつきながら困ったように眉を潜めた。
その頬は、飾られたポピーと同じような淡い紅。
似合う。思った通りだ。



「やっぱり、可憐だぞ」



囁かれた甘い言葉に、思わず目を瞑ってしまう。
色んな意味でもう耳を塞ぎたかった。



「この花、他の奴らには絶対渡すなよ」

「何で」

「俺が、嫌だから」

「…あっそう。まぁいいけどさ」



真っ赤になった顔を隠すようにカーテンへと潜り込んだ教え子に、自然と笑みが漏れる。
そこが、やはり。
乙女心といえるかは分からないけれど、似たものではあると思っている。
それは、10年間変わらなかった奇跡。
嗚呼、愛しい。


もっとも、彼をポピーの中に埋めてやりたい気持ちではあったけれども。
これはこれで満足だ。


カーテンの中、息を潜めている教え子を蹴り飛ばしながらそう思う。



「隠れてないで、出て来い」

「い、嫌」

「照れてるからってな、それはねーぞ」



淡い風が、優しく歌う穏やかな午後。


さあ、早く出てきておくれよ。
ポピーを着飾った、君を見届けるまでは
僕はきっと帰れない。

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