りく

□X'mas christmas
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クリスマス。
それは甘い響きを含ませて子ども達の心に雪の様な希望を積もらせる。
家族で楽しむのも良し、友達と楽しむのも良し、恋人と楽しむのも良し。
勿論、サンタクロースを夜まで楽しみに待つという過ごしかたも有りだ。
おもちゃや宝石も飛ぶように売れる。
誰も彼もが浮かれて、街はイルミネーションに輝く。
綱吉も例外ではなく、とてもウキウキとした様子で今日という日を心待ちにしていた。
それに漸く冬休みへと突入したので、あの恐怖の五人衆の顔を拝まなくてもいいのだ。
恐怖の五人衆。
悪魔の様な同級生。
好きなものは『弱いものイジメ』だと綱吉は確信している。
見た目も知識も運動能力も抜群。
ただし性格の悪さは極上。
綱吉にとって冬休みが来るまでの日々は地獄も等しかった。
因みに恐怖の五人衆曰く「愛のムチ」らしいのだが、ムチしか強調されていない気がする。

にしても、幸せだ。
体が痛まないだなんて夢みたいだ。
小学生にして嫌な幸せだが、周りが周りなので仕方ない。



綱吉がぬくぬくとコタツで暖まっていると、チャイムが鳴った。
もしかしたら、父親だろうか。
毎年毎年、世界を飛び回って帰って来ない父親が、綱吉にはサンタクロースだった。
いつもクリスマスには帰ってきてくれるのだ。
日頃の寂しさも、クリスマスにはさっぱり消えている。



「ツっくーん。今手が離せないから出てくれない?」



キッチンから響いてきた母親の声に、綱吉は素直に「はーい」と返事をして玄関まで走っていく。
父親だったらその大きな胸に抱きつこうと心に決めて。


そしてドアノブに手をかけて扉を開き、綱吉は見事に固まった。
固まった後で、綱吉は静かに扉を閉めた。
おかしい。
有り得ない。
だって冬休みの終りにちゃんと『クリスマスは外出して家に居ません』と伝えておいた筈だ。
それに対して彼らも『そーか。なら仕方ないな』と頷いてくれていた。
否、確かに。
確かに彼らにしては引きが早いとは思ったけれども。



「テメーダメツナさっさとドア開けろ」



チッという舌打ち共に襲って来たのは恐ろしく連打されて響き渡るチャイム音。
そして扉を遠慮なくノックされて綱吉はひぃぃいいい…!と心で悲鳴を上げて涙を飲んだ。
借金取りかの様な横暴な来客に、キッチンから母親の「ツっく〜ん?」という問掛けの声が聞こえてきた。
ヤバい。
これで母親が出てしまったら確実にこの恐怖の五人衆を家に入れてしまう。
そうすれば居座るのは目に見えていた。
それだけは阻止しなければ。

そう綱吉は大きく頷き、勇気を振り絞って扉を再度開いた。



「よー、ツナ。一昨日ぶりだな」

「う、うん…」



意気揚々と現れたリボーンに、綱吉はヒクリと頬を釣り上げる。
すると横から双子のラルとコロネロも出てきた。
さりげなくリボーンにタックルをかましていたのは、見なかった事にしよう。
この3人に突っ込むと怪我だけじゃ済まされない気がする。



「ツナ、メリークリスマスだぞコラ!」

「俺達の家で今日は過ごすといい。ツナの好きなケーキが沢山買ってあるからな」



元気なコロネロと自慢気に胸を反らすラルは双子特有の息の合った2人で、よくタッグを組んで綱吉を狙いに来るのだが他の3人に邪魔をされていて一向に蕾が開花しない。
綱吉の気付かないところで各々が奮闘しているのだ。
最近の小学生事情を見くびらないで頂きたい。
リボーンがふざければラルとコロネロが力業で阻止し、ラルとコロネロが綱吉に誘いをかければマーモンとスカルが策略を練って叩き潰すという悲劇。
しかしてマーモンとスカルは力量では3人には敵わず、こうして膠着状態が続いている。



「ム、やっぱり出掛ける予定なんか無かったんだね。部屋着じゃないか」

「うっ…、これからっ…出掛けようかと思っ…」

「下手な嘘はつかない方がいい。アンタは嘘がつけないヤツだからな。すぐ顔に出る」



言い訳も通じないと分かった綱吉はガックシと肩を落とした。
こうなれば早いところ諦めて適当にやり過ごすことにしよう。



「でも…、珍しいね。皆で来るなんて」



校内で5人で居るのは分かるのだが、普段はバラバラに過ごしている5人だ。
綱吉は素直に首を傾げていた。



「ちげーぞ。こいつらとはそこで会ったんだ」



聞けば、各々個人的に綱吉宅へ向かおうとしていたところに出くわしたらしい。
結局は皆考える事が一緒なのだ。
今日は麗しいクリスマス。
愛しい人と、ロマンチックな夜を。
そしてあわよくば、ちゅーまで持ち込みたいという願望。
リボーン達は人一倍マセたガキであった。
但しコロネロはそこのところは怪しいく、ラルに引っ張られている感がある。



「ツナヨシ、どうせ暇なら僕とデートしようよ」



いきなり仕掛けるマーモンは珍しくご機嫌そうに口元を緩ませて綱吉の手を握った。
そこに4人の痛々しいほどの視線が注がれる。



「おい待て。ツナとデートするのは俺達だぞコラ」

「貴様はお呼びじゃない、バイパー。強いて言うなら貴様らもだ」

「馬鹿言わないで下さい。俺だってツナを誘いに来たんですよ」

「まぁ早い話俺以外全員がお呼びじゃねーぞ。今日のツナの相手は俺だ」



眉間に皺を寄せて険悪なムードを放つ5人に、綱吉はどうしようと考えて嫌々ながらも提案した。



「あ、のー…だったら全員で遊ばない?」



眉尻を下げて笑う綱吉に、5人は押し黙る。
…全員。
全員は嫌だ。
でも、綱吉とデートが出来ないのはもっと嫌だ。
なので5人は仕方がないなと多少むすくれながらも了承した。




さてはて結局折れた綱吉は着替を済ましてあの恐怖の五人衆とクリスマスデートをすることになった。
人生には3つの坂があるというが、綱吉の場合まさかだらけだ。
予想外というよりは、予定外の連続。
もうその対処の仕方にも慣れてしまっている。



「で、何処に行くの?」



マフラーに半分顔を埋めながら問掛けてくる綱吉に、各々きゅんとしながらも積もった雪を蹴るように歩く。



「ツナが行きたいところで構わねーぞ」



リボーンがそう返せば、他の4人もコクりと頷いている。
しかし急に行きたいところと言われても困る。
どうしようかなぁ、と綱吉は考える間立ち止まってしゃがみ雪だるまを作っていた。
マーモンもそれに加わり、雪だるまに退屈を見い出した4人は雪合戦に望んでいる。
ちなみにスカルは強制参加とされていた。



「早く決めなよ」



そううんうん唸っていると、何処からか雪玉が飛んできて綱吉の顔面に当たった。



「わぶっ…!」



冷たい雪を首を振って飛ばした後。見ればリボーンが意地悪く笑っている。
そこで退けないのが小学生。
綱吉も雪を集めてリボーンにぶつけようと心掛ける、も避けられた。
くそー!と悔しがっていれば今度は後方から雪玉をくらい、振り向いたところで更に顔面を狙われる。
二発連続で来たということは、これはコロネロとラルだろう。
それからは雪合戦大会だ。
個人戦を主としているので、皆雪を被っては他人に当てる。



「ぎゃぁああ!やめて俺ばかり狙わないで!」



次から次へと襲ってくる雪玉に、綱吉は悲鳴を上げる。



「貧弱だなコラ。もっと上手く避けろ」

「無理!」



クリスマスなのに。何故。
綱吉は涙を堪えながらとりあえず安全そうなスカルに駆け寄った。



「馬鹿かアンタは!こっちに来るなぁ!」

「スカルさっきから傍観しててズルイ!」



道連れにしてやる!と意気込む綱吉の顔面に、スカルはたまったもんじゃないと雪玉を投げつける。
好きは好きだが、それとこれとは別だ。
あの強靭な奴らの雪玉集中砲撃は遠慮したい。



「ひ、ひどいっ…!」



ぐずぐずと綱吉が更に鼻を赤くしたところで、リボーンがやれやれと肩をすくめた。



「で、行きてー場所は決まったのか?」



半分雪に埋まっている綱吉にラルが手をのばせば、綱吉はスンと鼻を鳴らして素直に彼女の手を取る。



「あ、暖かいとこがいいな…」



雪を触りすぎて若干麻痺しかけている手を握ったり開いたりして感覚を取り戻しながら綱吉はリボーンに答えた。
するとリボーンも「それもそうだな」と呟いてとりあえずショッピングモールへ行く事になり、公園を後にする。



「ム、そういえば新しくケーキバイキングが出来たんだよね」



てくてくと歩いている途中、マーモンがポソリと呟けば綱吉の瞳が輝いたのが分かった。
それを見たスカルとコロネロとラルの表情が沈む。
マーモンとリボーンはドルチェが嫌いじゃない。
しかし他の3人は限度までが狭いのだ。
ケーキひと切れなら楽しく食べれる。
だがケーキバイキングとなると少し気が引けた。
変わって綱吉はケーキが好物で甘い物全般は主食にしても大丈夫だと自信を持って言えるくらいだ。
綱吉の意思を尊重するとなると、本日の予定は決定したも同然。
確実に、ケーキバイキングとなる。



「ケーキバイキングか……まぁツナが行きたいんなら俺は構わない」



他の2人をチラリと見てラルが囁けば、コロネロは小さく頷きスカルは小さく溜め息を漏らして了承の意を示した。



「い、いいの?」



遠慮している様に見せかけてその頭はもうケーキの事で埋まっている綱吉は、嬉しそうに微笑んだ。
これぞ恐怖の五人衆をも押し黙らせる殺人スマイル。
綱吉の十八番技であった。






「……おい、いつまで食うんだアイツ等」



しかして一時間後そんなラル達を襲ったのは、あまったるい何とも言えない空気である。
充満するドルチェの香り。
周りの客はほぼ女性で黄色い視線がこの上なくウザったい。



「このくらいでバテるなんてテメーらなっちゃいねーな。やっぱりツナの相手は俺しかいねーぞ」



何だか確信付いているリボーンは苦味を甘さに上乗せするように、エスプレッソを飲んでいる。
確かに3人は慣れない空気に当てられてグッタリしているものの、リボーンだって人の事を言えない。



「テメーだってケーキ1つで諦めたじゃねーかコラ」

「バイパー並にケーキ食ってから言わなきゃ説得力無いですよ先輩」



ちょい、とスカルが指をさしたその先。
まだまだ皿に乗っているケーキの数々。
絶対にホールを越している量に、リボーンは眉間に皺を寄せた。



「馬鹿かテメーら。よく考えて見ろ。無理してケーキで体調不良起こしたら格好がつかねーだろうが」



綱吉とバイパーの領域は、あのリボーンでさえも無理だ無茶だと思える程だ。
ほっくほくな二人の表情。
ケーキを食べ終えたかと思えばアイスに手を出し、アイスを食べ終えたかと思えばまたケーキに戻る。
何かストレスでも抱えているのかと疑いたくなる程だ。
あまり関わりたくない構造をした胃である。



「美味いか?ツナ」

「ぅんまい!!」

「そうか……良かったな」



学校ではそうそう見れない極上の笑みに若干引く者、悔しがりながら心の中で悶えている者、色々いるが誰も「はい、あーん!」といちゃいちゃらぶらぶと店の雰囲気顔負けの甘い雰囲気を放っている2人に突っ込む気力は無かった。


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