りく

□Fate in library.
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リボーンは軽い足取りで図書室へと向かう。
第一校舎の3階の奥にある、図書室。
人気がなく、いつもガラリとした陽当たりのいい図書室。
別に本を借りるわけでも、本を読みに行くわけでもない。


リボーンはクツリと喉を鳴らして小さく笑い、図書室の扉に手をかけた。
この扉の向こうには、彼がいるのだ。
ドジで間抜けで臆病で、図書室に住み着いた少年。
愛しい愛しい、リボーンの想い人。





出会いは、そう。
あれは運命的なものだったに違いない。
ドラマの様なロマンチックさは無いにしても、リボーンはそう信じている。

リボーンはその日偶々図書室に足を踏みいれていた。
今度の生徒会の会議で、使う資料があったのだ。
学校の大体の資料は、図書室の奥にある資料室に保管されている。
リボーンは慣れた手付きで資料を探し出し、さっそくそれを引き抜こうとすれば何やら触れる手があった。
重なった手と手に、互いに見つめ合う。

「あっ」と困った様に眉間に皺を寄せている貧相な少年に、リボーンも眉間に皺を寄せた。
最もリボーンの心情は「誰だコイツ」と中々に冷めたものではあったのだが。

数秒見つめ合った後で、リボーンが本を抜く。
すると少年は「うげっ」っと声を上げた。
瞬間。
ドサササササッ!と。
資料が滝のように落下した。
リボーンは無事だが、残念ながらその少年は資料で生き埋めになっている。
そしてその本の山の中から「だからそこは抜いちゃだめだってー」と弱々しい声が呑気に響いてきた。



「おい、大丈夫か?」

「ううぅっ……へーき」



資料に被っていた埃が舞い、少年はくしゅんくしゅんとクシャミを繰り返す。
とりあえずそんな間抜けな少年に加害者のリボーンは手を伸ばした。のだが、ポカンと口を開ききょとんとした表情を晒した少年に首を横に振られて断れてしまった。
人に手をさし伸ばすだなんて優しい行為は普段しないのに。
そもそもリボーンに手をさし伸べられた時点で、自ら立ち上がりお辞儀をして感謝の言葉を述べるのが普通というものだろう。



「……お前、名前は?」

「えっ……名前、」

「あんだろ、名前くらい」


そりゃあるけど、と呟く少年の頬に手を近付けてその頬を指でス、と撫でれば彼はびくりと大きく肩を揺らした。
不思議だ。
まるで磁石の様に引き寄せられる。
窓から漏れた淡い篭れ日に包まれて、本に埋もれた少年と目が合う。
澄んだコハクに、リボーンは息を飲む。
心臓を鷲掴みにされるというのは、こういうことなのだろうか。



「俺はリボーンだ」



思わず此方から名乗り、少年を促せば少年は目を泳がせてからリボーンをもう一度見た。
そしてゆっくりと息を吸い込み、甘く言葉を吐き出して行く。



「つな…よし、」



小さく呟かれた名前。
そうか、綱吉か。
リボーンは綱吉、と心の中に留めてさし述べた手で綱吉の腕を掴んで半ば無理矢理立ち上がらせた。

それが、綱吉との出会いだ。
今でも忘れない。
否、これからもずっとことある事に思い出すであろう、淡い午後の光と埃に包まれて困ったように眉を下げて呟く彼。
一目惚れでは無いと思う。
けれども、その時リボーンは思ったのだ。

嗚呼、俺様にはコイツしか居ない。と。


そして俺様何様生徒会長リボーン様の恋は始まることとなる。



「よー、ツナ。今日もいい日だな」

「今日曇りだよ」



そっけなく窓を指差しながら答える綱吉は、いわゆるサボり魔というヤツであった。
誰も来ない図書室までは足を運べるが、教室までは無理なのだそう。
不可抗力に与えられたサボりという決定事項に、教師もサジを投げたようだ。



「なんだ、つれねーな」



やれやれと肩を持ち上げる仕草をするリボーンに、綱吉は眉間に皺を寄せた。



「本日も麗しい生徒会長様は授業出なくていいんですか?」



ケッと吐き捨てる綱吉に、リボーンはクツリと笑う。
授業なんてツマラナイ。
リボーンにとってあんなものは、捨てても再利用できない塵のようなものだった。
しかし綱吉に生徒会長だと身分を知られてから何だか避けられているような気がするのだが、そこはリボーンだ。
自信だけは溢れんばかりにある。



「早弁はもうしねーのか?」

「出来ないんだよ!!どっかの誰かさんがデカデカと図書室の扉に『飲食禁止』だなんて貼り紙したから!」

「基本中の基本だぞ。ツナ、テメーは授業で算術習う前に一般教養を身に付けろ」

「リボーンには関係ないだろ!」



バンバンと机を叩いて、綱吉は悔しそうに唇を噛む。
そして「何でだ?」とケロリと呑気なリボーンに「赤の他人だからだよ!」と答えていた。
あの何様俺様生徒会長リボーン様にこんな粗雑な言葉遣いを使えるのは多分も何も綱吉だけだろう。
だが、かく言う綱吉もリボーンが生徒会長だなんてはじめは思ってもみなかった。

あの日は、偶々お腹が空いていたのだ。
そう。偶々。
だから本棚の陰に隠れて弁当を食べた。
それを、何処からか現れたリボーンに目撃されてしまった訳である。



『あ、のー……これは見なかった事に…』

『ツナ、俺が何者だか知ってるか?』

『さ、さぁ。生憎と授業も集会も受けてませんので』



あははは、と乾いた笑みを漏らした綱吉にリボーンはクツリと喉を鳴らして、大切なミートボールを1つつまみ食いしていっただけだった。
だが次の日綱吉がいつも通り図書室に向かうと、扉にデカデカとした一枚の貼り紙。



『飲食禁止by生徒会長リボーン』



生徒会長。
噂だけなら聞いたことがある。
顔良し、頭良し、運動神経良し。
引頭力もあって校長より権限を持つ男。
一番、自分の様な人間が関わってはいけない男。
最悪だ。
まさか、あの生徒会長だったとは。
綱吉は肩からズリ落ちた鞄を拾うことなく、そのまま貼り紙の前で数分固まってしまった。


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