りく

□Bird in my mind
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眠気を誘われる日溜まりの中、綱吉とマーモンは坂を上っていた。
綱吉はマフラーに顔を埋めてテクテクと歩き、マーモンは後ろから少し間を置き綱吉についていく。
ふわりと風が綱吉の髪を撫で、マーモンのコートをはためかせた。
そして地に落ちた枯れ葉が大きく宙を舞う。



『…また脱走?』

『いや……ちょっと行きたいところがあって』



マーモンが書類を届けに執務室へ足を踏み入れると、綱吉は窓から脱走を試みているところだった。
綱吉はマーモンの問いに、罰が悪そうに、そして困った様に微笑む。
何だかその時、彼が篭れ日の中に溶けていってしまいそうで、マーモンは気付けば彼の服の裾を掴んでいた。
綱吉は、少し驚いた様に目を丸くしてマーモンを見る。
元々、綱吉を部屋に縛り付けておくのは好きではない。
執務室は窮屈で、それでいて綱吉を押さえ込む。
マーモンは綱吉が脱走することを咎めない。
彼は、自由が似合うのだ。
部屋の中なんかではなくて、広い大空の下で笑っている方が似合う。
けれど、今日はこのまま逃がしたら帰って来ないような気がする。
ただ、なんとなく。
ただ、なんとなくなのだけれども。マーモンは何だか不安な気持ちに陥った。



『じゃあ、僕も行くよ』



服の裾をぎゅっと掴んで離さないマーモンの目は、フードで隠れているものの真剣だ。
綱吉も監視としてではなく本心からそう言っているのだと気付き、静かにマーモンへ微笑みを返した。



長く緩い上り坂を歩いているのは、その坂の終点に綱吉の行きたい場所があるからだという。
綱吉はふと足を止め振り返り、後ろにいるマーモンに手をさしのべた。
ふわりとした笑みは、いつもと一緒で淡い光を纏っている。
マーモンは一瞬躊躇ったものの、綱吉に小走りで近付きその手を取った。
綱吉の手は、意外と冷たく冷えている。
変わって、マーモンの手は暖かい。
何だかそこに大人と子供という壁が見えたようで、マーモンはへの字の口を少しだけきつく結んだ。
マーモンの僅かな反応に綱吉は首を傾げたが、マーモンが手を握り返してくれたという事実に満足してまた足を進め出す。
マーモンも、今度は綱吉の隣に並んで足を進めていった。



「デートだね」

「ム…そうなの?」

「うん」



えへへとマフラーから赤い鼻を覗かせて綱吉は笑い、マーモンと繋いでいる方の手をブラブラと揺らす。
吐く息は僅かに白い。
まさかデートと言われるなんて思ってもみなかったマーモンは、気恥ずかしくムズ痒い感じがしてそのまま黙っておいた。
沈黙は、気まずくない。
寧ろ心地好いとすら思える。
これはきっと大切なことで、ごくまれな事なのだ。
綱吉は不思議な人間。
灯りは蛾を引き寄せて、美しい蝶までをも引き寄せる。



「で、どこ行くのさ」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「言ってないよ」



ムゥ、と唸ったマーモンに、綱吉はごめんと軽く謝った。


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