りく

□Equality
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愛は常に平等でなければならない。
口にこそ出して言わないが、スカルは常々そう思っているわけで。
年齢差を意識したことがないと言えば大嘘になる。
なんせ恋人は一回りも年上。加えて子供の扱いにも慣れているので、いつだってスカルを子供扱いしていた。
それは恋人になった今でも変わらない事実。
スカルはそれをとても疎ましく思っているのだ。

綱吉からしてみればスカルこそ愛を捧げるべきだと思っているふしが強いのか、こちらもまた恋人という関係を鬱蒼とさせていた。


愛は平等。
こちらから注ぐ愛は上等。
綱吉とスカルは、現金なヤツだった。
目に見えて分かる愛が欲しい。
もっとチヤホヤして欲しい。
けれども、お互いがお互い今は自重している冷戦状態が続いている。

どうすれば。
どうしたらいい。



「押して駄目なら引いてみろ?」

「そうです!ツナさん、ツンデレで駄目ならツンツンですよ!これで攻めるが勝ちです!」



そんなある日の午後、綱吉はいらんアドバイスをハルから受けていた。
押して駄目なら引いてみろ。
これが望む答えに行き着く鍵になるかは分からないけれども、綱吉は大きく首を縦に振る。
綱吉は痺れを切らしていたのだ。
全くあの恋人ときたら人の気も知らないで、呑気なものである。
クールなのは十二分に分かったから、もう少し熱い所でも見せてくれないだろうか。
好きだと言われて、好きだと返して。そしてそれから時間が経って久しいこの頃。
彼が動かないのならば、自分が動くしかない。



「分かった!ハル、俺やるよ!頑張ってみる!」

「はひ!ツナさん、あとは気合いと忍耐力でどうにかなりますよ!ハルは、ずーっとツナさんの味方です!」

「ありがとう!」



楽天家な二人は、本日も抜けた会話に花を添えながら笑い合っている。
旗から見れば微笑ましく、小春日和の様なこの光景もスカルが知ったら何と言うか。
多分「余計な事をこの馬鹿に吹き込まないでくれ」とハルに注意をするのだ。
勿論「ただでさえキャパシティーが少ないのに、」と皮肉も忘れずに。





「で、ですねスカル様。そのドリゼラってー女にジャーノがフラれたってわけですよ」



打って変わって、ボンゴレ邸から遠く離れたカルカッサ邸。
何と無く暇を潰しにスカルがエントランスへ出てみれば、部下が馴れ馴れしく話掛けてきた。
普段は海の上、艦隊の中で過ごすスカルだが奇遇にも久しぶりに本邸に戻ってきていたのだ。
今回の仕事は少しだけややこしく、しかも長期だったので疲れてはいたが、どうでもいい部下の恋愛話にスカルは耳を傾けてやる。
コマはコマ、けれどもコマも生き物であり人間であるのだから仲良くしておいて損はない。
というかあの気弱で仕事熱心、女っ気の見られないジャーノに女がいたとは。
意外だ。



「やっぱり愛は与えるものなんですね。スカル様は勿論大丈夫かと思いますが」



ははは、と部下の内の1人がお世辞を言い、周りの部下が「違いない」とつられて笑う。
嫌味ではない。
ここにいる全員が全員、スカルに信頼を置き彼に付いてきているのだ。
辺りは和やかなムードに包まれた。



「そうだな。俺はそんなヘマはしない」



まさか与えても思い通りに愛が返って来ないとは言えない。
自分はアルコバレーノの、しかも策士だ。
それが一人のアホに振り回されていると知られてしまっては、たまったもんじゃないのである。

だが。
最近疑問に思う事があるのだ。
これは本当に根本的な事なのだけれども、その上あまり認めたくはないのだけれども。あの綱吉の事だ。
もしかしたら、こちらが捧げる愛に気付いていないのかもしれない。

愛は問答無用で平等でなければならないのだが。
このまま冷戦状態が続くのは頂けない。
というか冷戦とか。
はじめからグダグダしてないで、さっさと打破しなければならない問題だったのだ。
もう意地を張るのは止めて、真剣に考え直そうと思う。



「押しても駄目なら、もっと押すのが漢ってモンですよ」



部下の声が、スカルの心へダイレクトに届いてきた。
押して押して、突き落とすことが出来たのなら、綱吉も今度はちゃんと愛を返してくれるだろうか。



「スカル様、どちらへ行かれるんですか?」

「用事を思い出した。少し出てくる」

「ボスに報告しますか?」

「いや…、いい」



ボスに連絡されてしまったらもともこもない。
大体向かうのはスカルにとっては恋人の家だが、カルカッサにとって敵の陣地。
ややこしくなる事この上ない。

とりあえず後は部下に頼み、スカルはボンゴレ邸へと足を運ぶことに決めた。



『絶対にあの馬鹿から愛を貰ってやる』



まさか恋人が同じ闘志を燃やしているとも知らず、バイクに跨る。
というか思ってもみないだろう、普通。

今回はお互いタイミングが悪かった。
いい加減痺れを切らしたのが遅かったのだ。仕方ない。
それに加えて、恋人にだけは負けたくないという訳の分からない負けず嫌いの発揮が原因だろう。
しかも『愛の大きさ』勝負だ。

根本的に気付いていない辺り、2人の世界が狭すぎて何も見えていないようだった。

けれどもまぁ。
今回の件で唯一の救いと言えば、被害者が居ないことであろう。
当人達だけの舞台。
加害者が被害者で、被害者が加害者という喜劇。


この2人舞台の第二幕が始まろうとしている。
悲しい程にそれは、自己満足を基調とした脚本になっていたのだが、やはりこちらにも2人が気付く事はないだろう。
恋は盲目。

人間は時々、本当に上手い事を言う。


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