りく

□Not face love
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※一応綱吉が後天的に、にょたってます。
苦手な方は注意して下さいませ。













目の前には、可愛らしいパンプキン色をした箱が1つ。
ディーノからハロウィン限定のケーキだからと貰ったので当日まで、大事に大事にとって置いたのだけれど。



『ぱんぱかぱーん!おめでとうございます!貴方に神のご籠を!トリック・オア・トリート!』



まさか。
まさかこんなフェアリーが出てきて、いきなり魔法だか何だかをかけられるだなんて誰が予想するだろう。
リボーンが居たら『バカツナが!変な呪いとかだったらどうすんだ死ね!!』だとか怒鳴りとばされただろうけど、生憎今は居ない。
それに不可抗力だ。
箱を開けた瞬間に現れて瞬時に魔法だか何だかをかけて消えていったのだから。
その間まさに10秒。
10秒もあれば何らかの対処ができたに違いないけれど、まぁそれは無かったことに。



「…何だったんだ今の。あぁっ!!ケーキも入ってないし!!」



ディーノさぁあん!と。
ディーノにあたっても何にもならないのだが、そこで気付くものがある。
何だか胸が少しだけ重いのだ。
嫌な予感がする。
いや、本当に。


綱吉は上着を脱ぎ、ラフな格好になった。
部屋には誰もおらず、綱吉一人だけ。
綱吉はすぅ、と息を大きく吸い込み、よしっと意気込む。
そして意を決してバッと襟を前に引っ張って空間をつくり、上から一気にうつ向いて胸を見た。



「……えぇぇぇ」



最悪だ。
何が神のご籠か。
酷い。

綱吉が本気でディーノを恨み始めたその時、ふわりと風も無いのにカーテンが揺らいだ。

タイミングが悪すぎる。
何も今じゃなくてもいいのに。



「……何だその顔は」



これが本日スカルの綱吉の部屋に入ってからの開口一番の言葉だ。
そりゃそうだろう。
スカルが入って来た瞬間の綱吉の表情は、ある意味素晴らしく分かりやすいものだった。
言葉にするのなら「うげっ」というところだろうか。



「な、なななな何でもないです」

「ふうん」



スカルは目に見えて慌てる綱吉にツカツカと近付いて行く。
そして目の前に来て、綱吉の顎を思いっきり掴んで自分の方に向かせた。
グギっと嫌な音がなったが、まぁ大丈夫だろう。



「何でもないんなら目を反らすな」

「だってスカル心臓に悪いから…」

「どういう意味だ」



ゲシッと足を蹴られて痛がる綱吉に、スカルは首を傾げた。

おかしい。
いや、態度などは普段と変わらず馬鹿のままなのだが。
何かが変わっている。
スカルはとりあえず気付いた事を綱吉に尋ねてみた。



「アンタ、太ったか?」

「でぇえええ!?いきなり失礼すぎんだろお前!!」



デリカシーの無い発言に、綱吉は最低!と叫んでスカルを非難した。
元々綱吉に対してデリカシーなんて持ち合わせていなかったスカルだが、せめてもうちょっと優しい言葉とか欲しいものだ。
仮にも恋人なのだし。

一方、スカルはスカルで眉間に皺を寄せて何やら考えている。
確かに、蹴りを入れた時に柔らかな弾力を感じたのだ。
綱吉の足は細く、そして骨に当たるので少々固い。
それなのに、何故。

じぃと自分を観察するスカルに気付いた綱吉は、ギクリと肩を僅かに震わせた。
ヤバい。
今の自分は変な魔法だか何だかのせいで完全に女だ。
まだ上しか確認していないのだが、この様子だと下もどうにかなっているのだろう。
そう考えれば、スカルの言った事はあながち間違いではなくなる。
痩せてはいるが、女性特有のふくよかさと云うものが出てきていてもおかしくない。



「な、何だよそんなにジロジロと…!照れるじゃんか!」



誤魔化しを発動してから胸の前に腕を組んで、自然に胸を隠す。
するとスカルの方眉が上がった。



「アンタ、何か俺に隠しているな?」

「まさか!何を隠すものがあるというのか!」

「…きょどりすぎだ。喋り方変になってるぞ」



やれやれとスカルは溜め息を吐き、綱吉を引き寄せ抱き締める。
そして抱き締めてから、更におかしい事に気付く。
まず背が縮んでいる。背は確かにスカルより低かったが、ここまで小さくは無かったはず。
丁度スカルの顎の辺りに頭があったのだが、今の綱吉は肩くらいしかない。
次に華奢になりすぎているということだ。
やはりそこは腐っても男性なので一応女性よりはあったのだが、今の綱吉は正に女性のそれらしくなっている。

スカルは綱吉の背に回していた手を腰までゆっくり移動させ、そこで漸く気付いた。
嗚呼、成程。
認めたくはないが、現実に綱吉がこうも変異しているのだから認めなければならないらしい。
全く何故この恋人は毎度毎度よくも飽きずにトラブルを巻き起こしてくれるのだろうか。
あまりの馬鹿らしさに、スカルは大きく息を吐いた。
綱吉は腕の中でおとなしいままだ。
急にテンションが下がったところを見ると、どうやら降参のようである。
いつもながらに降参が早い。



「アンタから自己申告してくれ。俺はまだ認めたくない…」

「俺だって認めたくねーよ!!それに、好きでなったわけじゃっ…!」

「綱吉、」



頭上から響いてくる声が、呆れの色を含んでいるのが分かる。
彼がこういう声色で話す時は完全に自分をガキ扱いしている時であった。
それに気付き、綱吉は押し黙る。
だってガキじゃない。



「俺…女になっちゃったんだけれども」

「あぁ」

「どうかな?」



一つ頷いた恋人に、綱吉は少しだけ期待の色を込めて聞いてみる。
チラリと上目使いなんかもしてみたのだが。



「別に中身は変わってないからな。どうもこうも…とりあえずそうなった経緯を話してくれ」



酷い。
恋人が劇的ビフォーアフター並の変化を遂げたというのに、どうもこうもと言われた。
そこは「可愛らしい」だのなんだのと仰って欲しかったのに。
目の前でシャッターを思いきり閉められた気分だ。

でも分かっている。
スカルはそんな甘い事を言うタイプじゃないのだ。
寧ろ甘い事をホザかれたら鳥肌が立っちゃうタイプなのである。
綱吉は「つれないぜ…」と若干ショボンとうなだれながら、とりあえずソファーに座って経緯を話しだした。
しかし経緯と言っても自分の分かる限りの事だ。



スカルに話をすれば案の定『バカかアンタは!変な呪いか何かだったらどうする!!!』と怒声が飛んできたので、綱吉は泣きたくなったが我慢した。
年下には怒られ慣れている。我ながら嫌な慣れだ。

しかし折角の恋人との時間に、重い空気に浸っていられる程綱吉はアホではなかったので、早速会話をポジティブな方向へ持っていく。



「でもお前、前から俺の事女だったら絶対に貧乳だとか言ってたけど見事に外れたよね」



えへん、と重量の増した胸を反って得意気な顔をすれば、スカルは「はぁ?」といった表情で綱吉を見た。



「…いや、貧乳だろ」



どこをどう取っても。

ケロリとそう言い放つ彼がなんというかもう。
ムカついた綱吉はヤケになり、自分からスカルの手を取って無理矢理胸に押し当ててみた。
が、しかし。
微妙な顔をされただけだった。
え、何それ。何その反応。
カップルなんですけど。
一応恋人同士なんですけど。


むぅと涙目になってへこんだ綱吉に、スカルはどうしたものかと考える。
別に胸のデカさどうこうはどうでも良いのだ。
大切なのは内面。
性別云々をいちいち気にしていては底がない。
確かに綱吉が女になったことは嬉しいが、綱吉は綱吉だ。
だからどうしたという感じである。
変わって綱吉は、やはり構って欲しかった。
だって念願なのだ。
性別を気にしていなかったと言ったら嘘になる。



「絶対に貧乳じゃないし…」

「あのなぁ、」

「ちょっと測ってもらいに行ってくる」

「はぁ?」

「行きつけのカフェの近くに、ランジェリーショップがあるんだ。生憎女だし…行って測ってもらってくる。貧乳じゃないから」



しつこい。
加えて頑固だ。
スカルは頭を抱えたくなった。
こうなってしまったら手遅れなのである。
綱吉は早速脱いだ上着をはおい、更に護身用に手袋を持った。
行く気満々だ。
いいのかボンゴレ。
ボスが逃げようとしているのだけれども。



「大丈夫だよ。スカルといる間は絶対に入ってくるなって命令してあるし」



それもどうなのか。
恋人と言っても敵であることには代わりないのに。
そう思うスカルだが、彼は知らない。
無意識の内にイチャついている事によって、ボンゴレ内部では彼に対する信頼度が上がっているのだ。
やはり守護者はいい顔をしていないものの、かいがいしく綱吉の世話を焼くスカルの姿は部下の目には尊敬の念に値すると見受けられた。
というか、結局は我等がボスが幸せそうなら何でも良いらしい。


そしてスカルは重い腰をあげ、綱吉について行く。
短気ではあるが、忍耐力も持ち合わせている。
そうでもなければ、自由奔放の綱吉に付き合ってはいられない。
けれどもこれは綱吉が本当に心を開いた証拠なのだ。
とても貴重な特権を、無駄にする気は毛頭ない。


ボンゴレ邸の裏に置いたバイクに綱吉をのせ、街まで走る。
どうせ街はボンゴレの支配下だ。
命を狙われる可能性が無い訳ではないが、相手も無闇に動けないだろう。

にしても街に出る理由が馬鹿馬鹿しい。
けれどもこれがこの馬鹿の可愛らしい所だ。
最近はデートらしいデートもしていなかった。
僅かに感じとれる綱吉の子供らしい愛に、スカルはクスリと思わず口元を緩ませた。


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