りく

□Frenzy and Getting up
1ページ/2ページ




ひたり、ひたり。

最近夢をみる。



いつも、決まって同じ夢だ。
何もない真っ白な情景を、目的地にたどり着くまで歩いている。
きちんと、歩いているのに。
ひたりひたりと、後ろから陰がついてくる音しか聞こえない。
この白すぎる世界では、陰の生命の方が強いみたいだ。
陰は幼い子供の様に、ついてくる。
ひたりひたりと。
それだけなのに、やたら愉快そうに感じられるのは何故だろう。

そして更に進んで行くと、真っ白な森に出る。
次第に陰は増えてきて、時折木にとまっていた梟が目でそれを追う。
ひたりひたりという音が4分音符から1分音符に変わる頃、ようやく目的地へとたどり着くのだ。


自分が足を止めれば、陰の足音も止まる。

そこは、甘く芳しい真っ白な花畑。



丁度、花畑の中央に人が倒れている。
よく知りすぎる程に、知っている人だ。
愛する人。
自分は、彼に会う為に此処へきた。
でも大丈夫。
彼は寝ているだけだ。












『     』







おきて、と。
最初は優しく、彼に囁く。
けれども声は言葉になることはなく、自分の肺にとどまったままだ。









『    』









ねぇ、おきて。
次は、普通に語りかける程の強さで。

でも。
残念、まだまだ声は形を成さないまま。









『    』








おきて!
そして怒りを少し含んだ音色で試みた。


起きない。
だから幼児の様に口を尖らせ、しゃがんで彼を揺する。
奇妙なことに、陰は恐ろしい程に静かだ。



揺らして、揺らして。
叩いて、キスして。
首筋を、噛んで、舐めて、吸い付いた。

それでも尚目覚めない彼に、流石に痺がきれてしまう。
忌々しそうに吐息を吐けば、ひたりひたりと陰が音をまた立てだした。
ナンダヨ、と後ろに引っ付いていた陰を見ると、それは次第に剣の形へと姿を変えて行く。




嗚呼、そうか。
これで。




これで起こせばいいのだ。




陰を手に取り、切っ先を彼の胸へとかざす。
丁度、心臓の真上だ。













『    』












はやくおきて。
おねぼうさん。






クスクスと。
響いた音色は、陰が出したものか、風が草を揺らしたものか。
はたまた自分から出た声なのかは定かではないけれど。



















夢はそこでいつも覚める。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ