りく

□Chase the rabbit
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その日は雨というよりは豪雨と呼ぶにふさわしい日だった。
ザァザァと容赦なく地面に叩き付ける雨には、さすがの子供達も溜め息を溢す。



「つまんねーぞコラ」

「天気予報が外れましたね」

「午後から晴れると言ってたんだがな」

「ム。酷くなってるじゃないか」

「ったく。おいダメツナ、さっさと仕事終わらせて早くテメーで遊ばせろ」



なんとなく集まってしまった子供達は、ぶぅぶぅ時折文句を垂らしながら窓の外と部屋の主を交互に伺っている。
ボンゴレ10代目はそんな子供達を眺めて小さく困った様に微笑んだ。
今日は随分おとなしく待っていてくれた。
ここらへんで仕事を切り上げるとしよう。



「遊ばせろって…遊ぶのは構わないけど、何すんの?」



外は論外だ。
だって雨だし。
さすがの子供達もそれは勘弁だったようで、室内でやれるような遊戯を考えていた。
綱吉も思い付いたものを次々とあげていく。



「トランプは?」

「スカルに有利じゃないか。やだよ」

「しちならべ」

「つまらん。しかもそれトランプだろうが」

「んじゃ、お絵描き」

「アンタ一人でやってろ」

「…かくれんぼ」

「それこそバイパーの得意分野じゃねーかコラ」



我儘な子供達は負け戦を好まない。
そもそもプライドが高いし、同胞に負けるとなると、尚更に。



「えー…おにごっこ?」



やりたくねぇなー、などと考えながらも綱吉は心に思った遊戯を言葉に乗せれば、子供達の瞳がキラリと輝いた。
思わずぐ、と息を飲む。



「それだダメツナ!」



そしてリボーンがニヤリと笑って本日の遊戯は決定したのだ。






「まずルール決めな」

「いらねぇだろンなもん」

「いるよ!まず必要だろう!」



特にお前達には、と釘をさし綱吉はコホンと咳をひとつ。
ソファーに座るでもなく、床にあぐらをかいている綱吉の回りを囲む様に子供達が座っている。
ルールかよと若干不機嫌そうだが、綱吉と遊べる事実の方が嬉しかったのだろうか、素直に綱吉の話に耳を傾けていた。



「まず能力使用禁止ね。特にマーモン」

「浮くのは?僕足遅いから不利なんだけど」

「浮くのは…まぁ一定の速度なら構わないよ。あ、あと武器使用禁止!絶対禁止!特にコロネロとリボーンとラルな」

「スカルだけズルいぞコラ」

「だってスカルはそんな害ないもん」



撃たないし、念写しないし。
そう言う綱吉にスカルは小さく頷く。
とたん、他の4人からの視線が刺々しいものに変わったが綱吉は気付かない。
否、綱吉だけ気付かない。



「テメーそんな事言ってるといつか暗殺されるぞ」

「えー?そう?」

「アンタ最近緊張感なさすぎだろう。今に見てろよ」



そう眉間に皺を寄せたスカルも「そういえば暗殺しにきてるんだった」程度のノリだったりするのだが、まぁそこは綱吉のせいにすることで完全カバーだ。
というかリボーン達の目の前で綱吉を手にかけようものなら、返り討ちだけでは済まないだろう。



「範囲は?」

「ボンゴレの屋敷内でいいだろ」

「隠れる時に入り組んだ場所はナシだぞ。一応パシリとコロネロは部外者だからな」

「先輩、暴力はナシの方向性で」

「俺もそれ賛成!」

「ハン、軟弱ヤローだなコラ」

「スカルはともかく綱吉は大人としてもっと威厳を持ちなよ。ボスでしょ?一応」

「うん、一応」



一応なのか。
一応でいいのか。

そんな疑問は当の昔に塵と化したので皆気にしない。



「鬼を決めよう」



綱吉の裾を引っ張って、ラルが主張する。
そんな彼女に綱吉はニコニコと笑って応える。

そしてその笑みを見て、子供達は鼻を鳴らす。
これは彼等特有の照れ隠しだ。

例え雨が土砂降りで、太陽が隠れていても構わない。
子供達の太陽は綱吉であり、それ以外にはありえないのである。



「鬼決めジャンケンね。はい、じゃーんけーん…」



ぽい!



と、出されたのはパーが5つにグーが1つ。



「あぁぁぁ…」



握り締めた拳を見て、綱吉は肩を落とした。



「ったく、いつも通りだなテメーは」

「うぐっ」

「もうジャンケンしない方がいいんじゃないの?」

「うぎっ」



グサグサと子供達の言葉が綱吉の心に突き刺さる。



「う、うるさいな!いいんだよ!俺が負けなきゃお前らずっとアイコだっただろ!?」



一度だけ。
過去に一度だけ皆でジャンケンをした時がある。
その時は綱吉を抜きにして(何故ならオヤツの時の綱吉の隣の席をかけたジャンケンだったから)やったのだが、比喩でなく本当に日が暮れてしまった。
アイコアイコアイコ、ひとつ休んでこれまたアイコとくりゃあもう奇跡もへったくれもない。



「お前らマジで『一般の子供』のスタンスで挑めよ」

「残念だが一般のガキの足の速さが分からないな」

「えー、と。俺がお前らの年だった時は50メートル走じゅう…」

「ダメツナの体力測定基準にしてもしょーがねーだろ」

「聞けよ!!!まぁ…しょうもないのは確かだけど。でもお手柔らかにして?」

「「「「「ヤダ」」」」」

「ケチィ!!!」



ぶすぅ!と頬を膨らませた子供の様な大人に、子供達はやれやれと各々溜め息を吐いた。



「ケチじゃない」

「じゃあ30秒間、ツナヨシはちゃんと目を閉じてるんだよ」

「アンタ絶対に開けるなよ」

「開けたら殺すぞコラ」

「だから武器と暴力は無しだっつってんだろ!」

「るせぇダメツナ、さっさと目を閉じやがれ」



ゲシリとひとつ蹴りが来て、綱吉は渋々と瞳をつむる。
するとその場から5つの気配が瞬時に消えた。
全く、あの子供達は『普通』だとか『一般』だとか、そういった意味をわきまえていないところが難点だ。まぁそこがまた彼等らしいというか愛らしいというか何というか。

綱吉はクスリと笑ってカウントダウンを始めた。


彼の声が空気に浸透してゆく。

そして外では、楽しそうに笑い声を漏らせない子供達の代わりに、雨音がキャタキャタと子供の笑い声に似た音を鳴らしていた。


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