記念

□貴方からどうぞ
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ボンゴレ高校は荒れに荒れている。
派閥争いだとかは毎日だし、馬鹿みたいな抗争は数えるだけ無駄。
全く、血の気が多いというかなんというか。
爽やかとは無縁。
綱吉は自分の席に座り、きったない教室とむさ苦しい不良を見渡してからため息を吐いた。
後ろの掲示板には、女性の裸の写真やエロ本の切り抜きなどが意味もなく貼ってある。
男子校だからといえども、如何せん自由過ぎだ。
共学のアルコバレーノ高校が羨ましい。
壁には創作四字熟語と書いている本人は本当に意味が分かっているのか微妙なラインの英単語、落書き諸々がスプレーや油性マジックで施されていた。




「コロネロとは大違いだぁ……!」



本当に、天と地の差。
醜い。
あんな好青年を見てしまった後では、さらに酷さが浮き彫りに。



「誰と大違いなんだ?」



上から降ってくる声に顔を上げれば、リボーンが立っていた。
ボンゴレ高校は学ランが基本だ。
リボーンも例外に漏れず、きちんと制服を着用している。
軽く着崩してはいるが、似合う。



「コロネロだよ、コ・ロ・ネ・ロ!お前にあんな爽やかな友達が居たとは驚きだね。何で今まで紹介してくれなかったのさ」



ぶーぶーと唇を尖らせ文句を垂れる綱吉に眉を上げたリボーンは、そのまま後ろの席に着席した。
リボーンの前の席は綱吉だ。



「じゃあ聞くが。逆に何でテメーはあのネイビー馬鹿を知ってんだ?」

「ちょ、ネイビー馬鹿って……」



呆れた、と綱吉がリボーンに向き直り、実はカクカクジカジカで……と話し出す。



「ザンザスと喧嘩してその後拾われたとかとんだお笑い草だな。大体テメーは一人で男の家に入り込むんじゃねぇ。コロネロだから良かったものの……」

「あーあ、俺もこんなクソみたいな学校じゃなくてアルコバレーノ校に入れば良かったなぁ」

「やめとけ。テメーは俺と性質が似てんだ。合う訳がねー。でもって頭が弱いダメツナだからな」

「まー確かに熱血青春タイプではないよな。爽やかさにも欠けるし」

「ちげぇよ、やる気の問題だ。俺には爽やかさもあるし熱血ではないが青春という言葉が似合う。そこは一緒にすんじゃねーぞ」

「はいはいはいはい」



面倒くさいと顔に出しながらリボーンをテキトーにあしらう綱吉は、もう一度ため息を吐く。
金色の髪に、宝石のような瞳。
美しいものは好きだ。
でも、あれほど純粋なものは見たことがない。
単純に気になってしまう。
家に帰ってからも、ずーっと。



「ダメツナ、アルコバレーノとはあまり関わんじゃねーぞ」

「何で?」

「めんどくせーからな。俺が」



お前がか。
ならいい。
綱吉はバッサリと切り捨てて、ケータイを取り出した。
昨日赤外線で送って貰ったコロネロのアドレス。
電話がいいだろうか。
それとも最初はやはりメールから?
悩む。



「フン、情けねーなぁ」



後ろでリボーンが何やら仰っていたが気にしない。
とりあえずメールを送ろう。
思うが早いか、手は動きコロネロにメールを送っていた。
返って来るだろうか。
メールの返信。
綱吉はパチンと音を立てて携帯を閉じ、鞄の中に放り投げると机に突っ伏して寝だした。
学校に来る理由なんてのは義務教育者だからに過ぎない。
勉強なんて、ボンゴレ高校にはとてもじゃないけど馴染めない。
ワイワイ煩い不良共に分かるよう、綱吉は右手を上げてパチンと指を鳴らす。
瞬間、静まり返る教室。
リボーンはやれやれと片眉を上げてため息を吐き、銃の手入れを始めた。
この学校の王者は、ザンザスでも雲雀でも骸でもない。
勿論、リボーンでも。



「アイツも厄介な奴を釣り上げたモンだぞ」



―――沢田綱吉。
喧嘩のスタイルは基本素手でのタイマンだ。
ザンザスの弟であり、リボーンが唯一認めた男。
王者らしからぬ王者。
そして、ボンゴレ高等学校の影の支配者(というと本人はとっても嫌がる)である。











「コロネロ先輩が携帯を一々見てるぞ。どうなってるんだ?」

「さあな。女が出来た様子は皆無、抜け駆けして派遣に手を出すでも無し。気持ち悪いぜ」



クラスルームの後ろからスカルとラルが席について携帯を弄っているコロネロを眺めていた。
普段なら、絶対に有り得ない。
携帯が無ければ生きられない現代病を患うような人間ではないのだ、コロネロは。
ましてや、女にウツツを抜かす野暮もしない。
派遣により実戦を得て経験値をあげようにもテストが待ち構えている。
だったら、何故携帯何かを弄っているのか。



「ま、本人に聞いた方が早いだろ。アイツは嘘が吐けない性格だからな」



ニヤリとラルがタチの悪い笑みを浮かべ、その後ろでスカルがため息を吐いていた。
まあ、でも。
気にならない訳でもないので、スカルはとりあえず自分も便乗しておこうと既にコロネロに向かって歩みだしたラルの後ろを追う。



「何やってんだ?コロネロ」

「うおぉっ?!!」



パシン、と軽快な音がして見ればコロネロの携帯はラルの手に収まっている。
流石は技術面で首席を誇っているラル・ミルチだ。
ちなみに頭脳面での首席はスカルだが。
コロネロも僅差に位置しているので、ラル・ミルチが抜かれるのも時間の問題だろう。
しかし珍しく腑抜けていたコロネロは簡単に携帯を盗られてしまった。
情けない。



「テメッ!何すんだコラ!!!」

「酷い焦り様だな。そんなに大事なメールなのか?」

「ふざけんなラル!!」

「ハッ、腑抜け面晒してたお前が悪いぜ」



今にも噛みつきそうなコロネロの顔は赤い。
ということは恋愛関係か。
面白い。
ラルはさてどんな人間がコロネロの意中の人間かと、勝手にメールのフォルダを開けた。



「ツナ?何だ、この猫みたいな名前は」

「知るかコラ!あだ名だあだ名!!」

「先輩も隅に置けないですね。爽やか純粋な青年は何処にいったんですか?」

「テメェパシりは黙ってろ!」



コロネロが拳を振り上げてスカルにぶつけている間にラルは何やら勝手に携帯を弄くっている。
ポチリポチリとやってから少々時間が経てば、相手から返信が返ってきた。



「良かったな、コロネロ。今日の帰り、我が高校に『ツナ』が態々来てくれるそうだ」

「はぁ!?」



ポーイと投げられた携帯をキャッチすれば、『じゃあ17時に校門前に』とだけ記されてある。
つまり綱吉が17時にこのアルコバレーノ高校に来るという事だ。
それは不味い。
相手はあのボンゴレ高校に在籍している人間。
非常に不味かった。



「約束を直ぐに取り消すのはやめておいた方がいいぜ」



フハハハハ!と勝ち誇った笑いを高らかに響かせてラルは自分の席へと戻って行った。
最悪だ。
コロネロは憐れみの視線を向けてくるスカルを蹴り飛ばして、大きく肩を落とした。





3人が揃って異変を感じたのは、揃って教室の掃除をしている時であった。
校庭の方がなにやら騒がしい。
血の気は多いが、ドコゾの馬鹿高とは違いケジメのある奴らが多いのでハシャギ過ぎるという事がないのが基本だというのに。
コロネロは人生で初めてその時脂汗をかいた。
そうだった。
アイツは台風の目だったのだ。
何も起こらない訳がない。
コロネロは白旗を上げて、元気に喧嘩に精を出しているその人間を眺める。
その人間は、砂ぼこりを上げて襲いかかってくる敵の攻撃をかわしていた。
気が向いたら拳を繰り出すという、何とも微妙な喧嘩だ。



「ボンゴレの奴が一人でアルコバレーノに乗り込んで来るなんて。とんだ野心家ですね」

「誰だアイツを呼び出した奴は」

「テメェだコラ」

「ああ?」

「あれがツナだぜ」

「「はぁ!!?」」



コロネロに向けていた視線を瞬時に綱吉に変えてラルとスカルは目を見開いた。
アレがコロネロの意中の相手か。
ああ、でも、まあ。
分からないでもない。
強いものに惹かれるのは仕方のない事だ。



「コロネロー!!か、え、ろー!」



コロネロに気づいてニッコリ笑った綱吉は、大きく手を振っている。
傷一つ、否、汗・顔色一つ変えずに。



「おう!おとなしく待ってろコラ!」

「おとなしく?無理……」



言っている間にも、綱吉は殴りかかってくるアルコバレーノの生徒に回し蹴りを食らわしている。
鞄を手に取り箒をほっぽりだして弾けるように駆け出したコロネロに、ラルとスカルは眉を潜めた。
随分あのボンゴレの生徒にお熱な様だ。



「次のテストは赤点だな、アイツは」

「にしても男とは……。流石コロネロ先輩、壁なんか気にしないんだな」



チラリとボンゴレの生徒を伺えば、目があって微笑まれた。
何となくだが、分かる。
アレは小さくてガキではあるけれども油断は出来ない。



「まあボンゴレに陣取っているヴァリアーの隊員とかじゃないだけマシ、か」

「ああ、そうだな」



スカルの独り言にラルも頷き、二人は掃除の後片付けを始めた。
しかしその『ツナ』がまさかヴァリアーを仕切っているザンザスの弟とは。
容姿含めて、二人が気付く訳がなかった。






「ツナ!」

「やっほーコロネロ」



コロネロが駆け付けた時には、既に上級生を含めた大人数がやられていた訳だが、気にしない。
コロネロのテンションは上がっていた。
強い人間は好きだ。
綱吉は、予想を超えて遥かに強かった。



「案外すげぇな、お前」

「そ?じゃあ、帰ろっか」



へらりと笑った綱吉の頭を、コロネロの大きな手が撫でる。
安心感に似た何かが心を満たしていくのを綱吉は感じた。
頭を撫でるという行為は、実は綱吉にとってご法度に値する行為であった。
大体彼が頭を撫でられる時というのは、チビだとか完全に馬鹿にされ、子供扱いされた時だ。
主にザンザスやスクアーロ、リボーンなんかにやられるので怒りも倍増というものである。
だが、コロネロのそれは素直に褒めてくれているようなので悪い気はしなかった。



((これは、恋、なのか?))



二人は各々疑問を浮かべ、しかし顔には出さずに足を進めた。



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