Please,forgive me.

□nove
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「―――…これで良いのかね?」
「ああ。助かった」
「ふー…やっと終わった」


――ルイゼッラ・ファミリーのアジト。
そのドン・ルイゼッラことロウの執務室にて。
ダグサスは最後の書類にサインをし終え革張りのソファに深々と凭れ掛かる。
その様子を見ながらも、ソルはその書類をまとめロウは更に彼女の手渡したものに判を押す。
一連の作業に根を上げた先代のドン・ルイゼッラに、労いの言葉をその息子であるロウが掛けた。


「すまないな、長いごと」
「やれやれ、この歳になると長時間の作業も辛くなるよ」
「仕方ないだろ。まだ片付けてない委任手続きがあったんだから」


手厳しい言葉を投げ掛けながらも親子2人にコーヒーと茶請けを出すソル。
面倒な手続きに付き合ってくれたのだからという彼女なりの気遣いだったのだろう。
素直ではない銀髪の少女の性格を知るロウもダグサスも、それにとやかく言う事もせず心中で礼を言った。


「…ああ、そういえば、」
「……?」


大人しくコーヒーを啜っていたダグサスが突然口を開く。
書類の後処理をしていたロウとソルが何事かと彼を見遣る。
懐中時計を見つめ、全く慌てる様な口調ではないが彼は小さくしまった、と呟く。


「今日、客人が来る予定だったのをすっかり忘れていた」
「は…」
「…何でそれを早く言わないんだ、親父、」
「いやぁ、私もそろそろ歳だからな」
「馬鹿野郎、そんな大事な事忘れるくらいなら引退しろ」


呆れた様に溜息を吐くロウの横で、ソルは凄みを効かせた視線でダグサスを射抜く。


「何時に来るんだ? 迎える準備をしないと失礼だろう」
「いやいや、それは必要ない。私の親しい友人だからね」
「誰なんだ、」


到底彼が意に介さない事は2人共分かってはいたものの、更に詰問するが如くに質問を繰り返す。
冷静に対処しようとするロウを傍に、彼の父はその思いを無下にする。
苛々がピークに達しそうであるソルが食い下がるが、あくまでダグサスは笑ったままだった。

不意に、部屋の向こうから鈍く大きな音が聞こえる。
何か重い物を落としたかの様な物音に、ロウとソルは扉の方を振り返る。
しかしダグサスは未だ2人の視線の先を背にして微笑を浮かべていた。

それに顔を見合わせる彼等を余所に、今度はバタバタとした足音が近付いて来た。
いよいよもって様子がおかしいと思った時には既に遅く、ダグサスが口元を更に綻ばせる。
一際けたたましい音と共に、執務室の扉が壊さんがばかりに開かれた。


バァ―――ン!


「……!」
「な…」
「おぉ、久し振りだな。ケイス」
「よぉ、ダグサス! 元気してたか!?」


扉を足蹴にして現れた人物に目を見開くロウとソル。
彼等が凝視する男は何ともなしとして片手を上げてダグサスと挨拶する。
その人懐っこそうな笑顔を零す男の名前をソルが呼ぶのと、男が彼女に気が付いたのはほぼ同時であった。


「ケイス…!」
「おぉ、ソルー!」
「…な、なぁ!?」


パッと表情をまた明るくさせて男が駆けて来る。
途中両手に持っていた大きな鞄やら紙袋やらを床に転がしても彼は気にもしない。
そのまま真っ直ぐにソルの眼前まで足を運び彼女に抱き着くその男に、ロウは思わず声を上げた。

相変わらず、ダグサスはその様子をただただ見守っていた。










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