Please,forgive me.
□otto
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「───ソル姉!!」
ルイゼッラのアジト。
朝日の射し始めた静かな門前に、少女の叫ぶ様な声が木霊した。
立派な門の前に集まった者達がその声に一斉に振り向く。
そしていち早くソルの姿を見つけたソーニャが、一目散に駆け出していた。
「………ソーニャ…」
「ソル姉…! ふぇっ…良かった……っ本当に……良かったぁ…っ!」
わ、っと泣きながら抱き付いてきたソーニャを、ソルは腕をまわしてそっと抱き返した。
先程浴びた大量の返り血は、時間が経ち乾燥して極端にソーニャを汚す事はなかった。
先程ロウがソルを気遣って肩に掛けてやった黒いジャケットは、妹を受け止めた衝撃に肩から少しずれた。
まさか自身が帰って来るとは思っていなかっただろうに。
もう2度と離れまいと言いたげに、ソーニャはソルから離れようとしなかった。
それをソルは愛しげに、そして申し訳無さそうに見つめていた。
「ソーニャ…」
「ソル姉ッ……っ、ソル姉ぇ…!」
「悪かったな」
ゆっくりと手袋を取り去った手でソーニャの背中を優しく叩く。
しゃくりを上げる彼女の呼吸を楽にして上げようとソルが試みていると、もう一人近付いて来るのが目の端で分かった。
数時間前に話してそれきりだった、エイミー。
髪を下ろしラフな格好で迎えてくれた親友に、ソルは小さく微笑を浮かべた。
それは、苦笑とも自嘲ともとれる表情で。
「…エイミー……」
「……」
「悪りぃ……やっぱり…俺───…」
「ソル、」
ソルが眉尻を下げて言い難そうに口を開く。
それをエイミーは言わずもがなと遮ると、じっと彼女を注視した。
「分かっているわ」
「…………」
「私は大丈夫よ。だって貴女が、私に新しい家族を与えてくれたんだから」
ふわりと笑顔を浮かべたエイミーを、ソルはとても美しいと思った。
今までに見た事の無いくらいに、彼女は穏やかな眼差しをしていて。
これが幸せという事なんだと、ソルはそのエメラルドの瞳からそう悟った。
不意に腹部以外からも柔らかい圧迫感を感じる。
左肩に何かが触れる感触に振り返れば、黄水晶の双眸と目が合った。
ロウの掌に触れられた部位から、じんわりと温かくなる様な錯覚に頬に熱が集まる。
優しく向けられた彼の視線から逃れる様に前を向く。
するといつの間にか近くに接近していた幹部達に僅かに驚いた。
マリーリュカ、カーフ、それにダグサス。
恐らく仕事を抜け出てまで出迎えてくれたであろう彼等にソルは当惑する。
もう2度戻って来ないと決めた矢先の出迎えだ。
もっと責め立てても良い筈なのに、彼等は一向に微笑んだまま。
「───おかえりなさい、ソル」
エイミーが潤んだ瞳を湛えながら告げる。
それを聞いた途端に、ソルは目を見開いて彼女を凝視した。
ごく自然に紡がれた言葉に、戸惑ったからだった。
そして危険分子と化してしまった自分に、未だ変わらない視線を送る皆が嬉しかった。
ロウやソーニャ、皆の顔を一人ずつ確認する。
優しく目を細めるその表情にソルは酷く安堵していた。
自分はもう必要は無い、と。
そう信じようとソルは必死だった。
それを今大切な者達に否定されているかの様で、嬉しかったのだ。
まるで帰りを待っていてくれたかの様な態度に。
当たり前の様なその言葉に。
ソルの居場所は元から此処であったと言う様で。
突然頬を伝って落ちた涙にソル自身困惑していた。
嬉しい筈なのに、笑っても良い筈なのにそれさえも混乱していて出来ない。
思わず俯いて涙を止めようとするソル。
それでも一度堰を切ったものは容易に止められる筈もなく。
震える声に情け無く思いながらも、何とか一言喉から搾り出した。
「───…ただいま、」
otto