Please,forgive me.
□sette
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野暮用を思い出したから散歩してくる、と。
確かに自身の目の前に居るこの人はそう宣った。
「…なぁ、頼むよ」
「駄目です」
「煙草買いにちょっと抜けるだけなんだからいいだろーが、アンシェル」
「認めません」
最後の一本に火を付け、煙草の煙を吸い込む男──ヴァレリアスに、青年は頑として首を縦に振らなかった。
こんな今までで最も危険な外出の最中、彼を一人にさせるなどアンシェルには到底許せなかったのだ。
先日殺され掛けたのも手伝って、余計に。
「煙草なら部下に調達に行かせます。なので義父さんは此処で待っていて下さい」
「この前買いに行かせたら違う銘柄買って来やがったから嫌だ」
「……ならパッケージを貸して下さい」
「俺、3種類くらいの煙草をローテーションで吸ってるから」
「…………」
「…自分で買いに行って来るわ」
「せめて部下を数人同行させて下さい!」
「鬱陶しいや。要らねぇ」
黒塗りのリムジンから足を降ろし、ヴァレリアスは片手をスーツのポケット、もう一方を煙草に持っていきながら歩き出す。
何人かのSPが彼を止めようと声を掛けたり行く手を塞いだりと手を尽くす。
だがそれさえも飄々と躱していく養父の背中を、アンシェルは慌てて小走りで追い掛けた。
「義父さん…!」
「アンシェル、ちょっと面貸せ」
「……は…?」
まるで追って来るのを見計っていた様に、後ろで咎めを入れた途端にネクタイを掴まれ引っ張り込まれる。
どうしたら良いか分からない様子のSP達に待機するよう指示を出し、少々足早なヴァレリアスの後を追った。
後ろからでは、彼がどのような表情をしているかアンシェルには分からなかった。
sette