Please,forgive me.

□tre
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仕事





ソルは長い長い廊下を歩いて行く。

それはロウの執務室へと行く為の一本道であり、避けては辿り着く事の出来ない道だ。


特に苛々している訳でもなく、マイペースを決め込んで歩を進める。

が、何処となく足が遅い気がするのは何故だろう。


「…ハァ……」


溜息が漏れる程会いたくない、と言えば嘘になるが、無意識に出て来てしまうのはその現れなのだろうか。


無理もない事だ。

ロウがアジトに帰って来てからというもの、かれこれ3日は顔を合わせていない。

外出した時から、と言った方がこの場合正しいが、そうすると2週間は会っていないという計算になる。


今更会う、というのが少し気不味い。

と言うより、かなり気不味くなりそうだ。


今回はロウの方から呼び出しを掛けられた為、行かない訳にはいかない。

ソルは彼の執務室に入ったら先ず何を話そうかと、ぐるぐる思考を巡らせながら目的地へ向かった。


「………あ、」


何時の間やらもう着いてしまったらしく、気が付けば眼前には重厚な扉が鎮座していた。


室内に居る人物は、ソルが扉の前で佇んでいる事を気配で感じ取っている事だろう。

ソルは仕方なく、自分だと誇示する様にダグサスの時同様ドアを蹴り立てた。



ゴンッ!



「…入ってくれ」


今日はまた凄い音だ、と部屋の主が独り言ちたのが聞こえる。

そんな事気にした事か、とドアノブを捻ってソルは執務室の中へと足を踏み入れた。


「よぉ、ボス」

「久し振りだな、ソル。元気だったか?」

「見たまんまだ」


素っ気無い返事を返しながら、ソルは来客用であるソファにふんぞり返った。


随分と前からロウをボス、と呼んでいるが、未だに罪悪感が込み上げてくる。

決してロウが悪い訳ではない為、自分のエゴに付き合わせているみたいで酷く胸中が痛んだ。


しかし、今更ロウ、と呼べる程殊勝でもなく。


「急に呼び出してしまってすまない。忙しかったか?」

「アンタ程じゃねーよ。つーか俺、さっきまで居眠りしてたし」

「ははは。それは起こしてすまなかった」


ロウが何事もない様に笑顔で対応してくる為、予想通り気不味くなってきた。

ソルは少し彼を恨めしく思いながらも、そのまま話を続けた。


「仕事?」

「まぁな。だが今回の仕事は、お前にとって願ってもない“任務”だろう」


急に声のトーンを落とし真剣な眼差しを向けて向けてきたロウに、ソルは思わず溢れそうになった欠伸を飲み込んだ。


「お前の親父さんの消息が掴めた」

「え…」

「この国内に居る」

「!!」


ソルはロウを凝視する。

冗談ならばここで笑って欲しかった。

だがロウの神妙な瞳は途絶える事なく、ソルはこれが真実である事を悟った。


「…ダグサスに、聞いたのか?」

「何を?」

「俺の事…」

「……ああ」


ロウの返事を聞くと、ソルはギュッと唇を結んで黙り込んだ。



───正直な処、彼には知られたくなかったのかもしれない。



ダグサスの事だ、過去については一切口に出してはくれていないだろう。

だがソルの成し遂げようといている事は、聞けば聞く程過去に繋がる。

ここ(ルイゼッラ)の皆は深く探求したりはしないが、例外は必ずしもあると思う。



もし、ロウに問われたりでもしたら───…


ソルは隠し覆せる自信がなかった。



「…ソル」


急に名前を言われて、ソルはビクッと肩を震わせる。

その常とは違う彼女の様子に、ロウは努めて柔らかい笑みを浮かべ言葉を紡いだ。


「お前の過去については、“今は”問わない。だが時が来たら、話してくれないか?」

「…………」

「…無理にとは言わない。俺も今は、お前の力になれているのならそれで良い」


俯いて何も言わないソルに、ロウは優しく言い宥める。

その穏やかな声色に心地良さを見出して、ソルはゆるゆると肩の力を抜いた。


ローテーブル越しのソファに座り、詳しい情報内容を話す彼の存在に安堵する。

ロウ、とまた再び呼んであげたらどれだけいいか。


ソルは自分の天邪鬼さを酷く呪った。






















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