Please,forgive me.
□due
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ハバナの“友人”
ソルはその男の容姿に、思わず魅入ってしまっていた。
歳は20代後半だと思われる。
大人びていて紳士的なその顔立ちは、若さがまだ漲っており、彼の性格を連想させる明るい印象を湛えている。
スーツに身を包んだ体躯はしっかりと鍛えられ、長身である筈のソルの身長を優に超えていた。
180cmは下らないだろう。
短く切り揃えられた黒髪と、日焼けの所為か、少し浅黒い肌。
その中に存在している瞳は、まるで太陽の様に美しい輝きを持っていた。
オレンジに近い色合いの、澄んだ黄金の瞳。
トパーズの美しさにも劣らないその瞳に、ソルは我を忘れて自身の白銀の瞳を金色のそれへと向けていた。
「おい、質問に答えろ」
男は低く唸る様にソルに言い放った。
その声音に、ソルはハッと我と返る。
だがその反応は既に遅く、ソルの胸元には男が所持していた銃が突き付けられていた。
硝煙の匂いが微かに漂っている為、先程の標的を殺害したのはこの男だというのが容易に知れた。
「お前は誰だ? 何処のファミリーの者だ?」
「…人に聞く前に、先ずは自分から名乗れよ」
「質問しているのは俺だ」
ソルは内心焦っていた。
表情には出さないものの、もしこの男がルイゼッラを敵視するファミリーに所属していたならば、此処で口止めとして殺さなければならない。
───自分の命に換えてでも。
こちらが手を動かせば、相手もまた同様に引き金を引くだろう。
命に換える、と言っても、道連れにして共に死ぬ事自体、気が引ける。
それに、目の前の男の瞳の輝きを奪ってしまう事に、何故か抵抗を感じた。
殺してはいけない──と、感情ではない何か──本能的なものが、警鐘を鳴らしていた。
「…俺はヨーロッパ諸国のとあるファミリーの者だ。今回は仕事で此処(ハバナ)に来たにすぎない。俺はどこかのファミリーと争う気はない」
「聞き捨てならねーな。まさかとは思うが、お前の言う仕事というのは後ろの奴等か?」
男は顎で3体の死骸を示す。
ソルは振り返る事なく、男と対立したまま冷静に答えた。
「そうだ」
「ほう、それじゃあ話が合わねーな。争う気がねーのなら、何故人の獲物を取るような真似をする?」
「アンタの標的だったとでも言いたいのかよ」
「言いたいんじゃない。そう言ってるんだ」
「何だと?」
ソルは瞳を見開いて、口元を歪めている男を凝視した。
既にこの男に自分が動揺している事は悟られているであろうが、彼女はそれを今更隠すような事はしなかった。
何故、標的が重なってしまったのか。
それが一番の謎だった。
依頼人が同時に2つのファミリーや殺し屋に、依頼を任すなどあってはならない。
そんな事をすれば、沽券に関わってしまうからだ。
別の依頼人に雇われたか何かの方が可能性は高いが、この様にして殺し屋が鉢合わせる事は非常に稀である。
ましてや、その場で火花を散らせるなど尚更だ。
ここは穏便な処置で早く解決したいものだ。
「…アンタの標的を殺っちまったのは謝る。でも誤解するなよ。俺もあの3人が仕事だったんだからな」
「お前は一体どこのファミリーの者なんだ?」
「だから言っただろ。ヨーロッパだよ。アンタのファミリーに、ヨーロッパの連中に恨みでも買ってる奴でもいるのか? そういうアンタこそ何ていう名のファミリーなんだ?」
ソルは気が済んだとばかりに男の首から剣を下ろし、仕舞い込む。
そして男の眼前でざっと身なりを整えると、再度彼に問うた。
「名乗れよ。どこのファミリーの者なんだ? アンタ、」
「…………」
じっと、眩しい黄金の瞳を見つめる。
すると、男は何を思ったのか、ソルに宛がっていた銃をゆっくりと彼女の胸元から下ろした。
「…俺の名はローレンス・ヴェローナ。ハバナのシマを治める、ルイゼッラ・ファミリーの頭取だ」
「!! …何、だと…っ!?」
ソルは自分の耳を疑った。
こんな偶然は、とてもじゃないが信じ難かったからだ。
だが、この男は確かにこう言った。
ローレンス・“ヴェローナ”と。
ヴェローナ──それは、ダグサス・ヴェローナの息子だと証明されると同時に、次期・ルイゼッラ・ファミリーのボスと確信させられる名であった。
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