しょうせつ

□岩男SSS
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[哲学びと/金属と空気]



生きているのかと言われて
いや、違う。
と答えて

では死んでいるのかと聞かれて
いいや。
と答えた。




彼は一番人らしく、
また機械らしい存在だとエアーは思う。

他の兄弟ナンバーが
個性的ではあるが、人らしく感情を持ちえているなかで
メタルはただ一人物思いに耽っている。

何を考えているか解らないと
皆に言われていたので
エアーは一言は彼に訊ねたのだ。
「いつも、何を考えているのだ?」と。



彼は単純にこう答えた
「例えば、私たちは」

「生きているのだろうか。」

と。



金属の名に違わず
静かに、それでも重みを持って。
その言葉のひとつ1つが
やけに胸の中で半濁された。

彼はこうも答えた。


「生きているのではないとしたら」
「我々は死ぬこともない」

「だとしたら、人の求める永遠とは
なんと呆気なくこの身に宿っているのだろうかと。」



彼の憂いは
その目に密やかに、かつ爛々と悶えていた。
そして何処までも真っ直ぐ、
俺の目に疑問を投げ掛けていた。

彼の考える事は
何という機械らしからぬ 純粋な疑問であろうか。
そして 彼は何故そう考えたのだろうか。

もだもだと、止まる事なく
湧き上がる言葉の数々を
どう表現すれば良いのかわからず
俺はただ一言だけを返した。


「どうしてそう…
難しいことなど考えるのだ?」



今になってからは言えるが
何故俺はこんなにも言葉足らずなんだろうか。
もっと良い言い方があっただろうに。



だが兄は
俺にとってたった一人の兄は、

そんな一言に眉もひそめず
目尻をあげて
ただ 嬉しそうに言ったのだ。




「俺がロボットであり、」
「博士の息子であり、」

「お前たちの、兄であるからだ。」




口元を隠し
メットに包まれた兄は
お世辞にも表情豊かだとは言えない。

だが
その一言をいったときの彼の顔は。




「…まるで。」


遠くの兄弟たちが
何やらやらかしているのを
優しそうに見守る彼に

俺も一言だけ 伝えようと思う。







(あんたは、人みたいだ。)





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