土沖novelU
□snow mermaid
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「あちぃ」
夏休み明けの気だるさとラッシュ時の喧騒に眉をひそめる。
何が楽しいのか喋り続ける女に不快指数は増すばかり。
「ねぇ、聞いてるの?」不満げに手を引っ張られた。
一度寝ただけで彼女面か‥
面倒くせぇと思いつつ、ああと頷いた。
それでねと話す内容など右から左に流す。
キキーッ!とあるマンションに差し掛かった頃急カーブを曲がる。
しっかりと足に力を入れた。
これが毎朝続くのかと思うとゾッとする‥‥
と思った瞬間、暑さを吹き飛ばす出来事が起きた。
「うわっ」
足元に微かな痛みが走った。
それすら忘れるぐらい綺麗な紅い瞳。
絹糸のような蜂蜜色が目の前に広がる。
透けるような白い肌と
バラ色の頬に心奪われた。
身動き1つ出来ないほど密着する細い体。
今まで会ったどの女よりも美しい人。
その場所だけにミントブルーの風が吹き抜けた。