土沖novelU
□忘れ物
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「トシ、ちょっと」
稽古を終え総悟の足を拭いていたら近藤さんに
呼ばれた。
「此処で言えば良いじゃねぇか」
ほら終わったぞと総悟を部屋に上げた。
いや‥俺の部屋で。
歯切れの悪い答えが返る。
仕方ねぇなと重い腰を
上げた。
「急で悪いが明日江戸に行ってくれないか?」
すまん。トシ!と深く頭を下げる近藤さん。
「ちょ、頭上げてくれよ。」
髪を掻き煙草をくわえた。
「さっき師匠から頼まれてな」
聞けば剣術の試合に俺達2人を推薦したらしい。
「俺はそんなの興味ねぇ」
断ってくれと背を向けた。
「無理にとは言わないが勉強にはなると思うぞ?」
今回は俺1人で行くわ‥
寂しそうな笑いを浮かべ師匠の部屋へ向かった。
「俺も連れて行ってくれ」と近藤さんを追う。
「行ってくれるか!トシ」
明日は早いからもう休めと豪快に笑った。
俺は自室に戻り「行くのは良いが総悟にどう伝えるか」と考える。
布団に疲れた体を横たえた。
ドタドタ!けたたましい足音が聞こえる。
「土方さん、明日は魚釣りでさ」
にこにこ顔の総悟がすり寄る。
「ごめんな、約束駄目になった」と小さな体を抱き寄せた。