novel3 Sunday

□メルティ・キス
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〜メルティ・キス〜
(社長パラレル)


「今年は『逆チョコ』なんてどうかな?」
「絶対流行りません」

よく回転する社長室の椅子を窓側に向けて、長い脚を組んでいる。
そのスラリとした長い脚は、普段なら私はなかなか見ることは出来ないので、さりげなく目に焼きつけておく。
ヒノエ社長はよく、秘書である私に企画の相談をしてくる。
私が出来ることといえば、社長のスケジュール管理や、顧客との会合などの時間調整などが主なのに、企画の内容について的確な意見など出来るはずがない。
しかし、ヒノエ社長はそれでもしつこく私に、企画を思いついては意見を求めてくる。
うちはチョコレート会社だから、バレンタインの話になるのも至極自然なことだ。

「男性から女性にチョコレートを贈る、なんて結構ありそうでなかったからさ。いいと思うけど」

私は、はあ…と適当に相槌をうっておく。
チョコレート会社に勤めていながら、私は正直バレンタインには興味がない。
本命チョコなんかを用意しても、相手はさらりとかわして他の子からの贈り物を笑顔で受け取るに違いない。

…ヒノエ社長は公的には近い立場にいるけれど、プライベートでは決して交われない存在。
そんなことが分からないほど馬鹿ではない。

「男性から告白するきっかけがあってもいいんじゃないかな?」
「…悪くはないと思いますが、浸透はしないと思います」

ヒノエ社長はまた、くるりと椅子を回し、ふかふかの椅子からそっと降りた。
私は、何事だろうと身体を強張らせた。

「…例えば、どんなにきっかけがあっても告白できい女性のため、だとも言えないかい?」
「…?」

社長の身体が近づいてくる。
私は動けない。
ただ、その意味深な瞳と、私の中でなにも繋がらない言葉に首をかしげるだけ。

「こんなふうに、」

手を握って、という言葉と同時に社長の手は私の手を包み、そこから一気に私の体温は上昇した。
そして、まるでスローモーションのように薬指が彼の口元までもってゆかれ、心臓の大きな音をBGMに、やっと唇で食まれる。
指から感じる熱い吐息に、ヒノエ社長の瞳をぼんやりと見つめると、小さな私の像が甘く沈んでゆく。

「すきだよ、おまえが」
「じょ、冗談はやめてください」

すると、形の良い唇に弄ばれていた指が、やわらかいものでなぞられる。
れろりと舌の感触を感じて、濡れた指先にやけに神経が集中しているような気がした。

「まさか、おまえの気持ち、気付いていないとでも思っていたのかい?」
「…遊びなら、やめてください」
「遊びなんかじゃない。
 あんなにオレが企画と称して告白のきっかけをあげたのに、全然行動を起こしてくれないから、さ。
 とうとう焦れて、こっちから言ってしまったくらい、」

――…すきだ。


やっと解放された指先の痺れに酔うのもつかの間。
彼の唇が代わりに捕まえたものは、驚きのあまり半開きになっていた私の唇で。


〜メルティ・キス〜

それはまるで、とろけるような。



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某製品名ではありません笑
社長×秘書ってだいすきです。

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